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最終章 最高の仲間たちと一国への治療行為
第四十二話 アメリア・フィンドラルの言動 ④
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ミーシャは真っすぐ突っ込んでくる。
それも重力に逆らうように蝙蝠の翼を大きく広げてだ。
飛翔と言い換えてもいい。
どちらにせよ、ミーシャは大気を切り裂きながら私たちに襲いかかってきた。
「お嬢さま!」
次の瞬間、リヒトは私に抱き着いてきた。
そのまますぐに地面を蹴って真横に大きく飛ぶ。
直後、私たちがいた場所をミーシャは通り過ぎた。
しかし、ミーシャはただ通り過ぎただけではない。
ミーシャは私たちの間合いに入るや、蝙蝠の翼を長大な刃物のように使って真一文字に斬りつけていたのだ。
その威力は凄まじく、ミーシャが通り過ぎたあとに突風のような衝撃音が聞こえたほどだった。
「お嬢さまはここにいてください」
リヒトは私を大柱の裏まで連れてきた。
「いいえ、リヒト。私も一緒に闘うわ」
掛け値なしの本気だった。
確かに私はリヒトと違って身体能力や武術の腕前は格段に落ちるものの、あんな化け物と化したミーシャを相手にするのなら1人よりも2人のほうがよいというぐらいはわかる。
などという私の考えなど、リヒトにはお見通しだったのだろう。
「お言葉ですが、それが有効なのは普通の人間や魔物相手の場合です。あれほどの相手となると、申し訳ありませんがお嬢さまがいては足手まといです」
冷静な判断と言葉だった。
さすがに天才騎士と呼ばれていただけではある。
しかし、それは裏を返せば足手まといがいると自分の身も危ないということを示している。
王宮騎士団たちもそうだが、王都の冒険者ギルドに所属している上位ランカーの冒険者たちの間でも名前が通っているリヒト・ジークウォルトが。
私は2階の部分まで飛翔しているミーシャを見た。
「あの化け物となったミーシャはそんなに強いの?」
「以前にSランクに相当する魔物と闘ったことがありますが、それと同等か下手をすればそれ以上かもしれません」
Sランクの魔物。
確かゴブリンはCランク、オークはBランク、オーガなどの魔物はAランクだったと記憶している。
そしてBランクまでの魔物は猪や熊と同じ「害獣級」と呼ばれ、Aランクに指定された魔物は1つの街に甚大な被害を与えるとして「街災級」と呼ばれている。
けれど、さらにその上のSランクに認定された魔物になると、一国に被害を与える存在とされて「天災級」の魔物扱いになるという。
あのミーシャがSランクに相当する魔物になった。
信じられないことだが、戦闘に関してはリヒトはプロ中のプロである。
ミーシャのあの動きと斬撃を見て、リヒトは瞬時にミーシャの実力を肌感覚で推し量ったに違いない。
だとしたら、戦闘の素人である私の出る幕などはなかった。
本物の闘いに私情は禁物、彼我との実力差を見極める心眼こそ闘いの奥義。
屋敷にいたときのリヒトが常々口にしていた言葉だ。
さすがに最近は口にしていなかったが、それはリヒト自身がその戒めを口にせずとも実行できるだけの実力がついたという証だったのだろう。
とはいえ、私はこのまま隠れていることなどできない。
何か私ができることはないだろうか。
「主核の魔力水晶石」
リヒトはつぶやいた。
「あのミーシャは俺がここで食い止めておきます。なのでお嬢さまは主核の魔力水晶石の元へ行ってください。主核の魔力水晶石を正常に戻せれば、すべてが元通りになるかもしれません」
私はハッとした。
ミーシャの異形化を見て忘れていたが、私たちは主核の魔力水晶石の誤作動を何とかするためにやってきたのだ。
そしてリヒトがつぶやいたように、主核の魔力水晶石を正常な状態に戻せればあのミーシャの力も弱まるかもしれない。
すべては憶測だったが、今はその憶測に賭けるしかない。
いつもは自信満々なリヒトの表情が切迫しているのも、それほど今のミーシャと闘っても絶対に勝てるとは言い切れなかったからだろう。
ならば、私のやることは1つである。
「わかったわ。ミーシャの相手はあなたに任せる。ただし」
