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第三章
彼女の家へ
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次の日。
俺が朝から登校すると、教室中がどよめきに包まれた。
「えっ、うそ。井澤が二日連続で朝からいる」
「槍でも降るのかな?」
周りは好き放題に言ってくれるが、俺は特に気にしない。いま興味があるのは愛崎のことだけだ。
「おはよう、井澤くん」
昨日と同じく、愛崎は完璧な作り笑顔で俺に挨拶した。クラスで浮いている問題児にも分け隔てなく接する女神。その所作の一つ一つに、周りで傍観している男子どもは漏れなく骨抜きにされている。
しかし昨日言っていた地図はこの時点では渡されなかった。周りの目があるからか。クラスメイトたちに少しでも悟られまいとする徹底ぶりは、もはや並大抵の意思ではない。
その日は結局、彼女から直接地図を手渡されることはなかった。
放課後になり、今日はタイミングがなかったのかなと少しだけ残念な気持ちで帰り支度をしていると、
「……ん?」
俺のカバンの中にいつのまにか、それは入っていた。
綺麗に四つ折りにされた、花柄の便箋。カバンの中でこっそり広げてみると、そこには簡単な地図が描かれていた。
『家にくるときは、私と時間をずらしてね。一緒に歩いているところを見られたらこまるから。』
ご丁寧にそう書き添えられた紙を、俺はそっと折り畳んでポケットに押し込む。
彼女が、家で待っている。
かなりワガママな要求をされているような気はするが、なぜかそれに応えようとする自分自身の行動が不思議で仕方なかった。
小学校を出て北へ進み、突き当たりにあるバスターミナルの手前を左へ曲がる。さらにその先にある交差点を右に曲がり、すぐ左に入ってまた右へ曲がる。住宅街の細い道をジグザグに曲がっていくと、やがて目的の家は姿を現した。
白塗りの壁に、黒っぽい灰色の屋根。二階建ての一軒家で、門柱に掲げられた表札には『愛崎』の文字。
(ここで合ってる……んだよな?)
少しだけ緊張しながらインターホンを押すと、すぐに玄関の扉が開いて愛崎が顔を出した。彼女は周りの目を気にするように無言のまま、おいでおいでと手招きする。
これではまるで怪しい取引でもするみたいだ。
「どうぞ、座ってて。すぐお茶を持ってくるから」
一応客人としてもてなしてはくれるらしい。グラスに注がれた冷たい麦茶と、皿に並べられたクッキー。リビングのローテーブルで、俺と彼女は肩を並べて宿題を始めた。
(って、本当に宿題をやるんだな)
宿題はただの口実で、実際には他の遊びでもやるのかと思っていたけれど、違ったようだ。このクソ真面目な学級委員長は有言実行の精神に取り憑かれている。
「よっし。できた!」
「もう終わったのか?」
彼女は驚異的な早さで宿題を終え、さらには明日の授業の予習にまで手を出す。
対する俺はどうしても解けない問題があり、彼女の手ほどきを受けながらなんとかそれを終わらせた。
「ね、井澤くん。ちょっと見せたいものがあるんだけど、いい?」
愛崎は予習を終えると、どこか改まったように言った。
「見せたいもの?」
何、と聞く前に、彼女はいそいそとその場に立ち上がったかと思うと、着ているワンピースの裾をおもむろにたくし上げていく。
「え……、ちょ、えっ!?」
スカートの裾が上へ上へと引っ張られていき、その下から白い脚がどんどん露わになる。
「いやいやいや! ちょっと、何してんの!?」
いきなり何を始めるのかと、俺は目を剥いた。
愛崎は手を止めることなく、にひっ、とまたイタズラっぽい笑顔を見せる。
学校ではけして見せない裏の顔。にしても、今回のこれは鼻にピーナッツどころの話ではない。
彼女の言う『見せたいもの』というのは、まさかのまさかでスカートの中身だというのか?
「や、やめろって!」
俺はたまらず両手で目を覆った。女子のスカートの中身なんて、気にはなるけど見てはいけないものだ。
しかし当の愛崎は、
「井澤くん。見て。大丈夫だから」
などと訳のわからないことを言う。
その後も何度も名前を呼ばれ、やがて根負けした俺は恐る恐る手をどけた。
そして、
「……は? 何それ」
その目に飛び込んできた光景に、思わず呆然とする。
「えへへ。似合ってる?」
愛崎は少しだけ照れたような笑みを浮かべ、スカートの裾を腹の高さまでたくし上げていた。露わになった下半身には、女の子の下着……ではなく、男物のトランクスが存在を主張していた。
「それって……男子の下着じゃないか。見せたいものって、それのこと?」
「そ。私、学校で着替える予定がない日は、こっそりこれを穿いていってるんだ。どう? 似合うでしょ?」
俺は何と返事をすればいいのかわからなかった。
愛崎の容姿は正直、女子の中でもかなり可愛い方だと思う。清楚系のスカートが似合う、いわば美少女だ。
そんな彼女のスカートの下が、まさかの男物の下着。
世の中には『ギャップ萌え』なる言葉も存在すると聞くが、それにしたってこれは考えものである。
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