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第四章
23・不思議な力
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「まずその子供は、いわゆる『普通の子供』ではありません」
「そういえばかなり大人しい、ですよね」
ぐずる事も泣くこともなく、親を探すこともない。
最初は心配したものだが、どうもこの子の性格らしいとキイロは気づいていた。
すると薄氷は。楽しそうに笑った。
「はは、そんなのはあなたがいるからですよ。その子供は本来、誰の言う事も聞かない。傍にも近寄れない。その子が、そうですね、もう数年もたてば手が付けられなくなる。だからこそ、その子供のうちに始末しようとしたのです」
「始末?」
「私たちの家が燃やされたのもそのせいでしょう。まさか見つかるとも思っていませんでしたし、見つかってもどうとでもなると思っていましたが、甘かったです。あそこまでの火事を起こすとも思っていなかったので」
というより、火事はあくまでイレギュラーなものだったのだろう、と薄氷は思っていた。
(誘拐するために、脅すつもりが逆に火の回りが早かった、というあたりか)
「ただ、火事と聞いて、しかもあなたもその子も姿を消したと聞いて、多分一緒ではないか、との思いはありました」
「なぜですか?」
「それは、あなたが『特別な力』を持っている事を知っているからです」
言われ、キイロはどきっとした。
「隠さなくても大丈夫です。むしろ我々は、そういう意味では同志です」
「―――――え?」
そうですね、と薄氷がちょっと困ったように首を傾げた。
その時だった。
「お茶をお持ちしました」
「ああ、ありがとう。そこへ置いておいてくれ。私がやるから」
「はい」
そういって女中は頭を下げてすぐに部屋を出て行った。
美しい模様の入った陶器のカップとソーサーに、これも美しいブルーのお茶が注がれた。
「このお茶を見て欲しくて。美しいでしょう?」
「ええ、素敵。お茶なんですね」
「どうぞ」
「いただきます……とてもおいしい」
「そうですか、良かった。このお茶はね、色が変わるんですよ」
薄氷はスライスされたレモンを一枚、自分のお茶の中へ落とす。
ぱっと色が青から紫へ変わった。
「すごい!変わった!」
「さて、このお茶を」
すっと薄氷が指を動かすと、お茶が中から、ぐぐぐ、とせりあがって来た。
(―――――え?)
引力に反して、持ち上がったお茶の中身がぐわんと上へ浮かぶ。
紫色の塊がぷかぷかと浮かび、それはゆっくりとカップの中へと落ちてゆく。
そしてカップの上を、薄氷の手が覆った。
そして薄氷はそのカップをくるんとひっくり返した。
こぼれる!とキイロが慌てたが、カップからはなにもこぼれなかった。
どうして?と困惑するキイロに、薄氷は、カップの上をつついて見せた。
(―――――凍ってる!)
さっきまで湯気さえ立てていたお茶が、いつの間にか凍っていたのだ。
どうして、と戸惑うキイロに、薄氷は微笑んだ。
「こういった事が出来るのが、我々の一族である、という事です」
「わたし、そこまでできません」
キイロはもう隠さずに首を横に振った。
「昔は、号泣するたびに家の中に雨を降らしてしまったりとか、いきなり誰かの上に桶をひっくりかえしたように水を振らせたりなんてしたみたいですけど、今はもうそんな事、殆どなくて」
感情がそこまで動くこともなかったし、せいぜい、自分の周りに小さな雨を降らすくらいで。
でもそんなの、特に役に立つ事もなかった。
「水やりのときにちょっと楽が出来るくらいです」
キイロが言うと薄氷は目を丸くして、その後こらえきれないという風に爆笑した。
「あっはっはっは、まさかその能力を水やりに使うなんて……す、すみません」
謝りながらも爆笑する薄氷に、キイロはなんだ?と思った。
「たまにお茶碗を洗うのが面倒で、こう、手元にじゃーって」
ぶはっと薄氷が吹き出す。
「ブーツの先が汚れた時も、こう、じゃーっと」
