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第三章 辺境地域の異変の原因
第二十五話 銀色のモフモフは子犬?
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確かあれは私が10歳ぐらいの頃だろうか。
私は父上の仕事に無理やり連れて行ってもらい、遠方の街へ馬車へ出かけた。
行きは何もなかったのだが、事が起こったのは帰り道の途中である。
私たちが屋敷へ帰る途中の街道で、凶悪な魔物に襲われたのだ。
東国では人鬼とも呼ばれているオーガだった。
護衛たちは必死にオーガに立ち向かったが、当時の父上を護衛していた人間たちは冒険者クラスでいうところのCランクの腕前だったため、とてもそのオーガには歯が立たなかった。
そして私と父上が馬車の中で死を感じたとき、茂みの中から飛び出した何かが護衛たちとオーガの間に着地した。
あのときの父上の恐怖した様子は鮮明に覚えている。
何かの正体は幼かったリヒトであり、リヒトはたった1人で凶悪なオーガに立ち向かった。
しかもリヒトが手にしていたのは大木からへし折った太い枝。
私たちの脳裏には、オーガに一撃で殺されるリヒトの無残な姿が浮かんだ。
だが、私の想像に反して信じられないことが起こった。
リヒトは太い枝1本でオーガを倒してしまったのだ。
リヒトはオーガの攻撃をひらりとかわしていき、高らかに跳躍するとオーガの無防備だった脳天に渾身の一撃を振り下ろした。
その一撃はオーガの頭蓋を叩き割り、肉片と脳漿を巻き散らしながらオーガは絶命したのである。
一方、オーガを倒した当時のリヒトはひどい怪我を負っていた。
あのときのことは昨日のことのように思い出せる。
リヒトは怪我を負っているにもかかわらず、オーガに襲われて命が危うかった私たちを助けてくれたのだ。
しかし、そんなリヒトに父上はオーガ以上の戦慄と恐怖を感じた。
――この子供は魔人の子に違いない
オーガを倒したときにすべての力を使い果たしたのか、リヒトはバタリと倒れて気を失った。
そんなリヒトを殺してしまえと父上は護衛たちに命じたのである。
もちろん、そんなことを私が許すはずがない。
私は気を失ったリヒトに近づき、日頃から修練していた治癒魔法で怪我を治した。
そして目覚めたリヒトを私の護衛にしたいと父上に懇願したのである。
当時の私はすでに〈防国姫〉候補だったため、父上は何も言えずにリヒトをフィンドラル家の護衛騎士として雇い入れた。
そのことをリヒトは今でも大恩として感じてくれている。
リヒトが異国からこのカスケード王国に来た理由が、郷里にいる重病の母親の薬代を稼ぐためだったと知った私が大金をあげたことも関係しているだろうが。
あれから約7年。
何の因果か今は2人してフィンドラル家から絶縁されてしまい、〈放浪医師〉とその助手兼従者として森の中で野宿している。
まあ、これはこれで気楽でいいんだけど。
そんなことを考えていると、リヒトは急に表情を引き締めた。
目つきを鋭くさせて真っ暗な茂みの一角へと顔を向ける。
そのリヒトの緊張感は私とメリダにも伝わった。
私たちも同じ方向に顔を向ける。
すると――。
ガサ、ガサ、ガサ、ガサ……。
茂みの中から葉っぱを鳴らしながら何かが現れた。
私たち――特に私とメリダは緊張から一変して目の色を輝かせる。
全身が銀色のもふもふとした子犬がそこにはいた。
けれども、妙な子犬である。
よく見ると毛並みなどが普通の犬よりも多くて独特だ。
それはともかく。
銀色のもふもふは「グルルル」と唸り声を上げて近づいてくる。
「お嬢さま」
すかさずリヒトが私の盾になるように動いたが、私はリヒトの横を通り過ぎて銀色のもふもふに歩み寄っていく。
なぜなら、銀色のもふもふは怪我をしていたからだ。
猟師が仕掛けた罠にかかったあと、自分で無理やり解いたのかもしれない。
何せ銀色のもふもふの後ろ足が血だらけだったのである。
では、そんな手負いの獣がどうして私たちの前に現れたのか?
