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新たなる脅威篇
1 勃興-5-
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数日後。
政務官の発案によって、シェイドは大会議室に呼ばれた。
税制審議会という彼には馴染みのない言葉を掲げられたここには、田舎出身の小心者には居心地の悪いエリートが揃っている。
集うのはシェイドも顔を知っている政務官たちに初対面となる官僚、内外の有識者が数名という顔ぶれだ。
(なんかすごそうな人がいっぱいいる……)
彼はさっそく気後れした。
プラトウにいた大人はもっと野暮ったくてとっつきやすかった。
悪く言えばエリートとは程遠い、学識のなさそうな――。
「それでは審議会を開催いたします。このような形式での開催は前例がありませんので不手際があればご容赦を」
政務官は落ち着いた様子で宣言した。
(……前例がない?)
ここに来る途中、シェイドは世話役に会の主旨を聞いた。
文字どおり税制について審議をするという。
ペルガモン政権下では不定期かつ頻繁に開催されていたというから、先ほどの前例がないという言葉とは矛盾が生じる。
「僕は何をすればいいんですか?」
すぐ横に座っている政務官に小声で問う。
「今の税金のお話やこれからの税金について話し合います。あとでお呼びしますからそのときに皇帝のお考えをお話しください」
「急にそんなこと言われても難しい話なんて分からないですよ……!」
「大丈夫です。私が補助に回りますから」
土壇場の打ち合わせもそこそこに審議会が始まった。
現行の税制度をまとめた資料が配られ、各人がそれに目を通す。
つづいて政権交代のごたごたで保留となっていた改正案が配られる。
「………………」
難しい文言は理解できなかったが、改正内容のひどさはシェイドにも分かった。
税目は所得に課せられるもの、事業に課せられるものなど幾種類もあるが、彼が注目したのは石に関する税率だ。
今まででさえ過酷だった税率が、さらに10パーセント引き上げ予定であると記されている。
「――以上が改正案となります。ではここで皇帝のご意思を賜りたいと思います」
全員の視線が一斉にシェイドに注がれる。
「僕の意見を言ってもいいんですか?」
官僚たちは何も答えない。
隣にいる政務官は先を促すように頷いた。
「あの……税金が高すぎると思います。所得税とか法人税のことはよく分かりませんけど、石はどうにかなりませんか? 今でも高いのにさらに引き上げるのは――」
民に苦しい生活を強いるばかりだ、とシェイドは訴えた。
すると官僚や識者たちは困ったように顔を見合わせた。
「ダメ……ですか……?」
ともすると自分を批難するような目に彼は委縮してしまう。
「いえ、皇帝のご意思は尊重されるべきでしょう。私たちは慣れていないだけなのです」
「どういうことですか?」
「これまで審議会とは名ばかりで実際は先帝の改正案を伝える形式的なものでした。改正案といってももちろん増税ばかりです」
それがここにきて引き下げを皇帝から持ちかけられ、反応に困っているらしい。
「ひどい人だったんですね」
とはシェイドに許された精一杯の皮肉だ。
「僕は税金は少なければ少ない方がいいと思いますけどどうなんでしょうか?」
意見を募るような口調だったが彼は全員が賛成するだろうと思った。
政務官たちの話を聞くに強権的なペルガモンに嫌気が差していたようだから、民のために賛同してくれるにちがいないと。
だが多くはそれに難色を示した。
「改正案を見送るのはかまいませんが、現行の税率を引き下げるべきではないと思います」
「できるとすれば兵役の免除枠を拡大するくらいでしょうか。ただその場合ですと人頭税を1%ほど引き上げる必要があります」
有識者までもがそろってそう言うものだから、これにはシェイドに付き従っている政務官も驚きを隠せなかった。
(彼らはペルガモンが同じことを言っても反論したのか?)
