醜い私を救ってくれたのはモフモフでした ~聖女の結界が消えたと、婚約破棄した公爵が後悔してももう遅い。私は他国で王子から溺愛されます~

上下左右

文字の大きさ
4 / 5

アンドレアの悲劇

しおりを挟む

『アンドレア公爵視点』


 婚約破棄してから数日後、アンドレアは王宮に呼び出されていた。用件を『クレアの婚約破棄』に関してとだけ聞かされていた彼の足取りは不思議と軽い。称賛されるに違いないと思い込んでいたからだ。

「王家が俺の価値を認識する日が来たか」

 思わず口にしてしまうほど上機嫌なのは、新しい婚約者のサーシャのおかげだ。容姿に優れた彼女は、クレアよりも聖女にふさわしい。抜擢した自分に褒美が与えられるに違いないと、胸を踊らせていた。

「アンドレア公爵が到着しました」

 衛兵が王の間の扉を開く。玉座には白ひげを蓄えた国王が腰掛け、周囲には大臣たちの姿もある。彼は玉座の前で跪くと、頭を垂れた。

「面をあげよ」
「はっ!」
「ふん、噂通り、容姿だけは優れているようだな」

 棘のある口ぶりに、アンドレアは険悪な雰囲気を感じ取る。浮かれていた気持ちも沈み、緊張が全身を包み込んだ。

「呼び出したのは他でもない。その優れた顔を使っても、役割さえ達成できぬ貴様の問責のためだ」
「ま、待ってください! 私がいったい何をしたと⁉」
「惚けるな。聖女クレアとの婚約を破棄したそうではないか」
「あれはより優れた聖女が見つかったからで……」
「ふん、より優れたか……私にはそうは見えんがな」

 国王が合図を送ると、控えていた大臣が一歩前へ出る。手に握られている資料がアンドレアにも渡された。

「この資料に記されているグラフは、聖女が王国を守護するために張っていた結界の力の推移です。数日前からガクンと落ちているのが分かるでしょう」
「で、ですが、サーシャが新しい聖女になったはずです」
「ええ。だからこそ結界の力は弱まりながらも崩壊までには至っていない。これがどういう意味か分かりますね?」
「聖女としての力は、クレアの方が上……」
「そのとおりです」

 回復魔法や結界術の練度は同じ聖女でも差がある。優れたクレアを捨て、力の弱いサーシャを選んだ愚かさを、彼らは責めているのだ。

「大臣の話した通りだ。聖女クレアは優秀だった。彼女の結界のおかげで、王国は魔物の被害から無縁だったからな。だが貴様のせいで、結界は弱体化し、魔物が侵入してくるようになった。王国の評判は下降の一途だ。どう責任を取るつもりだ⁉」
「で、では、サーシャを育て、一流の聖女に――」
「それでは遅すぎる! 貴様の役目は唯一つ。聖女クレアに土下座してでも、王国に連れ戻すことだ」
「公爵の私があの醜女にですか⁉」

 上流階級である自分がそこまでプライドを捨てることはできないと暗に拒絶するが、国王の反応は冷たい。小さく鼻で笑う。

「ふん、貴様は勘違いしているな」
「勘違いですか?」
「貴様は愚かな男だ。領地運営も失敗ばかりで、借金まで抱えている。公爵の爵位を廃位させるべきではとの声も挙がっていた……だが腐っても公爵。使い道はある」
「まさか……」
「そのまさかだ。聖女クレアを王国に繋ぎ止めるためには高位の貴族と婚姻を結ばせるのが最も効果的だ。だからこそ貴様の爵位をそのままにし、嫁がせたのだ……つまり聖女クレアとの婚約を破棄した今、公爵の爵位をそのままにしておく理由もないというわけだ」

 国王の言葉には軽蔑だけが滲んでいる。このままでは破滅だ。なりふりかまっている余裕を失った彼は、姿勢を変えて、額を床に擦り付けて土下座する。

「どうか廃位だけはお許しを!」
「貴様の処分は追って言い渡す。下がれ」
「……っ……ぅ」

 死刑宣告に等しい言葉を受け、アンドレアの瞳から涙が溢れる。屈辱と絶望で頬を濡らすのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

聖女を追い出しても平気だと思っていた国の末路

藤原遊
ファンタジー
聖女が国を去った日、神官長は分かっていた。 この国は、彼女を軽く扱いすぎたのだと。 「聖女がいなくても平気だ」 そう言い切った王子と人々は、 彼女が“何もしていない”まま国が崩れていく現実を、 やがて思い知ることになる。 ――これは、聖女を追い出した国の末路を、 静かに見届けた者の記録。

