もう何も信じられない

ミカン♬

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7 エドアルト

 ティールームの前でウェンディに会った。赤毛の使用人と一緒でソーニアは『イケメンだわ~』と騒いでいた。

 ウェンディから聞いた赤毛の初恋の彼かもしれない。嫉妬する資格なんて俺には無いけど、最悪な気分だった。

 俺は卑怯だ『別れよう』とは言えず『距離を置きたい』などと彼女に言ってしまった。


 俺が悪意を持ったのは入学式の日、あの女に会ったからだ。

 父が追い出した女、母親だった人。俺は一目で分かった。目が合ったのにあの女は俺が分からなかった。美しく成長した義理の娘と腕を組んで楽し気に笑って・・・その姿が俺の記憶を蘇らせた。



 俺が5歳の時、祖父から爵位を受け継ぐと父は母を追い出して使用人だった女を後妻にした。後妻を嫌う祖父も領地の片田舎に遠ざけた。

 可哀そうな母を想って俺は決して父と後妻を許さなかった。二人は俺の機嫌を取ろうと必死になっていたが絶対に受け入れなかった。

 それも弟が生まれると二人は俺を見放した。孤立した俺は清々した。


 8歳の時に疎遠だった祖父が俺に接触してきた。

『分かれた母親に会いたくないか? おっと、親には内緒だぞ?』

 会いたかった。

 俺は祖父と馬車に乗って知らない土地に向かった。到着したのは小さな平民の家の前で『ここに住んでいる』と聞かされ、母が苦労していると思うと泣きそうになった。

 馬車の窓から外を見ていると家から母が出てきた。飛び出そうとした俺を祖父は押さえつけて『もうお前の事は忘れている』と言った。

 母の隣には可愛い女の子がいて手を繋いで出かけるところだった。

『あの子は再婚相手の連れ子だ』

『さいこん?』

 二人は楽しそうで、俺は母が幸福に暮らしていると知った。

『あの女は家の使用人と出て行ったんだ。お前は捨てられたんだよ。誰もお前に愛情なんて持ってないんだ。いいか、大人になっても愛だの恋だのに現を抜かすなよ。お前は跡取りだ。家の事だけを考えるんだ。いいな』

 祖父の言葉は俺の胸を抉り、世界一憎いと思った。

『うるせーよ』

『なんだと?』

『うるせーよクソ爺! 』

『この!』
 思いっきり祖父にぶたれた。

 知りたくなかった。俺の中でずっと可哀そうな母親でいて欲しかった。俺の想いなど母には全然届いていなかったんだ。


 家に戻ると改めて俺は誰からも愛されていないと感じた。使用人達は俺を腫れもの扱いで、唯一の実母さえ俺を忘れて生きている。

 父と後妻は生まれた弟に俺が危害を与えないかと恐れていた。家は弟が継げばいい、俺はこんな家捨ててやろうと思っていた。

 けど、父が祖父を捨てたように、俺も後継者になれば父達を捨ててやればいいと思い直した。その為には優秀な人間になる必要がある。だから学業に専念し、王立学園にも入学した。

 今はもう母親が恋しい年でもないのに、再会したらあの女の不幸な顔が見たくなった。

 大切に育てた義理の娘を穢して裏切ってやればあの女はどう思うだろう。お前のせいで娘が不幸になったと知ればどんな顔をするだろう。

 最低な俺はあの時そう思ったんだ。

 ごめんウェンディ。清廉潔白な君に、こんな薄汚い俺は相応しくない。


 ソーニアは何も知らないで俺に付き纏っている。両親に愛されて不幸を知らないソーニア。天使のようなルックスだが中身は計算高い小悪魔だ。男心をくすぐって『ソーニアは自分に気があるのでは?』と思わせる術を知っている。

 ソーニアを利用してもお互い様だ、罪悪感は無い。
 




「ねぇねぇ、何を考えているんですか?」

「え?」

「ウェンディ先輩のこととか?」

「まさか・・・」

 ティールームにソーニアと来ていたんだった。彼女はウェンディも好きだったチーズケーキを食べている。

「もうすぐ私の誕生日なんですよぉ?」

「そうか、プレゼントするよ」

「リングがいいなぁ~」

「好きなのを選ぶといいよ。俺は分からないから」

「やったー! 好きなリングを勝手に選んじゃいますよ?」

「いいよ・・・」

「後で嘘だったとか言わないですよね?」

「言わないよ・・・」

「私の事好きですよね?」

「ああ・・・」面倒くさい。

 東通りのアクセサリー販売店で適当なリングを選ぶだろうと思っていた。ソーニアの父親がクライン宝石店の店長だと俺は知らなかった。




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