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Chapter #1
賑やかな食卓
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次に目が覚めたときには、すでに日が暮れていた。
(……あれ?)
真っ暗な空を映し出す窓の向こうから、かすかに夜風が入ってくる。
(私……寝ちゃってたの!?)
慌てて飛び起き、すかさずスマホの画面を覗くと、映し出されたのは日本時間に設定したままの時刻。
午後六時過ぎ。
(ええと、時差は一時間だから……)
日本の一時間後。
つまり現在、午後七時過ぎ。
「…………」
さっと顔が青ざめていくのが自分でもわかった。
まだレベッカともロクに会話も出来ていないのに、いきなり長時間の居眠りをしてしまうなんて。
失礼にも程がある。
今朝彼女とお喋りしていたのが確か十一時ぐらいだったから、
(私、八時間ぐらい寝てたの!?)
もはや居眠りなんてもんじゃない。
がっつり一日分の睡眠を取ってしまった。
「わ、わっ……そっ、そーりーソーリー! ごめんなさーい!」
半狂乱で泣きそうになりながらベッドを飛び出し、部屋の扉を開けると、
「Oops!」
ちょうど部屋の前を歩いていた男の人とぶつかりそうになって、慌てて急ブレーキをかけた。
……って、男の人?
「Wow! You woke up finally! Haha!」
やっと起きたか、的なことを言って朗らかに笑った彼は、まだ十代くらいに見える若い白人だった。
ちょうど私と同じくらいの年齢だろうか。
ふわふわとした色素の薄い髪に、垂れ目がちな甘い瞳。
肌はもちろん白くて、なんだかお人形さんみたいにキレイな男の子だ。
「ええと、are you……」
もしかしてレベッカの旦那さん? と聞きかけて、さすがに若すぎるかと思い直す。
そこへ、廊下の奥からさらに知らない声が届く。
「Oh! ××××!? Yeeeeeehaw!!」
家中に響き渡るような、底抜けに明るい声。
見ると、これまた見知らぬスキンヘッドのおじさんがこちらへ突撃してくるところだった。
ガタイの良い、こちらも白人の男性だ。
おそらくはこの人がレベッカの旦那さんなのだろう。
彼は私の手を取るなりぶんぶんと腕が千切れそうな勢いで激しい握手をした。
「××××! ×××××!」
「××××××! ×××××!」
白人男性二人に囲まれて、私は圧倒されていた。
どちらもテンションが高すぎる。
やがて騒ぎを聞きつけたレベッカがそこへやってきて、晩御飯食べる? と穏やかに私へ微笑みかけたのだった。
四人で囲んだ食卓には、メイン料理として『Okonomiyaki』が据えられていた。
明らかに作り慣れていない、手のひらサイズのお好み焼きが、大きなお皿にこんもりと積み上げられている。
どうやら私が日本人だということで、レベッカがあえて日本料理を調べて作ってくれたようだ。
「さ……Thank you, Rebecca.」
こんな一言じゃ物足りない。
何から何まで彼女に感謝しているが、その思いを伝えるにはまだ私は未熟すぎた。
思うように言葉が出てこないのがもどかしい。
「Welcome to our home, Misaki!」
我が家へようこそ、美咲。
改めてそう言ってくれたのは、あのテンションの高いスキンヘッドの男性——レベッカの旦那さんであるスコットだった。
そしてその隣で、「Yeaaaah!!」と叫びながらクラッカーを鳴らしたのは、例の若い男の子——スコットの甥であるオリバーだった。
彼はどんな表情をしていても、やっぱり人形のように美しい。
てっきり私と同じくらいの年かと思っていたけれど、本人に確認してみればなんとまだ十五歳だという。
彼の家はこの近くにあり、時折こうして遊びに来て、一緒に御飯を食べたりするのだそうだ。
手にしたナイフとフォークでお好み焼きを切り分け、上品に口へ運ぶレベッカの隣で、男性陣二人のお喋りはとどまることを知らない。
特にスコットの方はどうやら下ネタが好きなようで、私の知らない単語が出てくる度に辞書で調べてみると、ほぼそういう意味のものばかりだった。
そして極め付けには、
「What do you say penis in Japanese?」
男性のアソコは日本語で何と言うのか、なんて酷い質問を投げかけてくる。
さすがに言いづらくて私がオロオロしていると、追い討ちをかけるようにオリバーが同じ質問をしてくる。
人形のように綺麗な顔で、瞳をキラキラとさせながらそんなことを言わせようとする彼は鬼だと思った。
救いを求めてレベッカの方へ目をやると、彼女も意外と興味津々な様子でこちらを見つめている。
そんなに知りたいのか。
やがて観念して、
「…………◯◯◯」
私がごくごく小さな声で答えると、途端に三人は大喜びでそれを復唱、および連呼し始めた。
「◯◯◯! ◯◯◯!」
「Sounds good.」(良い響きね)
次に犬を飼うときはその名前にしよう! とスコットが言った。
食事が終わると、オリバーは帰っていった。
別れ際には不意打ちでハグをされ、私は驚きと緊張でひっくり返りそうになった。
真正面から全力で抱きつかれ、ぎゅっと上半身を密着させてくる。
思わず赤面した私を見て、オリバーはお腹を抱えて笑った。
スコットは「お酒でも飲んだの?」なんてとぼけたジョークを飛ばしてくる。
やはり外国人の距離感は日本人とは違う。
彼らにとってこれは普通の挨拶なのだから、私も早いところ慣れないといけない。
オリバーを見送った後は寝る支度だった。
私はシャワーを浴びたけれど、レベッカたちはそのまま寝巻きに着替えた。
どうやらお風呂は二日に一度ぐらいしか入らないらしい。
これは世界的に見ると、日本人のように毎日お風呂に入る方が珍しいというのもあるが、何よりオーストラリアは昔から水不足で、各家庭でも長時間の水の使用は推奨されていないことも関係しているらしい——と、これは日本にいるときに大学の先生から教わった話だ。
——シャワーを借りるときは、必ず十分から十五分以内で終わらせるようにね!
普段から三十分程度入浴する私は、なんとか短時間で済ませようと全身を乱雑に洗った。
寝る前に、スマホでSNSをチェックする。
案の定、両親からは心配そうなメッセージが届いていた。
そっちでは上手くやっていけそうか、なんて漠然とした質問が来ているけれど、そんなことはむしろ私の方が聞きたいくらいだった。
とりあえず今日の出来事を簡潔にまとめて送っておく。
それから他の受信メッセージを確認していると、舞恋の名前が目に入った。
彼女も今頃、ホストファミリーの人たちと仲良くやっているだろうか。
もともと社交性のある性格だし、きっと上手くやっているだろう。
そう思いながらメッセージを開けて、私は思わず目を瞠った。
『泣きそう』
と、それだけが書いてある。
すぐさま返信してみるも、既読になる様子はなかった。
もう寝てしまったのかもしれない。
仕方がないので、話はまた明日聞いてみることにする。
明日は大学のプレイスメントテスト——学生の英語レベルに応じてクラス分けをするためのテスト——がある。
おそらくはそのときに舞恋とも会えるだろう。
テストは面接らしいので、私はあまり良い結果は期待できない。
できれば舞恋と同じクラスがいいな、と考えながら目を閉じる。
昼間はあれだけ眠ったというのに、やはり疲れているのか、私の意識はすぐさまやってきた眠気に攫われて、夢の世界へと旅立っていった。
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