と、私はリヒトを強く抱き締める。
「絶対に死なないこと。これはお願いじゃなくて命令よ。いい? 絶対だからね」
リヒトは力強く首を縦に振った。
続いて「御意。俺のご主人さま」とニコリと笑う。
そのときである。
私の全身の産毛が総毛立った。
「あはははははははははははは――――ッ!」
2階部分で旋回していたミーシャが、再び私たちを殺すために追撃してきた。
暴風をまといながら一直線に飛行してくる。
「頼みましたよ、お嬢さま」
リヒトは私を突き放すと、身体ごと振り返って駆け出した。
さすがに素手だけの攻防は不利だと察したのか、そこらの床に転がっている剣を拾って応戦する。
「リヒト……絶対に死んではダメだからね」
私はリヒトの無事を最大限に祈ったあと、両足に力を込めて走り出した。
大ホールの奥には2階部分へと向かう大階段がある。
そして大ホールの左右の壁には別の部屋へと隣接する扉があるのだが、その部屋の奥にある階段からは最上階へは行けない造りになっている。
なので主核の魔力水晶石の元へ向かうためには、否応にも大階段を使って2階へ行かなくてはならない。
そこから先ならばあらゆる階段から最上階へと向かえる。
なので私は大柱と死体の山を大きく迂回し、最大限に周囲を警戒しながら大階段へと足を進めた。
途中、私はちらと後方を振り返ると、ミーシャに剣を投げつけて足止めしてくれているリヒトの姿があった。
リヒトはミーシャが私の元へと来られないように、床に転がっている無数の剣を拾っては投げ、投げては拾ってを繰り返している。
そんなリヒトに感謝しながら、私は一陣の風となって大階段を駆け上がっていく。
あのままリヒトがミーシャを足止めしてくれるなら、私は何の障害もなしに目的の主核の魔力水晶石へと辿り着ける。
私は大階段を一気に上がりきると、記憶に刻まれているカスケード城内の地図を広げて最上階の結界部屋を目指した。
しかし、このときの私は気づいていなかった。
いや、気づいていなかったのは私だけではない。
ミーシャの応戦に夢中でリヒトも気づいていなかったのだろう。
大ホールに築かれていた死体の山の下、たった1つだけムクリと起きて動き始めた死体があったことに――。
それも重力に逆らうように蝙蝠の翼を大きく広げてだ。
飛翔と言い換えてもいい。
どちらにせよ、ミーシャは大気を切り裂きながら私たちに襲いかかってきた。
「お嬢さま!」
次の瞬間、リヒトは私に抱き着いてきた。
そのまますぐに地面を蹴って真横に大きく飛ぶ。
直後、私たちがいた場所をミーシャは通り過ぎた。
しかし、ミーシャはただ通り過ぎただけではない。
ミーシャは私たちの間合いに入るや、蝙蝠の翼を長大な刃物のように使って真一文字に斬りつけていたのだ。
その威力は凄まじく、ミーシャが通り過ぎたあとに突風のような衝撃音が聞こえたほどだった。
「お嬢さまはここにいてください」
リヒトは私を大柱の裏まで連れてきた。
「いいえ、リヒト。私も一緒に闘うわ」
掛け値なしの本気だった。
確かに私はリヒトと違って身体能力や武術の腕前は格段に落ちるものの、あんな化け物と化したミーシャを相手にするのなら1人よりも2人のほうがよいというぐらいはわかる。
などという私の考えなど、リヒトにはお見通しだったのだろう。
「お言葉ですが、それが有効なのは普通の人間や魔物相手の場合です。あれほどの相手となると、申し訳ありませんがお嬢さまがいては足手まといです」
冷静な判断と言葉だった。
さすがに天才騎士と呼ばれていただけではある。
しかし、それは裏を返せば足手まといがいると自分の身も危ないということを示している。
王宮騎士団たちもそうだが、王都の冒険者ギルドに所属している上位ランカーの冒険者たちの間でも名前が通っているリヒト・ジークウォルトが。
私は2階の部分まで飛翔しているミーシャを見た。
「あの化け物となったミーシャはそんなに強いの?」
「以前にSランクに相当する魔物と闘ったことがありますが、それと同等か下手をすればそれ以上かもしれません」
Sランクの魔物。
確かゴブリンはCランク、オークはBランク、オーガなどの魔物はAランクだったと記憶している。
