あやかし警察おとり捜査課

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第一章

張り込み中は静かにしてください

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 栗丘がしぶとくついて行くと、やがて絢永は細い通りの角で止まった。
 眼鏡の奥に光る視線の先を追うと、そこには一軒の店が見える。古びた看板にはでかでかと『斉藤商店』の文字があった。

「そうか。斉藤さんの店か!」

 なるほど! と栗丘は大声を上げて納得した。

「しっ。大きな声を出さないでください!」

 心底腹立たしげに、絢永は小声で注意する。
 そのまま彼は街路樹の陰に隠れるようにして、息を殺して店の方を眺めていた。

「もしかして、今からここで張り込むつもりか? 勤務時間外なのによくやるなぁ」

 感心半分、呆れ半分といった顔で栗丘が唸ると、

「あなたね。いま自分の置かれている状況をちゃんと理解してます?」

 絢永はちらりと疑わしげな一瞥をくれてから、再び店の方へと目を戻す。

「わかってるよ。斉藤さんの問題を解決しないと、あの御影って人から情報はもらえないって話だろ?」

 それがどうかしたのか? と栗丘が迷いなく聞くと、「簡単に言ってくれる……」と絢永は今度こそ目頭を押さえて栗丘を睨んだ。

「あのね。御影さんは警視長の人間なんですよ。警視長! 普通はこんな機会を与えてもらえること自体滅多にない……というか、まず有り得ないんですよ。めちゃくちゃ貴重なんですよ。なのに、もしあなたが今回の件でしくじったら、せっかく御影さんが用意してくれたこのチャンスを棒に振るんですよ。その重大さって理解できてます?」

「なんだよお前。やけに御影さんのことが好きなんだな」

 まるで見当違いの反応を見せる栗丘に、はあぁ……とまたもや深い溜息を吐く絢永。

「彼は、僕にとっての恩人です。でも、それを抜きにしたって、彼の仕事ぶりを見ていればまず頭が上がりません」

「仕事ぶり? あの飄々とした感じでそんなこと言われても、あんまりピンと来ねーなぁ」

「まあ、ノンキャリアで出世欲もない能天気なあなたには、一生わからないでしょうね」

「な、なんだとぉ!? もっぺん言ってみろ!」

「あなたのようなノンキャリアで出世欲もない能天気な人には一生わからないでしょうね」

「……ほ、本当にもう一回言うやつがあるかぁ!!」

 栗丘が半ば叫ぶように言うと、ちょうど店先に出てきた件の男——斉藤が、こちらの声に気づいたのか不思議そうに辺りを見渡した。

「隠れて!」

 咄嗟に絢永が手を伸ばし、栗丘の体を木陰へと強引に引き入れる。
 小柄な体はいとも簡単に絢永の胸へすっぽりと収まり、そのまま口元まで塞がれた栗丘は呼吸をすることさえままならなかった。

「……気のせいか」

 やがてぽつりとそう呟いた斉藤は、とぼとぼと店の奥へ戻っていく。
 その姿を見届けて、絢永はやっとのことで栗丘を解放した。

「危なかった……。危うく見つかるところでしたよ」

「ぶっは! ……てめっ、鼻まで押さえんな! 窒息するだろ!」

 はあはあと肩で息をしながら栗丘は訴えるが、当の本人はつーんとしたまま店の方を無言で見張っていた。

 と、そこで栗丘ははたと気づく。

「そういやお前、なんで今回の件にそこまで乗り気なんだ?」

「はあ? そんなの、早く事件を解決したいからに決まっているでしょう」

「でもさ、今回の件を無事に解決できたら、俺はその……特例対策……ナントカって部署に入ることになるんだろ? お前は嫌じゃないのか?」

「嫌に決まってるでしょ。元よりあなたと二人で事件を解決する気はありません。僕が一人で片付けて、あなたにはとっとと戦力外通告で消えてもらいます」

「またまたぁ。本当はそのナントカって部署に俺にも入ってほしいんだろ? それでお前もそんなに張り切ってるんだろ」

 ほれほれ、と嬉しそうに肘を押し付けてくる栗丘に、絢永は死んだ魚のような目を向ける。

「どこまでおめでたい頭をしてるんですか、あなたは」

「照れんなって。お前がその気なら、俺もそろそろ本気を見せなきゃな。てことで、ここは俺に任せとけ!」

 言うなり、栗丘は威勢よく木陰を飛び出すと、そのまま店の方へすたすたと歩いていく。

「ちょっ、ちょっと! 一体どうするつもりですか!?」

「どうするって、直接本人と話すんだよ。その方が手っ取り早いだろ? そんな所で隠れて見てたって、あと何日かかるかわからないじゃないか」

「勝手なことしないでくださいよ! ……あーもうっ!」

 絢永の制止も聞かず、栗丘はどんどん店に近づいていく。
 やがて再び店先に現れた斉藤が栗丘に気づくまで、それほど時間はかからなかった。
 
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