ちらりとシェイドの横顔を見やる。
世間知らずの田舎の少年がそこにいる。
少女のような顔つきは威圧感どころか威厳の欠片もない。
(こんな子どもに税のことなど分かるハズがないからと丸め込むつもりか? それとも処刑の恐れがないから堂々と異見をぶつけてきたか……)
彼は静かに憤った。
せっかく民を一番に考えてくれる皇帝が誕生したというのに、それに従わないのでは前政権と同じだ。
「拡張した軍を維持するには現行の税率でも不足が生じます。単純に試算しても年間で約7,000億以上の――」
「ちょっと! ちょっと待ってください! 税金ってそんなに足りないんですか? たとえばどこか削るとか……」
全てを言い切ることはできなかった。
官僚たちの呆れたような、憐れむような目が向けられたからだ。
「新皇帝は戦には反対でしたね?」
シェイドはむっとした。
この時代、誰が戦争をしたがるものか。
「はい……そうですけど」
馬鹿にされているような質問に彼はぶっきらぼうに返す。
「であればなおさら税収不足が深刻になります」
「どうしてですか?」
「先帝は戦によって資源や土地、金などを獲得してきました。それらを収支に加えて予算を組んでいたのです。しかし新皇帝にそのご意思がないのであれば――」
税収不足が起こる、と識者は滔々と述べた。
「足りないお金をまかなうために戦争をしろって言うんですか!?」
シェイドは思わず立ち上がった。
再び批難するような目を向けられるが今度は退かない。
「そうは言っておりません。我々は現状を申し上げているだけです」
冷たい視線が突き刺さる。
「戦はシェイド様のご意思に反します。これまでのように戦利による収益を前提にすべきではないでしょう。別の道を模索するべきです」
政務官が助け舟を出した。
「さっき軍隊を維持するのにお金が足りないと言ってましたよね。それなら軍を小さくすればいいんじゃないですか?」
彼の助勢に後押しされたようにシェイドが勢い込む。
「そう簡単にできるものではありません。戦闘中の部隊を撤退させるワケにはいきませんし、防備を削れば他国を利するだけです」
「じゃあすぐでなくてもいいですから、そうしましょう。どうやって縮小するんですか?」
「ここはそれについて論じる場ではありません。軍の編成等については別に議論していただきませんと」
官僚に窘められシェイドはばつ悪そうに座りなおした。
その後、何も言えなくなったシェイドに代わって政務官が審議を進め、改正案を白紙に戻すことが決定された。
しかし減税については官僚や有識者たちの強い反発もあって見送りとなった。
政務官の発案によって、シェイドは大会議室に呼ばれた。
税制審議会という彼には馴染みのない言葉を掲げられたここには、田舎出身の小心者には居心地の悪いエリートが揃っている。
集うのはシェイドも顔を知っている政務官たちに初対面となる官僚、内外の有識者が数名という顔ぶれだ。
(なんかすごそうな人がいっぱいいる……)
彼はさっそく気後れした。
プラトウにいた大人はもっと野暮ったくてとっつきやすかった。
悪く言えばエリートとは程遠い、学識のなさそうな――。
「それでは審議会を開催いたします。このような形式での開催は前例がありませんので不手際があればご容赦を」
政務官は落ち着いた様子で宣言した。
(……前例がない?)
ここに来る途中、シェイドは世話役に会の主旨を聞いた。
文字どおり税制について審議をするという。
ペルガモン政権下では不定期かつ頻繁に開催されていたというから、先ほどの前例がないという言葉とは矛盾が生じる。
「僕は何をすればいいんですか?」
すぐ横に座っている政務官に小声で問う。
「今の税金のお話やこれからの税金について話し合います。あとでお呼びしますからそのときに皇帝のお考えをお話しください」
「急にそんなこと言われても難しい話なんて分からないですよ……!」
「大丈夫です。私が補助に回りますから」
土壇場の打ち合わせもそこそこに審議会が始まった。
現行の税制度をまとめた資料が配られ、各人がそれに目を通す。
つづいて政権交代のごたごたで保留となっていた改正案が配られる。
「………………」
難しい文言は理解できなかったが、改正内容のひどさはシェイドにも分かった。
税目は所得に課せられるもの、事業に課せられるものなど幾種類もあるが、彼が注目したのは石に関する税率だ。
今まででさえ過酷だった税率が、さらに10パーセント引き上げ予定であると記されている。
