【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

ともボン

文字の大きさ
18 / 48
第二章 元〈防国姫〉のヒーラーライフ

第十八話  襲撃から一夜明けて 

しおりを挟む
 リヒトが野伏せりたちを倒してから一夜が明けた。

 次の日の朝に村人たちがすぐに役人に知らせに向かったが、距離のこともあって役人たちがフタラ村にやってきたのは夕方近くになっていた。

 そんな役人たちは前もって事情を知らされていたが、野伏せりの集団を捕まえたなど実際はどこか半信半疑だったのだろう。

 しかし、役人たちは拘束されている野伏せりたちを見るなり唖然とした。

「ほ、本当にこの人数を1人で捕まえたのか?」

 やがて役人の1人がリヒトにおそるおそる訊く。

「さっきからそう言っているだろう」

 リヒトはうんざりとした顔で答える。

 先ほどから何度このやり取りを繰り返しただろう。

 どうやら役人たちは実際に現場を見ても、やはり1人で野伏せりの集団を捕まえた現実を信じられなかったに違いない。

 まあ、仕方ないわよね。

 わたしも役人の気持ちは十分に理解できる。

 この人数の野伏せりを1人で倒したなどとは普通は信じられない。

 けれども、事実は事実である。

 リヒトが持つ魔力総量は規格外であり、冒険者の中でも最高のSランクを与えられた魔法使いと比較しても遜色がないほどだ。

 しかし、リヒトは魔法使いではない。

 それどころかリヒトは「地水火風」の基本的な4属性の魔法はおろか、肉体を治療する「治癒属性」の魔法を1つたりとも使えない。

 本来、魔法というのは魔力を超自然現象に変換して使う術のことを指す。

 だが、リヒトはその魔力を別の物質に変換できる才能が欠如していた。

 代わりにリヒトは別の才能を持っており、それが魔力自体を物理的な力として操作できるということだった。

 例を挙げれば全身に魔力をまとわせて肉体を鋼のような硬度にしたり、肉体のある一点に魔力を集中させて巨大な岩石ですら素手で打ち壊せたりできる。

 ギガント・ボアを倒したときもそうだ。

 あのときのリヒトは拳に魔力を集中させ、鉄のように硬かったはずのギガント・ボアの額を陥没させたのである。

 そんな昨日のことを思い出していると、役人は野伏せりたちに人差し指を突きつける。

「だが、こいつらもあんたもまったく怪我を負ってない。それはどう説明する?」

「それはお嬢さまの力だ。俺は野伏せりどもに手傷を与えたが、絶命する前にここにおられるアメリアお嬢さまが根こそぎ治療された。むろん、こうしてあんたたちにこいつらを引き渡すためにな」

 リヒトは私に視線を向けると、「このお方がお嬢さまだ」と堂々と告げる。

「な、何者なんだ?」

 役人たちの視線が私に集中する。

「申し遅れました。アメリア・フィンドラルと申します」

「アメリア……はて、どこかで聞いたような」

 数秒後、役人たちは一斉に「あッ!」と驚きの声を上げた。

「もしや〈防国姫〉のアメリア・フィンドラルさまですか!」

「はい……まあ、正確には元なんですけど」

 私が罰の悪そうな顔で言うと、リヒトはなぜか胸を張って「俺にとっては今でもお嬢さまは〈防国姫〉です」と答える。

 そんなリヒトに私は「従者は黙っていなさい」と睨みつける。

「し、失礼いたしました! まさか、あの御高名なアメリア・フィンドラルさまとその従者の方とは思わず、大変失礼な物言いをしてしまって申し訳ございません! 平にご容赦を!」

 役人たちは騎士が姫に敬意を払うようにひざまずく。

 その様子を見て村人たちは「おお~」と感嘆の声を漏らした。

「おい、役人たちがあんな態度を取るところを見たことがあるか」

「あのお嬢さんはやっぱり都のすげえ御方だったんだな」

「なあ、俺たちもひざまづいたほうがいいのかな?」

 と、村人たちもざわめき始める。

 私は役人たちに「お願いですからやめてください」と言った。

「今の私は〈防国姫〉ではなく〈放浪医師〉なんです。それにこの村にも仕事の一環として立ち寄っただけで、この村を襲ってきた野伏せりたちを捕まえたのはたまたまなんです」

