もう何も信じられない

ミカン♬

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8 ヤンは人誑し

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 ナッシュとアニーが来たら楽しいと考えていたのが嘘みたいです。

 うちに来て以来、アニーはずっとナッシュを追い回しています。執務室まで入り込み、父に叱責されても不貞腐れるだけで一向に改めません。

 メイドに何度もナッシュを部屋に呼ぶように言いつけて、その度ナッシュは優しく諭すのですがアニーは甘えて全く耳を貸しません。

 父を「叔父様」と呼びますが、母は「おばさん」です。私に至ってはメイドと同じく「あんた」です。

 暇だろうから本を読んだり勉強するよう勧めても、難しい字が読めないからと拒否。


 そろそろ父の我慢の限界かなと思っていたら、ヤンが来ていました。

「おかえりなさいませ。今日はアニー姫のお迎えですよー ナッシュはアニーお嬢さんの部屋に行ってくださいね」

「ただいま、迎えって・・・早くない?」

「旦那様はアニー姫を危険視しているみたいです。お嬢様に怪我させたんでしょう? 改築を早く切り上げたんです」

 手を爪で傷つけられたのを使用人が報告したみたいです。
「大したことないのに」

「今、引っ越しの準備中なんですが暴れているみたいですね。さっき私も蹴られました」

「足が動いたの?」

「足元に屈んで『この足も著名なお医者様に診てもらいましょうね~』って言ったら顔を蹴られたんです。治る見込みがあるんじゃないですかね」

 ヤンは顎を摩りながら「歩けるようになれば性格も良くなるかも?」とニンマリ。

「さすがお父さんね、アニーの足も気遣ってくれてたのね」

「ですねー ・・・こんな言い方はいけませんが、車椅子に乗っていて良かった。自由に動けたら何を仕出かしていたやら」

「ヤン、アニーの面倒見れそう?」

「仕事と割り切れば平気ですよ。直接面倒見るのは世話係ですし、気長にやっていきますよ」

「宜しくね、申し訳ないけど」


 話しているとナッシュに抱きかかえられてアニーが来ました。

「デブ! 行かないから!」

「はいはい、馬車に乗せちゃって下さい。荷物はこれだけですか? 本宅にもいろいろ用意してますからお楽しみに!」

「嫌だよ! ナッシュ、ナッシュ助けなさいよ!」

 ナッシュが黙って馬車に乗せるとアニーはナッシュの髪を掴んで「呪ってやる!」と叫びました。

「乱暴はいけませんよ」ヤンが乗り込んでアニーの手を掴むと「ヤダ! 触らないでよデブ!」と叫び、ナッシュは素早く降りて馬車の扉を閉めました。

「大丈夫?」
「平気です。慣れてますから・・・」

 中でドタバタしていましたが、馬車はゆっくりと本宅に向かいます。

「旦那様と奥様も外の仕事が終われば様子を見に本宅に向かうそうです。アニー、問題を起こさないと良いけど」

 (甘える相手がいないから少しは大人しくなるんじゃないかしら)とは言えませんでした。

「ヤンになら心を開いてくれる気がするわ。彼、人誑しなの。誰からも好かれるからアニーの世話には適任だと思うわ」

 ヤンは母方の親戚、独身の30歳。丸い眼鏡を掛けた茶色のクマさんみたいな風貌です。

「体重が半分になればモテると思うのよね・・・」

 アニーが去って、私は久しぶりに穏やかな気持ちになりました。


  ***(ヤン視点)


 私ヤンガスことヤンはアニー姫に罵倒されながら馬車で移動中です。

「バカ! デブ! 引き返しなさいよ!」

 可愛いお顔を醜く歪めて言いたい放題、でもそれで気が済むならばいくらでも罵ってくれて結構。

 アニーお嬢さんはナッシュと引き離されて混乱しているようです。ご両親にも置いて行かれて同情しますが、私の大切なウェンディお嬢様を傷つけたのは許せません。

 先ほど、ナッシュの髪を掴んだアニーお嬢さんの手を掴むとおびえた様子を見せました。ナッシュ以外の男性は怖いのかもしれません。

 手には赤い髪を数本握っていました。まさかそれでナッシュに呪いをかけるのではと心配しましたが、窓を開けると捨ててしまいました。

「ちょっと・・・デブ、息苦しいから息しないで」

「死んじゃいますよ。すぐ着きますから我慢を」


「・・・・・ウェンディはいいよね、大事にされて」

「本宅では私がアニーお嬢さんを大切にしますよ」

「うぇぇええ、気持ち悪い!」

「ははは」

「ナッシュには会える?」

「いい子でいたら会えるんじゃないですかね?」

「・・・」
 それっきり黙ってしまいました。私はこのお嬢さんを本当に大切にしてあげようと思いました。

 二人のお嬢様の目は色こそ違っても同じアーモンドアイ。従妹なのですから、いつか二人が仲良くなってくれれば嬉しいと思います。




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