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Chapter #3
恐怖のフリーフォール
しおりを挟む電車とバスを乗り継ぎ、約一時間半後。
バスの進む先に見えてきたのは、ジェットコースターのものらしき背の高いレールだった。
その隣にはカラフルなウォータースライダーらしきものもある。
あれがドリームワールドかな? と私が呟くと、隣に座っていたカヒンが耳元で同意する。
息がかかるほどに彼の距離が近くて、私はそちらへ顔を向けることができなかった。
入口でチケットを買う時は、思っていたよりも待ち時間が少なくてスムーズだった。
ちなみに入園料や電車代などは私の分もすべてカヒンが支払ってくれる。
さすがに気が引けたけれど、その度に頭の中で舞恋の言葉が蘇る。
——あんま肩肘張らずにさ、もっと彼に甘えちゃえばいいんだよ。みさきちはカヒンの彼女なんだから。
カヒンの、彼女。
未だに現実味はないけれど、彼に大事にされているんだなあと、彼の一つ一つの振る舞いに気づかされる。
「Which attraction do we ride first?」
彼は私の手を引きながら、まず何から乗ろうかと聞く。
その優しげな微笑みに思わず見惚れていた私は、ハッと我に返って辺りを見渡した。
「あっ、ええっと……」
最初に目に入ったのは、天高く伸びる長い柱のようなものだった。
よくよく見てみると、その側面にはレールが貼り付けられている。
地面と垂直に伸びるその形状から察するに、おそらくはフリーフォールだろう。
(にしても、これは……)
その尋常ではない高さに、私は驚愕した。
今まで私が目にしたことのあるフリーフォールの中でも、今回のそれは高度がずば抜けている。
後で知ったことだが、どうやらその高さは三十九階建てのビルに相当するらしい。
「Do you want to ride that?」
あれに乗りたいのかとカヒンに聞かれて、私は戸惑った。
どちらかというと、絶叫系は好きな方だ。
日本で遊園地に行ったときは必ずジェットコースターに乗るし、それほど怖い思いもしたことはない。
けれど、今回のこれはレベルが違う。
かの富士急ハイランドでもここまで高さのある乗り物はないんじゃなかろうか。
隣のカヒンを見上げてみると、彼は特に物怖じした様子もなく笑顔でこちらの返答を待っている。
どうやら彼もこの手の乗り物は平気なようだ。
ここで私が断ったら、なんだか負けのような気がする。
「I……I ride that!」
私は意を決して、それに乗ることを決めた。
そして三十分後。
「……Are you OK?」
大丈夫? とこちらを気遣うカヒンの声。
私はベンチに腰掛けて項垂れたまま、顔を上げることもできなかった。
地上三十九階からの落下は、想像を絶するものがあった。
未だに内臓がどこか浮いているような感じがして気持ち悪い。
絶叫系でここまで恐ろしい思いをしたのは、このフリーフォールが初めてだった。
「I’m sorry, Kahin……」
ごめんね、と力なく謝ると、彼は苦笑しながら私の頭を優しく撫でてくれる。
「Shall we go to see animals when you feel better?」
体調が良くなったら動物を見に行こうか、と彼は提案する。
そういえば、この遊園地には動物園も併設されているんだっけ。
確かコアラを抱っこできる場所もあるとか。
しばらくは乗り物に乗れそうにないので、彼の気遣いが身に染みる。
私は吐き気を堪えながらも、「いえす……」と死にかけのセミのような声で答えた。
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