 私は拘束されている野伏せりたちに顔を向ける。

 すると野伏せりたちは次々にわめき始めた。

「だから俺たちは村を襲うつもりなんてなかったって言ってんだろうが!」

 まだそんな世迷言を……。

 私は両腕を組んでうんざりする。

 夜が明けてからも野伏せりたちはずっとこの調子だった。

 事の発端は、まさに昨日の夜だ。

 私の〈手当て〉で治療されたあと、野伏せりたちは「ここはどこなんだ!」や「どうして俺たちが捕まってるんだよ!」と意味不明なことを口にしたのである。

 表情もずっと困惑しており、本当に自分たちが何をしたのかわからないといった感じだった。

 しかし、野伏せりたちの言うことなどまともに聞くわけにはいかない。

 どうせ罪から逃れるために嘘をついているのでしょう。

 などとあらためて野伏せりたちを見回していると、リヒトがそっと近づいてきて「お嬢さま、少しよろしいでしょうか?」と話しかけてくる。

「どうしたの?」

「おそらく、こいつらの言っていることは本当です」

 私は眉根を寄せた。

「実は昨日こいつらと闘う前、妙な感じがしたのです。何と申し上げればよいのでしょう……まるで違法な薬物を摂取したような、もしくは誰かに操られているかのような感じです」

「それ本当?」

「はい、そのときは略奪行為の前で一種の興奮状態にあったのだろうとさして気にしませんでしたが、今のこいつらの様子を見ていると、ただの言い訳とはとても思えないのです」

 う~ん、と私は唸った。

 正直なところ、確かに野伏せりたちの様子は変だ。

 私も多くの患者を診てきた身である。

 目の前の患者が本当の病気を患っているのか、それとも詐病や仮病なのかの見分けが見極められるほど観察眼が磨かれていた。

 その観察眼を以てすると、野伏せりたちは嘘をついてはいない。

 となると、リヒトが言うように昨日の野伏せりたちは正常な状態ではなかったのかもしれない。

「ねえ、あなたたちにちょっと聞きたいことがあるのだけれど」

 私は野伏せりたちの前まで歩を進めると、威嚇するような目つきでたずねた。

「昨日この村を襲撃する前に違法な薬物なんかを摂取していた?」

「はあ? そんなもん略奪前にキメるわけねえだろう。頭がおかしくなって略奪どころじゃなくなるぜ」

 これも本当だろう。

 野伏せりたちの表情や声色はもちろん、おそらく心拍数にも変化はない。

 だとすると――。

「じゃあ、もう1つ質問するわ。あなたたち、襲撃前にどこかガスが湧き出るような場所にいた?」

「ガス?」

「そう、もしくはそれに近しい場所とかね」

 しんと静まり返った中、やがて1人の野伏せりが「まさか、あそこか」とつぶやいた。

「あそこってどこ?」

 私が睨みつけながらたずねると、野伏せりはたじたじとした態度で答えた。

 何でも野伏せりたちは昨日の昼間、このフタラ村から北東の方角にあった山の麓で奇妙な洞窟を発見した。

 そこで野伏せりたちはお宝があるかもしれないと洞窟に潜ってみると、その洞窟の奥で3メートル近くの高さがあった水晶を見つけたという。

 問題はここからだった。

 その水晶を見つけたあとから、どの野伏せりたちもまったく記憶がなくなっているらしい。

「おい、その話は嘘じゃないだろうな?」

 私の代わりにリヒトが指の骨を鳴らしながら確認した。

 ヒイッと野伏せりたちの顔が真っ青になる。

「う、嘘じゃねえよ! 神に誓って本当だ! その馬鹿でけえ紫色に光っていた水晶を見つけたあと、気づいたら俺たちはあんたたちに捕まってたんだ! 本当だって!」

 このとき、私の脳裏にあることがよぎる。

「お嬢さま、まさか……」

 リヒトも私と同じ考えに至ったのだろう。

「たぶん、あなたの考えていることで当たりよ」

 3メートル近くもある、紫色に発光していた水晶というとアレしかない。

 一方の役人たちは「何のことですか?」と目でたずねてくる。

 私は役人たちに告げた。

「魔力水晶石です。それもまったく未発見の」
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された令嬢ですが、王国は私抜きでは立てなかったようですね』