そしてBランクまでの魔物は猪や熊と同じ「害獣級」と呼ばれ、Aランクに指定された魔物は1つの街に甚大な被害を与えるとして「街災級」と呼ばれている。
けれど、さらにその上のSランクに認定された魔物になると、一国に被害を与える存在とされて「天災級」の魔物扱いになるという。
あのミーシャがSランクに相当する魔物になった。
信じられないことだが、戦闘に関してはリヒトはプロ中のプロである。
ミーシャのあの動きと斬撃を見て、リヒトは瞬時にミーシャの実力を肌感覚で推し量ったに違いない。
だとしたら、戦闘の素人である私の出る幕などはなかった。
本物の闘いに私情は禁物、彼我との実力差を見極める心眼こそ闘いの奥義。
屋敷にいたときのリヒトが常々口にしていた言葉だ。
さすがに最近は口にしていなかったが、それはリヒト自身がその戒めを口にせずとも実行できるだけの実力がついたという証だったのだろう。
とはいえ、私はこのまま隠れていることなどできない。
何か私ができることはないだろうか。
「主核の魔力水晶石」
リヒトはつぶやいた。
「あのミーシャは俺がここで食い止めておきます。なのでお嬢さまは主核の魔力水晶石の元へ行ってください。主核の魔力水晶石を正常に戻せれば、すべてが元通りになるかもしれません」
私はハッとした。
ミーシャの異形化を見て忘れていたが、私たちは主核の魔力水晶石の誤作動を何とかするためにやってきたのだ。
そしてリヒトがつぶやいたように、主核の魔力水晶石を正常な状態に戻せればあのミーシャの力も弱まるかもしれない。
すべては憶測だったが、今はその憶測に賭けるしかない。
いつもは自信満々なリヒトの表情が切迫しているのも、それほど今のミーシャと闘っても絶対に勝てるとは言い切れなかったからだろう。
ならば、私のやることは1つである。
「わかったわ。ミーシャの相手はあなたに任せる。ただし」
と、私はリヒトを強く抱き締める。
「絶対に死なないこと。これはお願いじゃなくて命令よ。いい? 絶対だからね」
リヒトは力強く首を縦に振った。
続いて「御意。俺のご主人さま」とニコリと笑う。
そのときである。
私の全身の産毛が総毛立った。
「あはははははははははははは――――ッ!」
2階部分で旋回していたミーシャが、再び私たちを殺すために追撃してきた。
暴風をまといながら一直線に飛行してくる。
「頼みましたよ、お嬢さま」
リヒトは私を突き放すと、身体ごと振り返って駆け出した。
さすがに素手だけの攻防は不利だと察したのか、そこらの床に転がっている剣を拾って応戦する。
「リヒト……絶対に死んではダメだからね」
私はリヒトの無事を最大限に祈ったあと、両足に力を込めて走り出した。
大ホールの奥には2階部分へと向かう大階段がある。
そして大ホールの左右の壁には別の部屋へと隣接する扉があるのだが、その部屋の奥にある階段からは最上階へは行けない造りになっている。
なので主核の魔力水晶石の元へ向かうためには、否応にも大階段を使って2階へ行かなくてはならない。
そこから先ならばあらゆる階段から最上階へと向かえる。
なので私は大柱と死体の山を大きく迂回し、最大限に周囲を警戒しながら大階段へと足を進めた。
途中、私はちらと後方を振り返ると、ミーシャに剣を投げつけて足止めしてくれているリヒトの姿があった。
リヒトはミーシャが私の元へと来られないように、床に転がっている無数の剣を拾っては投げ、投げては拾ってを繰り返している。
そんなリヒトに感謝しながら、私は一陣の風となって大階段を駆け上がっていく。
あのままリヒトがミーシャを足止めしてくれるなら、私は何の障害もなしに目的の主核の魔力水晶石へと辿り着ける。
私は大階段を一気に上がりきると、記憶に刻まれているカスケード城内の地図を広げて最上階の結界部屋を目指した。
しかし、このときの私は気づいていなかった。
いや、気づいていなかったのは私だけではない。
ミーシャの応戦に夢中でリヒトも気づいていなかったのだろう。
大ホールに築かれていた死体の山の下、たった1つだけムクリと起きて動き始めた死体があったことに――。
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