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第一章
第一章 ~『聖女の力』~
しおりを挟むその頃、エリスの元婚約者であるギルベルト伯爵の屋敷では、かつて彼女が壊したとされる宝玉の魔道具を前に、大騒ぎが巻き起こっていた。
「おかしい……壊れたはずの魔道具が、また光りはじめている……」
ギルベルトの直属の部下である老魔術師が眉をひそめて宝玉を凝視している。淡い青色の光が脈打つように、ほんのりと明滅していた。
「この魔道具は確かエリスが壊したやつだよな?」
「はい、魔力を蓄積できる貴重な品です」
「本当は壊れてなかったのか?」
「いえ、たしかに、あのときは反応がありませんでした」
魔力を貯めようとしても光が消えたまま。家宝とも呼べる魔道具を失ったと、絶望したのは記憶に新しい。
「だが今は光っているぞ?」
「はい。ただ私は魔力を供給していません。自然界の魔素を自動で吸収して、魔力を蓄積しているのです」
ギルベルトが喉を鳴らす。宝玉の変化とエリスの特異体質が頭の中で結びついたからだ。
「エリスは魔道具を壊すだけのトラブルメーカーだと思っていたが……」
「魔道具を進化、もしくは変質させる才能の持ち主なのかもしれません」
「だがそんな能力聞いたことがないぞ……」
「私は一つだけ心当たりがあります」
「本当か?」
「はい、これは千年前に王国を救った聖女様と同じ術式なのかもしれません」
「あの聖女様と同じだと!」
ギルベルトは驚きで目を見開くと、老魔術師は冷静に話を続ける。
「伝承によれば、建国の母でもある聖女は、あらゆる魔術を受け付けず、加えて味方の魔術や魔道具を進化させたといいます」
「そんな才能が、あのポンコツに……」
ギルベルトがぶつぶつと呟きながら、じわじわと頬を引きつらせる。やがてにんまりとした笑みに変わっていく。
「もし、もしだ! あいつが本当に聖女の力を持っているなら……」
「チャンスです!」
「だよな」
「もし聖女の力が手に入るなら、その価値は計り知れません」
魔道具の機能を変える能力だけでも、旧型の魔道具を新作として売ることができる。領地に大きな富をもたらすのは明白だった。
「で、あいつはいまどこにいるんだ?」
「風の噂では、クラウス将軍の元に嫁いだとか……」
「あのブサイクにか!」
ギルベルトは両手を振り上げ、天井を仰ぐ。
「神はまだ俺を見放していないようだな……相手がクラウスならチャンスはある」
「醜いと評判ですからね」
「あの男との婚約はエリスにとっても不本意なはずだ。俺が寄りを戻してやると提案すれば、すぐにでも同意するだろう」
エリスが便利な道具だと分かった今、放っておく理由はない。ギルベルトは自分勝手な結論を下すと、さっそくシュトラール辺境領へと向かうのだった。
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