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Chapter #1
プレイスメントテスト①
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翌朝、大学へはスコットが車で送ってくれることになった。
というのも、レベッカの勤務先が大学の敷地内にある郵便局だというのだ。
彼女を送るついでに私も一緒に乗せてもらえば一石二鳥ということである。
キャンパスは山の上にあり、私たちを乗せた車は緩やかな斜面をぐるぐると登っていく。
車で約五分、歩いても約二十分程度で着く場所に、それは姿を現した。
グリフィス大学『マウントグラバット』キャンパス。
グラバット山、という山の上に建っているから、その名前になったらしい。
「Take care, honey.」
車を降りる直前、スコットはそう言って助手席のレベッカにキスをした。
ほっぺやおでこではなく、口と口。
真正面からのキスだ。
チュッ……と甘い音が車内に響き、後部座席で荷物をまとめていた私は固まった。
実の両親のキスシーンさえ見たことがなかった私にはちょっと刺激が強すぎた。
レベッカは何事もなかったように車を降り、
「Misaki, come on!」
呆気に取られていた私を呼ぶ。
なんだか朝から大変なものを目の当たりにした気分だったが、彼らにとっては普通のことなのだろう。
(これがカルチャーショックか……!)
レベッカに途中まで道案内をしてもらい、別れた後は一人で広場の方へ出る。
するとそこには、すでに数十人もの留学生らしき人々が集まっていた。
パッと見た感じではアジア系の人が多かったが、たまにそれ以外の人も目に入る。
おそらくは皆、私と同じでクラス分けのテストを受けに来たのだろう。
ガヤガヤと賑やかなその場所では、たどたどしい英語があちこちから聞こえてくる。
「おーい、みさきちー!」
と、周りの喧騒に負けないくらいの声量で、聞き慣れた声が私を呼んだ。
見ると、離れた場所からこちらへ一直線に舞恋が突進してくる。
「みさきちー! 会いたかったよおぉ~~!!」
ガバッと勢いよく抱きついてくる舞恋。
さっそく異国に馴染んでハグを習得したのだろうか。
「もう聞いてよ、みさきち! 昨日から今日にかけて散々だったんだから!」
「散々?」
そういえば、と昨日のメッセージを思い出す。
「確か、『泣きそう』ってメッセージくれてたよね。何かあったの?」
「何かあったどころじゃないよ。本当にひどいんだよ。昨日なんてさ、ホストファミリーの人たちと外食に出掛けたんだけど、その間に家に泥棒が入ったんだよ!」
「泥棒!?」
想定外の展開に、思わず身構える。
「帰ってきたら家の中が荒らされててさ。警察も来たんだよ、ホームステイ初日から! 私は貴重品とパスポートは携帯してたから無事だったけど、化粧ポーチが取られちゃって……」
言われて初めて気づいたが、舞恋はすっぴんだった。
もともと肌が綺麗なのでそこまで気にならないが、当の彼女からすれば大問題なのだろう。
「せっかくイケメン留学生たちと出会えるチャンスなのに、こんなんじゃ誰も捕まえられないよ~~!!」
悲嘆に暮れ、頭を抱える舞恋。
一番悩むところがそれでいいのか。
「しかもさ~……私のホストファミリーはフィリピーナみたいで、ネイティブな英語じゃないんだよね。ちょっと訛ってるし。おまけに私の他にも留学生がホームステイしてるんだよ。コロンビア人の女の子。その子も訛っててさ。私はもちろんジャパニーズ・イングリッシュだし……。うちの家、誰一人としてちゃんとした英語が喋れないんだよ。こんなんで一ヶ月以上も生活して大丈夫なのかな?」
どうやら彼女の家の様子は、私の所とは全く雰囲気が違うらしい。
もしかして、レベッカの家って相当なアタリだったのでは……?
ホストファミリーガチャSSR?
そうこうしているうちに、周りの人たちがゆっくりと前進を始めた。
どうやら大学側から案内があったようで、先頭を歩く人が校舎の中へ入って行くのが見える。
「舞恋、ほら。私たちも行かないと」
「テストなんて気分じゃないよ~~」
うな垂れる舞恋の背中を押し、私たちも周りに続く。
(そういえば、カヒンは来てないのかな)
彼もこの大学へ留学に来たと言っていた。
ならばクラス分けのテストも受けに来るはず。
けれど辺りを見渡しても、それらしき姿は見当たらない。
「どしたの、みさきち。何か探し物? ……あ、もしかして例の彼を捜してる?」
めざとく言い当てられて、私は返事に詰まった。
そんな私の反応に満足したのか、舞恋は急に上機嫌になって、
「ほらぁ、やっぱり彼のこと気に入ったんじゃん~」
と、先ほどまでとはまるで別人のように嬉々として私に絡んでくる。
こうなると面倒なくらいにしつこいのだ。
「だから、そんなんじゃないって……!」
ほとんど反射的に否定しようとした、その瞬間。
「Misaki!」
と、どこからか男の人の声が届いた。
相手の姿が見えず、こちらがキョロキョロと辺りを見渡していると、同じ声がもう一度降ってくる。
(上だ!)
見上げると、校舎の窓から一人の男性が顔を覗かせていた。
涼しげな微笑みを浮かべた好青年。
一見すると日本人にも見えるその顔は、遠目からでも整っていることがわかる。
「カヒン!」
彼だった。
思わず胸を高鳴らせていると、隣から舞恋が声を荒げる。
「ちょっと! 私もいるんですけどー!?」
人差し指で自分を差すジェスチャーを何度も彼女が送ると、カヒンはくすくすと可笑しそうに笑った。
「Maiko, Misaki, ガンバッテ!」
ガンバッテ。
片言の日本語で、彼はそう言った。
そのまま私たちが校舎の中へ入ると、彼の姿は見えなくなり、私と舞恋はお互いの顔を見合わせた。
「頑張って、だってさ。あの人、もしかして日本語が話せるの?」
「さあ……?」
そういえば最初に空港で会ったときも、コンニチハ、と日本語で言われた覚えがある。
けれど、その後の会話はずっと英語だったし、たまたま挨拶程度のフレーズを知っていただけなのかもしれない。
列はどんどん進み、やがて階段を上り始める。方角的に、カヒンのいる教室へと向かっている気がする。
彼に会えるかもしれない——そんな期待が胸を掠めたそのとき。
私の目の前に、大学のスタッフらしき人が急に割り込んできた。
「×××× ××××!」
何か指示を出しているようだった。
けれど、早口すぎて何を言っているのかわからない。
両手をぶんぶんと振って右の方向を示しているので、ここから道を右に曲がれということだろうか。
そっちに行けばカヒンとは別の部屋になってしまう。
しかも、
「えっ、ちょっとやだ。みさきち!」
スタッフが割り込んだのは、私と舞恋の間だった。
前方で焦る舞恋の声には構わず、スタッフは私以降を右へと誘導する。
有無を言わさぬ圧がちょっと怖い。
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