おそらく、腹がすいているのだろう。
本当は人間の前に出て来るつもりはなかったが、リヒトがあぶっていた干し肉の香ばしい匂いに我慢できなかったに違いない。
「かわいそうに」
私は自分の干し肉を与えることは全然よかったが、それ以上に銀色のもふもふの怪我が気になった。
このまま放置しておくと、野生で生きるには致命傷になってしまう。
私も聖人ではない。
この世のすべての生物を自分が助けられるとは思っていないが、こうして少しでも自分と関りができた相手ならば救ってやるのなら救ってあげたい。
たとえそれが銀色のもふもふとした、妙な子犬であったとしても。
なので私は両手に魔力を集中させた。
あの程度の怪我ならば私の力ですぐに治療できる。
「大丈夫、私は味方よ。だから大人しく怪我を見せてちょうだい」
銀色のもふもふは一旦立ち止まって唸り声を強めたが、私が一片の曇りもない慈愛の眼差しで見つめていると、銀色のもふもふに変化が出てきた。
警戒している唸り声が止み、助けを求めるように私にとぼとぼと向かってきたのである。
そんな銀色のもふもふを私は助けた。
両膝を曲げて銀色のもふもふを優しく迎え入れると、両手に集中させた魔力を放って〈手当て〉する。
銀色のもふもふの怪我はあっという間に治った。
すると銀色のもふもふは、大喜びで私の顔をペロペロと舐め始める。
「お~、よしよし。もう大丈夫よ。それにしても変な犬ね。何ていう犬種かしら?」
私が銀色のもふもふを撫でていると、リヒトとメリダが歩み寄ってきた。
「お嬢さま、そいつは犬じゃありません」
そしてリヒトは、私と銀色のもふもふを見つめながら言った。
「そいつは狼です。それも伝説の魔獣と呼ばれる、フェンリル種の子狼ですよ」
私は父上の仕事に無理やり連れて行ってもらい、遠方の街へ馬車へ出かけた。
行きは何もなかったのだが、事が起こったのは帰り道の途中である。
私たちが屋敷へ帰る途中の街道で、凶悪な魔物に襲われたのだ。
東国では人鬼とも呼ばれているオーガだった。
護衛たちは必死にオーガに立ち向かったが、当時の父上を護衛していた人間たちは冒険者クラスでいうところのCランクの腕前だったため、とてもそのオーガには歯が立たなかった。
そして私と父上が馬車の中で死を感じたとき、茂みの中から飛び出した何かが護衛たちとオーガの間に着地した。
あのときの父上の恐怖した様子は鮮明に覚えている。
何かの正体は幼かったリヒトであり、リヒトはたった1人で凶悪なオーガに立ち向かった。
しかもリヒトが手にしていたのは大木からへし折った太い枝。
私たちの脳裏には、オーガに一撃で殺されるリヒトの無残な姿が浮かんだ。
だが、私の想像に反して信じられないことが起こった。
リヒトは太い枝1本でオーガを倒してしまったのだ。
リヒトはオーガの攻撃をひらりとかわしていき、高らかに跳躍するとオーガの無防備だった脳天に渾身の一撃を振り下ろした。
その一撃はオーガの頭蓋を叩き割り、肉片と脳漿を巻き散らしながらオーガは絶命したのである。
一方、オーガを倒した当時のリヒトはひどい怪我を負っていた。
あのときのことは昨日のことのように思い出せる。
リヒトは怪我を負っているにもかかわらず、オーガに襲われて命が危うかった私たちを助けてくれたのだ。
しかし、そんなリヒトに父上はオーガ以上の戦慄と恐怖を感じた。
――この子供は魔人の子に違いない
オーガを倒したときにすべての力を使い果たしたのか、リヒトはバタリと倒れて気を失った。
そんなリヒトを殺してしまえと父上は護衛たちに命じたのである。
もちろん、そんなことを私が許すはずがない。
