あやかし警察おとり捜査課

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第一章

ポンコツな彼は引き寄せ体質

 
「本当に何を考えているんだ、あの人は……」

 信じられない、という目で店先を見つめる絢永の後ろから、

「まあまあ。いいじゃないか」

 と、どこからともなく現れた狐面が肩を叩く。

「おわッ! 御影さん!? いつのまに僕の背後に」

「ふっふっふ。まだまだ鍛錬が足りないようだねえ、絢永くん」

 そう得意げに笑った御影の白い面は、日没後の暗い路地で見かけるととんでもなく不気味だった。
 彼は足音も立てずに絢永の隣へ移動し、同じように店の方を眺める。

「てっきり二人ともケンカ別れして帰ったのかと思ったけど、仕事熱心でびっくりしたよ。意外と仲良くやっているようだねえ」

「違います! 僕が仕事熱心なのはその通りですが、あいつはただ遊び半分でついて来ただけです。はっきり言って邪魔です。本来ならまだ斉藤さんを刺激する予定ではなかったのに、あいつが勝手に」

「まあいいじゃないか。ちょうど私もこの目で見てみたかったんだよ。栗丘くんの特殊な体質をね」

「体質?」

 御影の口にしたそのワードに、絢永は首を傾げる。

「私が栗丘くんを候補生として選んだのには、ちゃんと理由があるんだよ」

「そんなの、彼にはあやかしが見えるから、という単純な理由でしょう。あやかしを認知できる人間はもともと少ないですし、それが警察の中にいるのなら都合が良い、ということなのでは?」

「もちろんそれもある。だけど、それだけじゃない。彼はね、『引き寄せ体質』なんだよ」

「引き寄せ体質? 何ですかそれは」

 こそこそと話す彼らの視線の先では、栗丘と斉藤が楽しげに会話している。
 見た目だけでなく中身も子どもっぽい栗丘に、斉藤はどこか安心感を持っているのかもしれない。

「栗丘くんにはね、あやかしを引き寄せる体質があるんだよ。あの斉藤という人物も、あの交番にやってきたのはただの偶然じゃない。本人が意識していたかどうかは別として、栗丘くんに引き寄せられてやって来たんだ」

 あきらかに確信を持った口ぶりで言う御影に、絢永は困惑の色を浮かべた。

「あやかしを、引き寄せる? そんな体質の人間が本当にいるんですか?」

「私も最初は半信半疑だったんだけどね。栗丘くんのことをしばらく観察させてもらってわかったよ。彼はまごうことなき引き寄せ体質だ。……君は、栗丘くんの胸ポケットに入っているあやかしの存在に気づいていたかい?」

 思いもよらぬ質問を投げかけられて、絢永は動揺した。

「胸ポケット? ……いえ」

 栗丘とは先ほどまで近距離で会話をしていたが、その間も彼の周囲にあやかしの気配を感じることは一度もなかった。
 彼の胸ポケットに潜んでいたというその存在に気づけなかったことに対し、絢永は「すみません……」と己の未熟さを恥じる。

「いやいや。別に謝ることじゃないよ。あのあやかしは特別で、私がわざと放ったモノだからね」

「わざと? それはどういう……」

「あっ、いけない。栗丘くんが誘拐される」

 まるで子どものイタズラでも見つけたように御影が言って、無意識の内に彼の顔を覗き込んでいた絢永はすかさず店の方へと視線を戻した。
 するとその目に飛び込んできたのは、栗丘の背中をぐいぐいと押して店の奥へ招き入れようとする斉藤の姿だった。
 栗丘はしきりに遠慮するようなジェスチャーをしているが、体格差がありすぎてほとんど相手の良いようにされている。

「詳しい話は後にしよう。あのまま放っておいたら、おそらく栗丘くんはあやかしに食べられてしまう」

「呑気に言っている場合ですか。予定は狂いますが、僕も斉藤さんと接触しますよ」

 すかさずその場を飛び出そうとした絢永に、

「待った」

 と、御影は至極落ち着いた様子で引き留める。

「どうして止めるんですか。このままだと手遅れになりますよ」

「焦る気持ちはわかるけど、ギリギリまで様子を見よう。いま接触したら、あやかしは斉藤さんの体に引っ込んで隠れてしまうかもしれない。現行犯でないと、取り逃がしてしまう可能性がある」

「それってつまり、あのポンコツ候補生を見捨てるってことですか? いくら出世の見込みのない落ちこぼれだからって、それはあんまりですよ」

「清々しいくらい辛辣だねえ、絢永くん」

 御影は狐面の奥でからからと笑うと、店の奥に消えていく二人の背中を改めて見据えた。

「酷なようだけど、栗丘くんにはエサになってもらう。それこそが、私が彼を選んだ理由だからね」

 斉藤は店の中に栗丘を完全に引き入れると、入口の扉に鍵をかける。

「引き寄せ体質である彼をおとりとし、正体を現したあやかしを絢永くんが撃退する。そういう作戦さ。どうだい? 君たちが大事な相棒同士になるという意味、これでわかってくれたかな?」

「それって、あの落ちこぼれを常に危険に晒すってことですよね?」

「優秀な君が守ってやれば大丈夫だよ。心配はいらない。何たって君は、この私が手塩にかけて育てた一番弟子なんだからね」

 そう話している間にも、店の方からは確かなあやかしの気配が漂ってくる。
 おそらくは斉藤に取り憑いているモノが正体を現したのだろう。

「さて、そろそろ行こうか。君たち二人の活躍に、私は心の底から期待しているよ」
 
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