「帰ったら、結婚しよう」と言った幼馴染みの勇者は、私ではなく王女と結婚するようです

しーしび

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 アリーチェは薄っぺらい笑みを浮かべる神父が大嫌いだった。

「何が、素晴らしいよ。この子に、手を出すなんて・・・」

 今までオルティラ達が子どもが魔族であることも知らずにこれた理由はただ一つ、この神父が手引きしたから。
 アリーチェが教会を離れた後、神父がこの子の首を斬り、そして箱ごと彼らに渡した。

「どうなって・・・いるのよ・・・なんで? なんで? だって、王都に魔物なんて・・・」

 マルティラは頭を抱えてぶつぶつと呟き始めた。
 彼女は、目の前の現実が受け入れられないよう。
 そんな彼女が煩わしかったのか、神父はため息を吐いた。

「少しは頭を使っては? 人間どもが進化するように我々魔族も進化するのです。何百年もあれば多少の浄化魔法への耐性はつきます。一時的なら魔族と感知されないように操作する事だってね」
「貴方も魔族なの? 嘘よ・・・」
「貴方ごときに嘘を言ってどうするのです」

 神父にそう言われ、マルティラの顔が羞恥心でカッと赤くなる。
 認めたくないのだろうか、彼女はこの場ではあまりにも無力。
 お城の外にいるお友達を利用していたつもりだろうが、彼女は彼に利用されただけ。

 馬車で気を失ったのもそう。
 この男が教会の食事に特別な何か混ぜた。
 そうでないと、アリーチェが気づかないようにする方法はない。
 実際、オルティラはアリーチェが何者なのか、知らなかった。

 全て、この神父がしでかした事。

「どこから仕組んでいたのよ」

 アリーチェは神父をギラリと赤く光る瞳を向けた。

 なぜこの子に手をかける必要があったのか。
 アリーチェはどうしようもない怒りに襲われた。

 まだ身を守る方法も知らないこの子たちは、人間たちの手から逃れるためにここに来た。
 田舎で身を隠すよりも、人間たちが魔族などいないと安心しきっている王都内の方が目眩しにちょうど良かった。
 魔族たちにだって知力はある。
 次の時代へ力を受け継がせ、魔族達は強くなっていく。
 だから、次の世代が生き延びるためには、人間たちの隙をつき、彼らが生活の支えにしている教会に身を潜めた。
 人々は魔族を倒す力のある教会に魔族がいるなど想像もしていない。
 浄化魔法が使えると偽装する方法はいくらでもあった。
 だから、この神父だって神に使える気もないのに教会で素知らぬ顔をして暮らせていた。
 が、それもこの子ども達を守る為。
 なのに、この神父は目的も忘れたのか、この子たちに手を出した。
 それもなんの罪悪感もなしに。

「困りましたね。説明するのは少し難しい」
「言いなさいよ! 」

 アリーチェの怒鳴り声と同時に、魔力の塊が放たれた。

「おっと」

 神父は黒い翼を広げ、それを交わす。
 魔力の塊は、神父の後ろに並び立っていた木々を軒並み倒していった。
 マルティラはその威力に「ヒィッ」と声を上げた。
 神父は、アリーチェの魔力にまた感嘆のため息を吐き、にこやかにこちらを向いた。

「我ら主人──魔王陛下の命令通り、あなたをあの森に連れて行った時からですよ」

 神父は嘘くさい笑みを浮かべて、アリーチェに言った。  
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