私は気を失ったリヒトに近づき、日頃から修練していた治癒魔法で怪我を治した。
そして目覚めたリヒトを私の護衛にしたいと父上に懇願したのである。
当時の私はすでに〈防国姫〉候補だったため、父上は何も言えずにリヒトをフィンドラル家の護衛騎士として雇い入れた。
そのことをリヒトは今でも大恩として感じてくれている。
リヒトが異国からこのカスケード王国に来た理由が、郷里にいる重病の母親の薬代を稼ぐためだったと知った私が大金をあげたことも関係しているだろうが。
あれから約7年。
何の因果か今は2人してフィンドラル家から絶縁されてしまい、〈放浪医師〉とその助手兼従者として森の中で野宿している。
まあ、これはこれで気楽でいいんだけど。
そんなことを考えていると、リヒトは急に表情を引き締めた。
目つきを鋭くさせて真っ暗な茂みの一角へと顔を向ける。
そのリヒトの緊張感は私とメリダにも伝わった。
私たちも同じ方向に顔を向ける。
すると――。
ガサ、ガサ、ガサ、ガサ……。
茂みの中から葉っぱを鳴らしながら何かが現れた。
私たち――特に私とメリダは緊張から一変して目の色を輝かせる。
全身が銀色のもふもふとした子犬がそこにはいた。
けれども、妙な子犬である。
よく見ると毛並みなどが普通の犬よりも多くて独特だ。
それはともかく。
銀色のもふもふは「グルルル」と唸り声を上げて近づいてくる。
「お嬢さま」
すかさずリヒトが私の盾になるように動いたが、私はリヒトの横を通り過ぎて銀色のもふもふに歩み寄っていく。
なぜなら、銀色のもふもふは怪我をしていたからだ。
猟師が仕掛けた罠にかかったあと、自分で無理やり解いたのかもしれない。
何せ銀色のもふもふの後ろ足が血だらけだったのである。
では、そんな手負いの獣がどうして私たちの前に現れたのか?
おそらく、腹がすいているのだろう。
本当は人間の前に出て来るつもりはなかったが、リヒトがあぶっていた干し肉の香ばしい匂いに我慢できなかったに違いない。
「かわいそうに」
私は自分の干し肉を与えることは全然よかったが、それ以上に銀色のもふもふの怪我が気になった。
このまま放置しておくと、野生で生きるには致命傷になってしまう。
私も聖人ではない。
この世のすべての生物を自分が助けられるとは思っていないが、こうして少しでも自分と関りができた相手ならば救ってやるのなら救ってあげたい。
たとえそれが銀色のもふもふとした、妙な子犬であったとしても。
なので私は両手に魔力を集中させた。
あの程度の怪我ならば私の力ですぐに治療できる。
「大丈夫、私は味方よ。だから大人しく怪我を見せてちょうだい」
銀色のもふもふは一旦立ち止まって唸り声を強めたが、私が一片の曇りもない慈愛の眼差しで見つめていると、銀色のもふもふに変化が出てきた。
警戒している唸り声が止み、助けを求めるように私にとぼとぼと向かってきたのである。
そんな銀色のもふもふを私は助けた。
両膝を曲げて銀色のもふもふを優しく迎え入れると、両手に集中させた魔力を放って〈手当て〉する。
銀色のもふもふの怪我はあっという間に治った。
すると銀色のもふもふは、大喜びで私の顔をペロペロと舐め始める。
「お~、よしよし。もう大丈夫よ。それにしても変な犬ね。何ていう犬種かしら?」
私が銀色のもふもふを撫でていると、リヒトとメリダが歩み寄ってきた。
「お嬢さま、そいつは犬じゃありません」
そしてリヒトは、私と銀色のもふもふを見つめながら言った。
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