あやかし警察おとり捜査課

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第二章

秘密の捜査はちょっと不安

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 昼休憩になり一旦解散すると、栗丘は庁舎内にある食堂へと向かった。
 カツカレーを注文して席に着くと、私用のスマホに届いていたメッセージを確認する。

『今夜九時に駅前でね❤︎ 逃げたら死刑!』

 マツリカからだった。

 昨夜SNSを通じて彼女から提案されたのは、『栗丘とマツリカの二人だけであやかしを退治する』というものだった。
 彼女曰く、御影に実力を認めてもらうにはあやかし退治の功績を見せつけるのが一番手っ取り早い方法だというのだ。

 ——でも、絢永は連れて行かなくていいのか? あいつがいないと、あやかしにトドメを刺せないんじゃないか?

 ——わざわざあいつを連れて行かなくったって、あいつの武器があればそれで十分。あたしも同じモノを持ってるし、使い方はわかってるから。

 本当に大丈夫なのか? と不安になる栗丘に、彼女は奥の手と言わんばかりの殺し文句を送信した。

 ——あいつよりあんたの方が頼りになるってところ、見せてよ。ミカゲもあんたには期待してるし、あたしも信じてるから。

 そこまで言うなら仕方がない、と昨夜の栗丘は鼻高々にOKを出した。
 が、今朝の講座であやかしの凶暴性を知った今となっては、いささか不安が募る。

 しばらくスマホの画面とにらめっこしていると、やがてカツカレーが出来上がったようだった。
 アツアツで湯気の立つそれを持って再び席に戻り、どこか上の空のまま食べ始めると、そこへ聞き覚えのある声が不意に届く。

「怖いんでしょう」

 栗丘が顔を上げると、テーブルの向かいには絢永が立っていた。
 彼はそのまま椅子を引いて、栗丘の斜め前の席に腰掛ける。

「絢永? なんだよ、いきなり」

 栗丘が口の中をいっぱいにしたまま聞くと、絢永は眼鏡の奥から鋭い視線を向けて言った。

「御影さんの説明を聞いて、怖くなったんでしょう。さっきは大丈夫だと言ってましたけど、強がりですよね」

 まるで決めつけるように言われて、栗丘はムッとした。

「べ、別に怖くなんかないし。そりゃあ、さっきはその……御影さんがいきなりあんな写真を出すから、ちょっとびっくりはしたけどさ」

「さっきのあなた、声が震えてましたよ」

 指摘されて、栗丘は今度こそ返す言葉がなかった。

「別に、今からでも降りていいんですよ。あなたが嫌だと言えば、御影さんはすぐにでもあなたを任務から外すでしょう」

「で、でも俺は! あやかしのこととか、知りたいことがいっぱいあるし」

「あなたのご両親の事件のことだって、御影さん以外にも詳細を知っている人間がいるかもしれないじゃないですか。わざわざ危険だとわかっていることに首を突っ込まなくたって、情報を得る方法は他にもあるはずです」

 絢永の声は冷たいが、言っている内容はまるで栗丘の身を案じているようでもある。

「もしかして心配してくれてるのか?」

「そんなんじゃありません」

 ふいっと視線を逸らしながら絢永が言う。
 素直ではない彼のそんな様子に、栗丘は思わず笑みが漏れた。

「ありがとな、絢永。でも俺はやっぱり、あやかしのことをもっと知りたいんだ。親のことだけじゃなくて、このあいだの斉藤さんみたいに、あやかしに憑かれて暴走してしまう人がいるなら、そういう人のことも放っておけないしさ」

「あなた自身、死ぬかもしれないんですよ。それでも続けたいんですか?」

「警察官なら誰だって、危険は承知の上だろ。今さらだよ。それよりお前、飯は食わないのか? ちゃんと食っとかないと、丈夫な体になれないんだぞ」

「あなたにだけは言われたくないです」

 言うなり、絢永はもう用事は済んだとばかりにさっさと席を立ってどこかへ行ってしまった。


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「おっそ——い!! 約束の時間から二分も過ぎてるんですけど!」

 午後九時二分。
 待ち合わせに遅れてやってきた栗丘は、マツリカの前に到着するなり息を切らしながら謝罪した。

 祖母の病院からこの駅まで、予定ではギリギリ時間内に到着するはずだったのだが、人身事故の影響で列車のダイヤが大幅に乱れてしまったのである。

「罰としてジュース奢ってもらうから!」

「はいはい」

 思いの外かわいい罰に内心安堵しつつ、栗丘は近くの自動販売機でミルクティーを買った。

「で、あやかしの出没しそうな場所っていうのは目星が付いてるのか? まさかとは思うけど、あてもなしに街中をぐるぐる歩き回るつもりなんじゃ」

「あたしを誰だと思ってるの?」

 ふふん、とマツリカは両腰に手を当てて言う。

「あたしはね、あんたたちよりも何倍も『鼻』が効くの。どれだけ遠く離れたあやかしの気配でも、あたしの鼻ならすぐに探り出せちゃうんだから」

 言い終えるが早いか、彼女は駅とは反対の方角へすたすたと歩き始める。
 慌てて栗丘が後を追うと、彼女は道の先を真っ直ぐに指差して笑みを浮かべた。

「こっち。歩いて二十分ってところかな。あやかしのニオイがぷんぷんしてくる。さっさと片付けちゃって、ミカゲのこと見返してやろ!」

 さっそく標的を見つけたらしい彼女の能力に栗丘は舌を巻く。
 と、そこでふと疑問に思ったことがあった。

「そういえば、どうしてそこまで俺に協力してくれるんだ?」

 俺は嬉しいけど、と栗丘は頭をかく。
 マツリカは一瞬肩を跳ねさせて立ち止まったが、再び歩き出すと、どこかぎこちない笑みを栗丘に向けて言った。

「そんなの、善意百パーセントに決まってるじゃん!」

「そっか。そうだよな」

 優しいなぁ、とデレデレしながら、栗丘は彼女に案内されるまま夜道を進んでいった。
 
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