虐げられた聖女が魔力を引き揚げて隣国へ渡った結果、祖国が完全に詰んだ件について~冷徹皇帝陛下は私を甘やかすのに忙しいそうです~

日々埋没。
恋愛
「お前は無能な欠陥品」と婚約破棄された聖女エルゼ。  彼女が国中の魔力を手繰り寄せて出国した瞬間、祖国の繁栄は終わった。  一方、隣国の皇帝に保護されたエルゼは、至れり尽くせりの溺愛生活の中で真の力を開花させていく。

新しい聖女が優秀なら、いらない聖女の私は消えて竜人と暮らします

天宮有
恋愛
ラクード国の聖女シンシアは、新しい聖女が優秀だからという理由でリアス王子から婚約破棄を言い渡されてしまう。 ラクード国はシンシアに利用価値があると言い、今後は地下室で暮らすよう命令する。 提案を拒むと捕らえようとしてきて、シンシアの前に竜人ヨハンが現れる。 王家の行動に激怒したヨハンは、シンシアと一緒に他国で暮らすと宣言した。 優秀な聖女はシンシアの方で、リアス王子が愛している人を新しい聖女にした。 シンシアは地下で働かせるつもりだった王家は、真実を知る竜人を止めることができない。 聖女と竜が消えてから数日が経ち、リアス王子は後悔していた。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

無能だと言われ続けた聖女は、自らを封印することにしました

天宮有
恋愛
国を守る聖女として城に住んでいた私フィーレは、元平民ということもあり蔑まれていた。 伝統だから城に置いているだけだと、国が平和になったことで国王や王子は私の存在が不愉快らしい。 無能だと何度も言われ続けて……私は本当に不必要なのではないかと思い始める。 そうだ――自らを封印することで、数年ぐらい眠ろう。 無能と蔑まれ、不必要と言われた私は私を封印すると、国に異変が起きようとしていた。

婚約破棄を言い渡された私は、元婚約者の弟に溺愛されています

天宮有
恋愛
「魔法が使えない無能より貴様の妹ミレナと婚約する」と伯爵令息ラドンに言われ、私ルーナは婚約破棄を言い渡されてしまう。 家族には勘当を言い渡されて国外追放となった私の元に、家を捨てたラドンの弟ニコラスが現れる。 ニコラスは魔法の力が低く、蔑まれている者同士仲がよかった。 一緒に隣国で生活することを決めて、ニコラスは今まで力を隠していたこと、そして私の本来の力について話してくれる。 私の本来の力は凄いけど、それを知ればラドンが酷使するから今まで黙っていてくれた。 ニコラスは私を守る為の準備をしていたようで、婚約破棄は予想外だったから家を捨てたと教えてくれる。 その後――私は本来の力を扱えるようになり、隣国でニコラスと幸せな日々を送る。 無意識に使っていた私の力によって繁栄していたラドン達は、真実を知り破滅することとなっていた。

聖女姉妹の姉は、妹に婚約者を奪われました

天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私ミレッサと妹シアノは数週間前に聖女の力を得て、聖女姉妹と呼ばれていた。 一週間前に私はルグド王子、シアノは侯爵令息カインとの婚約が決まる。 そして――シアノの方が優秀だから、婚約者を変えたいとルグド王子が言い出した。 これはシアノの提案のようで、私は婚約者を奪われてしまう。 ルグド王子よりカインは遙かにいい人で、私は婚約者が変わったことを喜んでいた。 そして数ヶ月後――私の方が、妹より優れていることが判明した。

悪役令嬢の私、計画通り追放されました ~無能な婚約者と傾国の未来を捨てて、隣国で大商人になります~

希羽
恋愛
​「ええ、喜んで国を去りましょう。――全て、私の計算通りですわ」 ​才色兼備と謳われた公爵令嬢セラフィーナは、卒業パーティーの場で、婚約者である王子から婚約破棄を突きつけられる。聖女を虐げた「悪役令嬢」として、満座の中で断罪される彼女。 ​しかし、その顔に悲壮感はない。むしろ、彼女は内心でほくそ笑んでいた――『計画通り』と。 ​無能な婚約者と、沈みゆく国の未来をとうに見限っていた彼女にとって、自ら悪役の汚名を着て国を追われることこそが、完璧なシナリオだったのだ。 ​莫大な手切れ金を手に、自由都市で商人『セーラ』として第二の人生を歩み始めた彼女。その類まれなる才覚は、やがて大陸の経済を揺るがすほどの渦を巻き起こしていく。 ​一方、有能な彼女を失った祖国は坂道を転がるように没落。愚かな元婚約者たちが、彼女の真価に気づき後悔した時、物語は最高のカタルシスを迎える――。

処理中です...