「あっはっは!」
薄氷のツボにはまったらしく、キイロの言葉に爆笑し続けた。
「そういえばかなり大人しい、ですよね」
ぐずる事も泣くこともなく、親を探すこともない。
最初は心配したものだが、どうもこの子の性格らしいとキイロは気づいていた。
すると薄氷は。楽しそうに笑った。
「はは、そんなのはあなたがいるからですよ。その子供は本来、誰の言う事も聞かない。傍にも近寄れない。その子が、そうですね、もう数年もたてば手が付けられなくなる。だからこそ、その子供のうちに始末しようとしたのです」
「始末?」
「私たちの家が燃やされたのもそのせいでしょう。まさか見つかるとも思っていませんでしたし、見つかってもどうとでもなると思っていましたが、甘かったです。あそこまでの火事を起こすとも思っていなかったので」
というより、火事はあくまでイレギュラーなものだったのだろう、と薄氷は思っていた。
(誘拐するために、脅すつもりが逆に火の回りが早かった、というあたりか)
「ただ、火事と聞いて、しかもあなたもその子も姿を消したと聞いて、多分一緒ではないか、との思いはありました」
「なぜですか?」
「それは、あなたが『特別な力』を持っている事を知っているからです」
言われ、キイロはどきっとした。
「隠さなくても大丈夫です。むしろ我々は、そういう意味では同志です」
「―――――え?」
そうですね、と薄氷がちょっと困ったように首を傾げた。
その時だった。
「お茶をお持ちしました」
「ああ、ありがとう。そこへ置いておいてくれ。私がやるから」
「はい」
そういって女中は頭を下げてすぐに部屋を出て行った。
美しい模様の入った陶器のカップとソーサーに、これも美しいブルーのお茶が注がれた。
「このお茶を見て欲しくて。美しいでしょう?」
「ええ、素敵。お茶なんですね」
「どうぞ」
「いただきます……とてもおいしい」
「そうですか、良かった。このお茶はね、色が変わるんですよ」
薄氷はスライスされたレモンを一枚、自分のお茶の中へ落とす。
ぱっと色が青から紫へ変わった。
「すごい!変わった!」
「さて、このお茶を」
すっと薄氷が指を動かすと、お茶が中から、ぐぐぐ、とせりあがって来た。
(―――――え?)
引力に反して、持ち上がったお茶の中身がぐわんと上へ浮かぶ。
紫色の塊がぷかぷかと浮かび、それはゆっくりとカップの中へと落ちてゆく。
そしてカップの上を、薄氷の手が覆った。
そして薄氷はそのカップをくるんとひっくり返した。
こぼれる!とキイロが慌てたが、カップからはなにもこぼれなかった。
どうして?と困惑するキイロに、薄氷は、カップの上をつついて見せた。
(―――――凍ってる!)
さっきまで湯気さえ立てていたお茶が、いつの間にか凍っていたのだ。
どうして、と戸惑うキイロに、薄氷は微笑んだ。
「こういった事が出来るのが、我々の一族である、という事です」
「わたし、そこまでできません」
キイロはもう隠さずに首を横に振った。
「昔は、号泣するたびに家の中に雨を降らしてしまったりとか、いきなり誰かの上に桶をひっくりかえしたように水を振らせたりなんてしたみたいですけど、今はもうそんな事、殆どなくて」
感情がそこまで動くこともなかったし、せいぜい、自分の周りに小さな雨を降らすくらいで。
でもそんなの、特に役に立つ事もなかった。
「水やりのときにちょっと楽が出来るくらいです」
キイロが言うと薄氷は目を丸くして、その後こらえきれないという風に爆笑した。
「あっはっはっは、まさかその能力を水やりに使うなんて……す、すみません」
謝りながらも爆笑する薄氷に、キイロはなんだ?と思った。
「たまにお茶碗を洗うのが面倒で、こう、手元にじゃーって」
ぶはっと薄氷が吹き出す。
「ブーツの先が汚れた時も、こう、じゃーっと」
「あっはっは!」
薄氷のツボにはまったらしく、キイロの言葉に爆笑し続けた。
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