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Chapter #4
約束
しおりを挟む日本に帰ってからも、カヒンとは毎日連絡を取り合った。
週末にはちょっと遅くまでビデオ通話をすることもあり、それだけで遠距離の寂しさもある程度紛らわせることができる。
そして何より、彼の笑顔を見られるだけで、私の心はこの上なく安かな気持ちに包まれるのだった。
ただ一つだけ、最近気になっていることがある。
「Kahin. You look tired.」
なんだか疲れてるように見えるよ、と私は指摘した。
彼は問題ないよと軽く流そうとするけれど、その目の下にはうっすらとクマが浮かんでいる。
「Are you OK? Have you been getting enough sleep?」
大丈夫? ちゃんと寝てる? と問いただすと、彼はちょっと困ったように笑って、
「I've been a little busy at work recently.」
最近バイトがちょっと忙しくて、と言葉を濁す。
「At work?」
バイト? と私はオウム返しにする。
彼がバイトをしているなんて話を耳にするのは、これが初めてだった。
「Yeah. I need the money to take a flight to your country.」
君に会うためには飛行機代が必要だからね、と彼は言う。
「Flight……」
飛行機。
私のいる、日本へ来るための手段。
つまり彼は、私に会うためにお金を貯めようとしてくれている?
「I said I would go to meet you certainly, right?」
必ず会いに行くって言っただろ? と彼は笑う。
確かに、言っていた。
たとえ私が日本に帰っても、彼は必ずまた会いに来てくれるのだと。
けれど、まさかその準備をすでに始めているだなんて、私は予想もしていなかった。
いつか本当に約束通りに会いに来てくれるとしても、それはもっとずっと先のことだと思っていた。
「Your birthday is November 30th, isn’t it?」
君の誕生日は十一月三十日だよね? と彼が聞く。
「Yes……」
覚えててくれたんだ、と私は息を呑む。
「I want to celebrate your birthday next to you.」
君の隣で、君の誕生日を祝いたいんだと彼は言う。
彼が、会いに来てくれる。
私の誕生日を祝うために。
日付を覚えていてくれただけでも嬉しいのに、まさかわざわざ飛行機で来てくれるなんて。
本当に、一体どこまで優しいんだろう。
(それに比べて私は……)
彼に無理をさせてしまっている。
彼がこんなにも私のことを思ってくれているのに、私は彼に何もしてあげられていない。
どころか、寝不足になるくらいまで負担をかけさせてしまっている。
「Kahin……. Don't push yourself.」
無理しないでね、と言うと、彼は優しく微笑む。
(私って、彼のお荷物になってる……のかな)
彼が優しくしてくれればくれるほど、段々と不安になってくる。
私はいつも、彼のマイナスになるようなことしかしていない。
留学の終盤だって、私は一人で勝手に勘違いをして、彼に冷たい態度をとってしまった。
おまけに空港ではほとんど顔を合わせられなかったし、それに、
(カヒンにもらったネックレスも、失くしちゃった……)
空港で、おそらくはボディチェックの時に紛失してしまったそれ。
後から電話で問い合わせても、見つけてもらうことはできなかった。
彼に貰った大事なプレゼント。
彼からのせっかくの厚意を、私は無下にしてしまったのだ。
(こんなんじゃ、彼女失格だよ……)
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