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第二章
ぶらり散策
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公園の駐車場に車を置いたまま、私らは町の中を散策してみることにした。
町は端から端まで一キロぐらいしかないので、徒歩でも簡単に見て回れる。
先ほど声を荒げていた桃ちゃんは未だ不機嫌さを露わにしており、井澤さんの顔を視界に入れようとしなかった。
けれど、途中で立ち寄った古い商店でアイスを井澤さんに奢ってもらうと、その後はいくらか表情が和らいだように見えた。餌付け完了である。
町の中はほとんどの土地が戸建ての家で埋まっていたが、ちょうど町の中心を横切る主要道路の周りだけは、スーパーやコインランドリー、食事処など、いくつもの店で賑わっていた。
そして、そこから少し逸れた道を進んでいくと、前方に何やら大きな建物が見えてきた。
「あれが桜ヶ丘小学校だ。この町に住む子どもは、みんなあの学校に通ってる」
井澤さんが言った。どうやらこの町唯一の小学校らしい。
三階建ての、白っぽい横長の校舎が見える。
正面玄関の手前には、緑の葉をつけた立派な桜の木が立っている。きっと入学式のシーズンには美しい花を咲かせるだろう。
「この小学校も、すずの記憶と何か関係があるんですか?」
隣から沙耶が聞いた。
「まあな。本人が思い出すかどうかはわからないが」
井澤さんが言うと、三人の目が一斉に私を見る。
「え。あの……そんなに見つめられると緊張するんだけど」
「大丈夫だ、すず。お前は世界で一番可愛い」
「いや、そういう問題じゃなくて」
彼らに期待されたところで、私の記憶が戻るのかどうかはわからない。そもそも比良坂すずとは無縁のこの地で、私は一体誰の記憶を思い起こそうとしているのだろう?
せっかくこうして遠出してきたというのに、もしもこのまま何も思い出せなかったとしたら、なんだか皆に申し訳がない。
何か手掛かりになりそうなものは——と考えたとき、ふと頭を過ったのは、先日井澤さんから見せてもらった一枚の写真だった。
「井澤さん。前にスマホで見せてくれた写真がありましたよね。川に橋が架かってる写真。あの場所ってここから近いんですか?」
「ああ、あれな。山を下りてすぐの所だ。車で行けば五分もかからない」
青々とした山をバックに、川の上を細い橋が横切っている写真。もともとはあの場所へ連れていってくれるのだと井澤さんも言っていた。
「何の変哲もない川だけど、とりあえず向かってみるか。昔はよくあそこで遊んだしな」
「え?」
彼の何気ない一言が、私には引っかかった。
昔はよくあそこで遊んだ。
それは、一体誰の話をしているのだろう?
まるで当時の様子をその目で見ていたかのような彼の口振りからすれば、遊んでいたのは彼自身か、あるいは彼がよく知る人物ということになる。
井澤さんはこちらの視線に気づくと、一瞬だけ目を丸くして、すぐに顔を逸らして言った。
「もうじき腹も減ってくる頃だろ。橋を見終わったら、麓の方で飯にするか」
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