「――以上が改正案となります。ではここで皇帝のご意思を賜りたいと思います」
全員の視線が一斉にシェイドに注がれる。
「僕の意見を言ってもいいんですか?」
官僚たちは何も答えない。
隣にいる政務官は先を促すように頷いた。
「あの……税金が高すぎると思います。所得税とか法人税のことはよく分かりませんけど、石はどうにかなりませんか? 今でも高いのにさらに引き上げるのは――」
民に苦しい生活を強いるばかりだ、とシェイドは訴えた。
すると官僚や識者たちは困ったように顔を見合わせた。
「ダメ……ですか……?」
ともすると自分を批難するような目に彼は委縮してしまう。
「いえ、皇帝のご意思は尊重されるべきでしょう。私たちは慣れていないだけなのです」
「どういうことですか?」
「これまで審議会とは名ばかりで実際は先帝の改正案を伝える形式的なものでした。改正案といってももちろん増税ばかりです」
それがここにきて引き下げを皇帝から持ちかけられ、反応に困っているらしい。
「ひどい人だったんですね」
とはシェイドに許された精一杯の皮肉だ。
「僕は税金は少なければ少ない方がいいと思いますけどどうなんでしょうか?」
意見を募るような口調だったが彼は全員が賛成するだろうと思った。
政務官たちの話を聞くに強権的なペルガモンに嫌気が差していたようだから、民のために賛同してくれるにちがいないと。
だが多くはそれに難色を示した。
「改正案を見送るのはかまいませんが、現行の税率を引き下げるべきではないと思います」
「できるとすれば兵役の免除枠を拡大するくらいでしょうか。ただその場合ですと人頭税を1%ほど引き上げる必要があります」
有識者までもがそろってそう言うものだから、これにはシェイドに付き従っている政務官も驚きを隠せなかった。
(彼らはペルガモンが同じことを言っても反論したのか?)
ちらりとシェイドの横顔を見やる。
世間知らずの田舎の少年がそこにいる。
少女のような顔つきは威圧感どころか威厳の欠片もない。
(こんな子どもに税のことなど分かるハズがないからと丸め込むつもりか? それとも処刑の恐れがないから堂々と異見をぶつけてきたか……)
彼は静かに憤った。
せっかく民を一番に考えてくれる皇帝が誕生したというのに、それに従わないのでは前政権と同じだ。
「拡張した軍を維持するには現行の税率でも不足が生じます。単純に試算しても年間で約7,000億以上の――」
「ちょっと! ちょっと待ってください! 税金ってそんなに足りないんですか? たとえばどこか削るとか……」
全てを言い切ることはできなかった。
官僚たちの呆れたような、憐れむような目が向けられたからだ。
「新皇帝は戦には反対でしたね?」
シェイドはむっとした。
この時代、誰が戦争をしたがるものか。
「はい……そうですけど」
馬鹿にされているような質問に彼はぶっきらぼうに返す。
「であればなおさら税収不足が深刻になります」
「どうしてですか?」
「先帝は戦によって資源や土地、金などを獲得してきました。それらを収支に加えて予算を組んでいたのです。しかし新皇帝にそのご意思がないのであれば――」
税収不足が起こる、と識者は滔々と述べた。
「足りないお金をまかなうために戦争をしろって言うんですか!?」
シェイドは思わず立ち上がった。
再び批難するような目を向けられるが今度は退かない。
「そうは言っておりません。我々は現状を申し上げているだけです」
冷たい視線が突き刺さる。
「戦はシェイド様のご意思に反します。これまでのように戦利による収益を前提にすべきではないでしょう。別の道を模索するべきです」
政務官が助け舟を出した。
「さっき軍隊を維持するのにお金が足りないと言ってましたよね。それなら軍を小さくすればいいんじゃないですか?」
彼の助勢に後押しされたようにシェイドが勢い込む。
「そう簡単にできるものではありません。戦闘中の部隊を撤退させるワケにはいきませんし、防備を削れば他国を利するだけです」
「じゃあすぐでなくてもいいですから、そうしましょう。どうやって縮小するんですか?」
「ここはそれについて論じる場ではありません。軍の編成等については別に議論していただきませんと」
官僚に窘められシェイドはばつ悪そうに座りなおした。
その後、何も言えなくなったシェイドに代わって政務官が審議を進め、改正案を白紙に戻すことが決定された。
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