【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

ともボン

文字の大きさ
25 / 48
第三章 辺境地域の異変の原因

第二十五話 銀色のモフモフは子犬? 

しおりを挟む
 確かあれは私が10歳ぐらいの頃だろうか。

 私は父上の仕事に無理やり連れて行ってもらい、遠方の街へ馬車へ出かけた。

 行きは何もなかったのだが、事が起こったのは帰り道の途中である。

 私たちが屋敷へ帰る途中の街道で、凶悪な魔物に襲われたのだ。

 東国では人鬼とも呼ばれているオーガだった。

 護衛たちは必死にオーガに立ち向かったが、当時の父上を護衛していた人間たちは冒険者クラスでいうところのCランクの腕前だったため、とてもそのオーガには歯が立たなかった。

 そして私と父上が馬車の中で死を感じたとき、茂みの中から飛び出した何かが護衛たちとオーガの間に着地した。

 あのときの父上の恐怖した様子は鮮明に覚えている。

 何かの正体は幼かったリヒトであり、リヒトはたった1人で凶悪なオーガに立ち向かった。

 しかもリヒトが手にしていたのは大木からへし折った太い枝。

 私たちの脳裏には、オーガに一撃で殺されるリヒトの無残な姿が浮かんだ。

 だが、私の想像に反して信じられないことが起こった。

 リヒトは太い枝1本でオーガを倒してしまったのだ。

 リヒトはオーガの攻撃をひらりとかわしていき、高らかに跳躍するとオーガの無防備だった脳天に渾身の一撃を振り下ろした。

 その一撃はオーガの頭蓋を叩き割り、肉片と脳漿を巻き散らしながらオーガは絶命したのである。

 一方、オーガを倒した当時のリヒトはひどい怪我を負っていた。

 あのときのことは昨日のことのように思い出せる。

 リヒトは怪我を負っているにもかかわらず、オーガに襲われて命が危うかった私たちを助けてくれたのだ。

 しかし、そんなリヒトに父上はオーガ以上の戦慄と恐怖を感じた。

 ――この子供は魔人の子に違いない

 オーガを倒したときにすべての力を使い果たしたのか、リヒトはバタリと倒れて気を失った。

 そんなリヒトを殺してしまえと父上は護衛たちに命じたのである。

 もちろん、そんなことを私が許すはずがない。

 私は気を失ったリヒトに近づき、日頃から修練していた治癒魔法で怪我を治した。

 そして目覚めたリヒトを私の護衛にしたいと父上に懇願したのである。

 当時の私はすでに〈防国姫〉候補だったため、父上は何も言えずにリヒトをフィンドラル家の護衛騎士として雇い入れた。

 そのことをリヒトは今でも大恩として感じてくれている。

 リヒトが異国からこのカスケード王国に来た理由が、郷里にいる重病の母親の薬代を稼ぐためだったと知った私が大金をあげたことも関係しているだろうが。

 あれから約7年。

 何の因果か今は2人してフィンドラル家から絶縁されてしまい、〈放浪医師〉とその助手兼従者として森の中で野宿している。

 まあ、これはこれで気楽でいいんだけど。

 そんなことを考えていると、リヒトは急に表情を引き締めた。

 目つきを鋭くさせて真っ暗な茂みの一角へと顔を向ける。

 そのリヒトの緊張感は私とメリダにも伝わった。

 私たちも同じ方向に顔を向ける。

 すると――。

 ガサ、ガサ、ガサ、ガサ……。

 茂みの中から葉っぱを鳴らしながら何かが現れた。

 私たち――特に私とメリダは緊張から一変して目の色を輝かせる。

 全身が銀色のもふもふとした子犬がそこにはいた。

 けれども、妙な子犬である。

 よく見ると毛並みなどが普通の犬よりも多くて独特だ。

 それはともかく。

 銀色のもふもふは「グルルル」と唸り声を上げて近づいてくる。

「お嬢さま」

 すかさずリヒトが私の盾になるように動いたが、私はリヒトの横を通り過ぎて銀色のもふもふに歩み寄っていく。

 なぜなら、銀色のもふもふは怪我をしていたからだ。

 猟師が仕掛けた罠にかかったあと、自分で無理やり解いたのかもしれない。

 何せ銀色のもふもふの後ろ足が血だらけだったのである。

 では、そんな手負いの獣がどうして私たちの前に現れたのか?

