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幸せな二人
しおりを挟むクレアたちが獣人たちの国へ向かう道中、馬車の中で二人は向かい合って座っていた。尻尾を揺らす彼は、子犬だった頃の面影が残っている。
「尻尾を撫でてあげましょうか?」
「ぼ、僕はもう人間だよ」
「子犬だった頃はあんなに撫でられるのが好きだったのに、変わってしまったのですね」
「……な、なら少しだけ」
ハクが隣に腰掛けると、尻尾をクレアの膝の上に乗せる。優しく撫でてあげると、嬉しそうに犬耳がピクピクと動いた。
「そのクセも子犬の頃のままですね」
「やっぱり恥ずかしいね」
凛々しい顔つきの彼が頬を赤らめる姿は愛らしい。その初々しい反応に手が止まらなくなる。
(ハクは生まれ変わりました。ですが、一度殺された事実は変わりません。特にアンドレア様には、お灸を据える意味でも、私が王国を去ったことを後悔してもらいましょう)
乙女ゲームをやりこんでいたおかげで、主人公のサーシャのステイタスも把握している。彼女は大器晩成型で、初期はクレアよりも能力が低い。イベントを重ねることで聖女として成長するため、今の段階で結界を維持することはできないはずだ。
そうなれば、王家からアンドレアに罰が下されるだろう。王国が発展してこれたのは、結界によって治安を維持し、防衛のリソースを経済発展に回してこれたからだ。つまり聖女がいたからこそ、現在の王国があるのだ。
(きっと私を連れ戻そうとするでしょうね)
だが戻るつもりはない。クレアの家族はハクだけだからだ。
「王国を飛び出したことを後悔しているのかい?」
ハクが物思いに耽っていたクレアを心配する。だが彼女は首を横に振った。
「いえ、王国では醜女だと馬鹿にされてきましたから。未練なんてありません」
「醜女か……こんなに綺麗なのにね」
「人になっても私を美しいと褒めてくれるのですね」
「獣人に泣きボクロの美醜感覚はないからね。それに君は生前の僕に優しくしてくれた。その内面の美しさに僕は惹かれたのさ」
世辞ではなく、本心だと伝わってくる。それが嬉しくて、クレアは彼の手をギュッと握った。
「二人で幸せになりましょうね」
「僕も君を守り抜くと誓うよ」
畦道を走る馬車の車輪の音が鳴る。それは二人の門出を称える祝砲のように、耳に残り続けるのだった。
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