【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

ともボン

文字の大きさ
26 / 48
第三章 辺境地域の異変の原因

第二十六話 アルベルト・ウォーケンの悲劇 

しおりを挟む
 アルベルト・ウォーケンこと俺は、先遣隊に選ばされた兵士たちとともにオクタへとやってきた。

 王都ではオクタは小さな漁港と呼ばれていたが、馬車の中から見渡す限りではそれなりに発展している様子が見て取れる。

 石造りの建物も多く、娯楽施設もそれなりに揃っている印象だ。

 漁港以上、貿易港未満といったところか。

「この漁港の近くに魔力水晶石があるんですね」

 俺は隣に座っていた兵士長に話しかけると、体格のいい兵士長は「はい」と大げさにうなずいた。

 今回、先遣隊に選ばれた兵士たちは30代が多い。

 つまり、俺よりも10歳は年上の大人たちだ。

 けれど、兵士たちは俺に対してはずっと敬語で話しかけてきた。

 俺が将来の魔術技師庁を担う逸材だと上司から言われたのだろう。

「そうかしこまらないでください。俺はまだ新米なんですから」

「ですが、優秀だからこそ他の魔術技師たちを差し置いて今回の派遣に選ばれたのでしょう」

 ここで「そうですね」とはさすがに自画自賛できなかった。

 そこまで言えば謙遜を通り過ぎて単なる嫌味である。

「これも経験だと思って頑張りますよ」

 俺は当たり障りのない返事をしながら、馬車の中から外を見つめた。

 今日は天気もよく、遠くに見える海も穏やかだ。

 まるでこれからの仕事が簡単に終わることを天が示しているようだ。

「どうします? 一旦、宿屋に向かいますか?」

 兵士長の問いに俺は思考した。

「その前に1度現場を見に行きましょうか。特に異変がないようでしたら、その場でメンテナンスを終わらせてしまいましょう。そうすればあとは自由時間ですし」

 俺がそう言うと、兵士長はパッと表情を明るくした。

「わかりました。ならばこの漁港から少し離れた山の麓にある神殿に向かいましょう。ここの魔力水晶石はその神殿の神官たちが守っているのです」

「常駐の魔術技師はいないのですもんね」

「さすがに王都から離れ過ぎていますから……まあ、そんなに深く考えずに気楽にやりましょう」

 俺は「そうですね」と同意する。

 今回のオクタへの派遣は、あくまでも魔力水晶石のメンテナンスが主で危険なことはない。

 このオクタに来るまで1度だけ魔物に襲われたが、それはゴブリンやアルミラージなどの低級魔物だったため、兵士たちは怪我をすることなくあっさりと退治してしまった。

 辺境の地域には凶悪な魔物が多いとは聞いているが、それは人里から遠く離れた場所にいることがほとんどだ。

 ここまで発展している漁港ならばそんなに危険はないだろう。

 とはいえ、この世に絶対なことはない。

 俺は出立前のミーシャの顔を思い浮かべた。

 俺がこの辺境の魔力水晶石のメンテナンス要員に選ばれたと知ったときは、ミーシャは顔を青ざめて泣きじゃくっていた。

 今生の別れと言うには大げさだが、それぐらいの危険をミーシャは抱いたのだろう。

 そんなミーシャを必死になだめ、俺はこうして辺境の漁港にいる。

 正直なところ、長居などしたくない。

 やることをやって兵士たちとある程度休息したら、王都へ帰ってミーシャと愛し合うのだ。

 などと考えていると、馬車は緩やかな坂の上にあった神殿へと到着した。

 この村の神殿は、かなり古い時代に建てられた神殿だ。

 なので当時のたまに来る大嵐による津波から守るため、神殿は街から離れた山の麓に建てられていた。

 大理石で建てられている王都の神殿と違って、この神殿は村の中にあった建物と同じ石材を主として建てられている。

 俺たちは馬車を下りると、ぞろぞろと神殿の中へと足を踏み入れていく。

 直後、俺は内部の様子に首をかしげた。

 神殿の中はしんと静まり返っていて、人の気配がまるでしない。

「はて、この神殿にはそれなりの数の神官たちがいるはずですが」

 俺と同じく首をかしげたのは兵士長だ。

「村の会合か何かに参加して留守にしているとか」

「いえ、だとしても全員で参加するはずはないでしょうに」

 確かに兵士長の言う通りである。

 神官長ならばいざ知らず、他の神官たちも会合に参加するはずがない。

「でも、ここで帰るのも面倒です。とりあえず魔力水晶石の様子を見ましょう」

 と、俺の提案で全員で神殿の奥に向かった。

 神殿の奥には、魔力水晶石が台座の上に鎮座されていた。

「…………え?」

 魔力水晶石を見たとき、俺は思わず頓狂な声を発してしまった。

 俺の視界に飛び込んできたのは、怪しげな紫色に輝いている魔力水晶石だったのだ。

 魔力水晶石が紫色に発光しているということは、致命的な異常を起こしている証拠である。

 だとしたら非常にマズい。

 すぐに正常な緑色に発光させるために直さないと。

 俺は用意していた荷物入れから修理用の魔道具を出した。

 その直後である。

「うわあああああああ――――ッ!」

 兵士の1人の叫び声が周囲に木霊した。