 おそらく、腹がすいているのだろう。

 本当は人間の前に出て来るつもりはなかったが、リヒトがあぶっていた干し肉の香ばしい匂いに我慢できなかったに違いない。

「かわいそうに」

 私は自分の干し肉を与えることは全然よかったが、それ以上に銀色のもふもふの怪我が気になった。

 このまま放置しておくと、野生で生きるには致命傷になってしまう。

 私も聖人ではない。

 この世のすべての生物を自分が助けられるとは思っていないが、こうして少しでも自分と関りができた相手ならば救ってやるのなら救ってあげたい。

 たとえそれが銀色のもふもふとした、妙な子犬であったとしても。

 なので私は両手に魔力を集中させた。

 あの程度の怪我ならば私の力ですぐに治療できる。

「大丈夫、私は味方よ。だから大人しく怪我を見せてちょうだい」

 銀色のもふもふは一旦立ち止まって唸り声を強めたが、私が一片の曇りもない慈愛の眼差しで見つめていると、銀色のもふもふに変化が出てきた。

 警戒している唸り声が止み、助けを求めるように私にとぼとぼと向かってきたのである。

 そんな銀色のもふもふを私は助けた。

 両膝を曲げて銀色のもふもふを優しく迎え入れると、両手に集中させた魔力を放って〈手当て〉する。

 銀色のもふもふの怪我はあっという間に治った。

 すると銀色のもふもふは、大喜びで私の顔をペロペロと舐め始める。

「お~、よしよし。もう大丈夫よ。それにしても変な犬ね。何ていう犬種かしら?」

 私が銀色のもふもふを撫でていると、リヒトとメリダが歩み寄ってきた。

「お嬢さま、そいつは犬じゃありません」

 そしてリヒトは、私と銀色のもふもふを見つめながら言った。

「そいつは狼です。それも伝説の魔獣と呼ばれる、フェンリル種の子狼ですよ」
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄された令嬢ですが、王国は私抜きでは立てなかったようですね』

鷹 綾
恋愛
「愛しているのは彼女だ」 王太子ロネスにそう告げられ、婚約を破棄された侯爵令嬢エルゼリア・クローヴェル。 感情をぶつけることも、復讐を誓うこともなく、 彼女はただ――王宮を去った。 しかしその直後から、王国は静かに崩れ始める。 外交は滞り、判断は遅れ、市場は揺れ、 かつて「問題なく回っていた」はずの政務が、次々と行き詰まっていった。 一方、エルゼリアは帝国で新たな立場を得ていた。 帝国宰相ハインリヒ・ヴォルフの隣で、 彼女は再び“判断する側”として歩み始める。 やがて明らかになるのは、 王国が失ったのは「婚約者」ではなく、 判断を引き継ぐ仕組みそのものだったという事実。 謝罪も、復縁も、感情的なざまあもない。 それでも―― 選ばれ、認められ、引き継がれていくのは、誰なのか。 これは、 捨てられた令嬢が声を荒げることなく、 世界のほうが彼女を必要としてしまった物語。

冷酷侯爵と政略結婚したら、実家がざまぁされました

鍛高譚
恋愛
「この結婚は、家のため。ただの政略結婚よ」 そう言い聞かせ、愛のない結婚を受け入れた公爵令嬢リゼット。 しかし、挙式後すぐに父が「婚約破棄しろ」と命じてきた!? だが、夫であるアレクシス・フォン・シュヴァルツ侯爵は冷たく言い放つ。 「彼女を渡すつもりはない」 冷酷無慈悲と噂される侯爵が、なぜかリゼットを溺愛し始める!? 毎日甘やかされ、守られ、気づけば逃げ場なし! さらに、父の不正が明るみに出て、公爵家は失墜―― リゼットを道具として利用しようとした者たちに、ざまぁの鉄槌が下される! 政略結婚から始まる、甘々溺愛ラブストーリー! 「愛なんてないはずなのに……どうしてこんなに大切にされるの?」

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

【完結】濡れ衣聖女はもう戻らない 〜ホワイトな宮廷ギルドで努力の成果が実りました

冬月光輝
恋愛
代々魔術師の名家であるローエルシュタイン侯爵家は二人の聖女を輩出した。 一人は幼き頃より神童と呼ばれた天才で、史上最年少で聖女の称号を得たエキドナ。 もう一人はエキドナの姉で、妹に遅れをとること五年目にしてようやく聖女になれた努力家、ルシリア。 ルシリアは魔力の量も生まれつき、妹のエキドナの十分の一以下でローエルシュタインの落ちこぼれだと蔑まれていた。 しかし彼女は努力を惜しまず、魔力不足を補う方法をいくつも生み出し、教会から聖女だと認められるに至ったのである。 エキドナは目立ちたがりで、国に一人しかいなかった聖女に姉がなることを良しとしなかった。 そこで、自らの家宝の杖を壊し、その罪を姉になすりつけ、彼女を実家から追放させた。 「無駄な努力」だと勝ち誇った顔のエキドナに嘲り笑われたルシリアは失意のまま隣国へと足を運ぶ。 エキドナは知らなかった。魔物が増えた昨今、彼女の働きだけでは不足だと教会にみなされて、姉が聖女になったことを。 ルシリアは隣国で偶然再会した王太子、アークハルトにその力を認められ、宮廷ギルド入りを勧められ、宮仕えとしての第二の人生を送ることとなる。 ※旧タイトル『妹が神童だと呼ばれていた聖女、「無駄な努力」だと言われ追放される〜「努力は才能を凌駕する」と隣国の宮廷ギルドで証明したので、もう戻りません』

【完結】令嬢は売られ、捨てられ、治療師として頑張ります。

まるねこ
ファンタジー
魔法が使えなかったせいで落ちこぼれ街道を突っ走り、伯爵家から売られたソフィ。 泣きっ面に蜂とはこの事、売られた先で魔物と出くわし、置いて逃げられる。 それでも挫けず平民として仕事を頑張るわ! 【手直しての再掲載です】 いつも通り、ふんわり設定です。 いつも悩んでおりますが、カテ変更しました。ファンタジーカップには参加しておりません。のんびりです。(*´꒳`*) Copyright©︎2022-まるねこ

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

処理中です...