鷹 綾
恋愛
「愛しているのは彼女だ」 王太子ロネスにそう告げられ、婚約を破棄された侯爵令嬢エルゼリア・クローヴェル。 感情をぶつけることも、復讐を誓うこともなく、 彼女はただ――王宮を去った。 しかしその直後から、王国は静かに崩れ始める。 外交は滞り、判断は遅れ、市場は揺れ、 かつて「問題なく回っていた」はずの政務が、次々と行き詰まっていった。 一方、エルゼリアは帝国で新たな立場を得ていた。 帝国宰相ハインリヒ・ヴォルフの隣で、 彼女は再び“判断する側”として歩み始める。 やがて明らかになるのは、 王国が失ったのは「婚約者」ではなく、 判断を引き継ぐ仕組みそのものだったという事実。 謝罪も、復縁も、感情的なざまあもない。 それでも―― 選ばれ、認められ、引き継がれていくのは、誰なのか。 これは、 捨てられた令嬢が声を荒げることなく、 世界のほうが彼女を必要としてしまった物語。

冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました

鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」 そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。 しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!? だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。 「彼女を渡すつもりはない」 冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!? 毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし! さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜―― リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される! 政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー! 「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

【完結】濡れ衣聖女はもう戻らない 〜ホワイトな宮廷ギルドで努力の成果が実りました

冬月光輝
恋愛
代々魔術師の名家であるローエルシュタイン侯爵家は二人の聖女を輩出した。 一人は幼き頃より神童と呼ばれた天才で、史上最年少で聖女の称号を得たエキドナ。 もう一人はエキドナの姉で、妹に遅れをとること五年目にしてようやく聖女になれた努力家、ルシリア。 ルシリアは魔力の量も生まれつき、妹のエキドナの十分の一以下でローエルシュタインの落ちこぼれだと蔑まれていた。 しかし彼女は努力を惜しまず、魔力不足を補う方法をいくつも生み出し、教会から聖女だと認められるに至ったのである。 エキドナは目立ちたがりで、国に一人しかいなかった聖女に姉がなることを良しとしなかった。 そこで、自らの家宝の杖を壊し、その罪を姉になすりつけ、彼女を実家から追放させた。 「無駄な努力」だと勝ち誇った顔のエキドナに嘲り笑われたルシリアは失意のまま隣国へと足を運ぶ。 エキドナは知らなかった。魔物が増えた昨今、彼女の働きだけでは不足だと教会にみなされて、姉が聖女になったことを。 ルシリアは隣国で偶然再会した王太子、アークハルトにその力を認められ、宮廷ギルド入りを勧められ、宮仕えとしての第二の人生を送ることとなる。 ※旧タイトル『妹が神童だと呼ばれていた聖女、「無駄な努力」だと言われ追放される〜「努力は才能を凌駕する」と隣国の宮廷ギルドで証明したので、もう戻りません』

【完結】令嬢は売られ、捨てられ、治療師として頑張ります。

まるねこ
ファンタジー
魔法が使えなかったせいで落ちこぼれ街道を突っ走り、伯爵家から売られたソフィ。 泣きっ面に蜂とはこの事、売られた先で魔物と出くわし、置いて逃げられる。 それでも挫けず平民として仕事を頑張るわ! 【手直しての再掲載です】 いつも通り、ふんわり設定です。 いつも悩んでおりますが、カテ変更しました。ファンタジーカップには参加しておりません。のんびりです。(*´꒳`*) Copyright©︎2022-まるねこ

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

処理中です...