 俺は何事かと振り向くと、出入り口の近くにいた兵士の1人が床に倒れていた。

 それだけではない。

 倒れていた兵士の近くには、僧侶服に身を包んでいた神官長がいたのだ。

 白髪の60代と思しき老齢の神官長である。

「な、何をされるか!」

 兵士長は思わず長剣を抜くと、魔物でもない神官長に切っ先を向けた。

 しかし、神官長は微塵も動揺しない。

 そればかりか、兵士長に向かってゆっくりと歩を進めていく。

 このとき、俺はハッと気づいた。

 神官長の両目は異常なほど血走り、猛獣のような唸り声を上げていたことに。

 まともな状態じゃない。

 俺と同じことを考えたのか、残りの兵士たちも慌てながら長剣を抜いた。

 それでも神官長は歩みを止めるどろか、強く地面を蹴って俺たちに襲いかかってきた。

「ギョオオオオオオオオ――――ッ!」

 神官長の腹の底にまで響く叫声を聞きながら、俺は脳裏にミーシャの愛しい顔を思い浮かべた。

 ああ……ミーシャ……俺はもう君には会えな…………
 
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

無能令嬢、『雑役係』として辺境送りされたけど、世界樹の加護を受けて規格外に成長する

タマ マコト
ファンタジー
名門エルフォルト家の長女クレアは、生まれつきの“虚弱体質”と誤解され、家族から無能扱いされ続けてきた。 社交界デビュー目前、突然「役立たず」と決めつけられ、王都で雑役係として働く名目で辺境へ追放される。 孤独と諦めを抱えたまま向かった辺境の村フィルナで、クレアは自分の体調がなぜか安定し、壊れた道具や荒れた土地が彼女の手に触れるだけで少しずつ息を吹き返す“奇妙な変化”に気づく。 そしてある夜、瘴気に満ちた森の奥から呼び寄せられるように、一人で足を踏み入れた彼女は、朽ちた“世界樹の分枝”と出会い、自分が世界樹の血を引く“末裔”であることを知る——。 追放されたはずの少女が、世界を動かす存在へ覚醒する始まりの物語。

婚約破棄された公爵令嬢ですが、王太子を破滅させたあと静かに幸せになります

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として尽くしてきた公爵令嬢エレナは、 誕生日の舞踏会で突然、婚約破棄を宣言される。 「地味で役に立たない」と嘲笑され、 平民の少女を新たな婚約者に選ぶ王太子。 家族にも見放され、エレナは王都を追われることに――。 しかし彼女は、ただの“癒しの令嬢”ではなかった。 静かに力を蓄え、事実と証拠だけで王太子の虚飾を暴き、 自らの手で破滅へと導いていく。 復讐の果てに選んだのは、 誰かに与えられる地位でも、名誉でもない。 自分で選び取る、穏やかな幸せ。 これは、 婚約破棄された公爵令嬢が 王太子を終わらせたあと、 本当の人生を歩き出す物語。 -

婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~

ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。 そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。 自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。 マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――   ※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。    ※第二章まで完結してます。現在、最終章について考え中です(第二章が考えていた話から離れてしまいました(^_^;))  書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m    ※小説家になろう様にも投稿しています。

地味令嬢を見下した元婚約者へ──あなたの国、今日滅びますわよ

タマ マコト
ファンタジー
王都の片隅にある古びた礼拝堂で、静かに祈りと針仕事を続ける地味な令嬢イザベラ・レーン。 灰色の瞳、色褪せたドレス、目立たない声――誰もが彼女を“無害な聖女気取り”と笑った。 だが彼女の指先は、ただ布を縫っていたのではない。祈りの糸に、前世の記憶と古代詠唱を縫い込んでいた。 ある夜、王都の大広間で開かれた舞踏会。 婚約者アルトゥールは、人々の前で冷たく告げる――「君には何の価値もない」。 嘲笑の中で、イザベラはただ微笑んでいた。 その瞳の奥で、何かが静かに目覚めたことを、誰も気づかないまま。 翌朝、追放の命が下る。 砂埃舞う道を進みながら、彼女は古びた巻物の一節を指でなぞる。 ――“真実を映す者、偽りを滅ぼす” 彼女は祈る。けれど、その祈りはもう神へのものではなかった。 地味令嬢と呼ばれた女が、国そのものに裁きを下す最初の一歩を踏み出す。

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

処理中です...