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第四章
24・部屋の中の台風
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「いや、失礼、まさかそのように能力を使う発想が全くなくて」
言いながらも薄氷は肩を震わせている。
(そんなにおかしなことなのかな?)
家の中ではキイロの能力は気味悪がられていたので、使わないようにしていたら、家族はキイロがその能力を使えなくなった、と勘違いしていた。
実際はそんな事はなかったのだが。
「あとは、近所の子供を預かる事が多かったのですが、虹を出しては喜ばれました」
「虹を?」
「ええ」
そのくらいにしか、使う意味がなかった。
「だから、火事の時は、正直、大丈夫だろうとは思いましたが、そこまで自信はありませんでした」
てっきり子猫だと思った、とキイロは告げた。
「まさか、火事の現場に子供がいるとは思わなかったので」
「そうですね、あなたの言う通りです」
薄氷は微笑んだ。
「本当に当方の不徳の致すところなのですが、まさか火事を起こすなんて思ってもみなかったのですよ。その子は、火に弱い。だからきっと、脅しに使ったのでしょう」
「脅し……」
「その子は、滅多に言う事を聞きません。我々でもなだめすかしてなんとかやっと、という状態でした。その子を狙う、しかも脅すような連中では尚更、言う事は聞かないでしょう」
「言う事って、まだこんなに小さいんですよ?」
「それが判れば、強引な事はしないでしょう」
それに、と薄氷は続けた。
「その子はあなただからそんなに大人しくしているんです。本来なら、暴れて手が付けられるような子ではありません」
「……そんな風に見えません」
「そうでしょうね」
そういって薄氷は立ち上がると「失礼」と子供を抱え上げた。
するとだ。
子供はいきなり涙を流し。
「んぎゃ―――――ッ!!!!!!!!!」
物凄い声で泣き喚いた。
え、とキイロが驚くと、突然部屋の中が灰色のもやで包まれたかと思うと。
「びや―――――っ!!!」
子供が叫ぶと同時に、部屋の中がまるで台風でも来たみたいにいきなり暴風雨で荒れ狂った。
「え、ちょっと……なんですかこれ!!!」
慌てるキイロに、薄氷は子供を渡した。
するとぴたっと子供は泣きやんだ、と同時に部屋の中の嵐も消えた。
「い、い、い、いまのは一体……」
呆然とするキイロに、ずぶ濡れの薄氷は言った。
「これがこの子の力です。この子は、ちょっと特殊な、我々の一族の子、なのです」
いま教えられるのはこのくらいだ。
薄氷は微笑むが、キイロは体中からぽたぽた水を零していた。
(さっきお風呂に入ったばかりなのに)
またずぶぬれに「なってしまい、薄氷は「すみません」と苦笑した。
キイロは着替えを用意して貰い、また着物に着替えて呼ばれた別の部屋へ入った。
(全く、なんて忙しい日なんだろう)
しかし、着物はとても良いもので、むしろこんなに着替えて良いのだろうか?とキイロは心配になる。
さっきの部屋はずぶぬれになってしまったので、別の部屋へ案内される。
(広いお屋敷だなあ)
いくつもいくつも部屋があって、毎日別の部屋で過ごしても全部の部屋に止まるにはひと月以上かかりそうだ。
「こちらです」
案内され、部屋へ入り、キイロは少し、驚いた。
「こちらへどうぞ」
そう薄氷が微笑んでくれたのだが、軍服ではなく着物に着替えていた。
髪をひとつにまとめ、肩へおとし、薄い水色の、複雑な織なのだろうか、鈍く光が見えるような、不思議な生地の着物だった。
だが、とても似合っている。
厚めの生地が肩のラインにそって、鍛えられた体が着物越しにも見える。
(ひょろひょろしたうちの父とは大違いだわ)
比べるのも失礼だが、同じ軍人という肩書なのにこんなにも違うのか、とキイロは驚いた。
とすんと足になにかしがみつく。
子供だった。
「あなたも着替えさせて貰ったのね」
子供用の可愛い着物に兵児帯、しかしこれも大人用の生地を仕立て直した良い着物だ。
「とても可愛い」
そういって抱き上げると、子供はご機嫌に笑った。
薄氷は微笑みながら、それでもキイロと子供の様子に感嘆していた。
(このお方がこんなにも懐くとは)
言いながらも薄氷は肩を震わせている。
(そんなにおかしなことなのかな?)
家の中ではキイロの能力は気味悪がられていたので、使わないようにしていたら、家族はキイロがその能力を使えなくなった、と勘違いしていた。
実際はそんな事はなかったのだが。
「あとは、近所の子供を預かる事が多かったのですが、虹を出しては喜ばれました」
「虹を?」
「ええ」
そのくらいにしか、使う意味がなかった。
「だから、火事の時は、正直、大丈夫だろうとは思いましたが、そこまで自信はありませんでした」
てっきり子猫だと思った、とキイロは告げた。
「まさか、火事の現場に子供がいるとは思わなかったので」
「そうですね、あなたの言う通りです」
薄氷は微笑んだ。
「本当に当方の不徳の致すところなのですが、まさか火事を起こすなんて思ってもみなかったのですよ。その子は、火に弱い。だからきっと、脅しに使ったのでしょう」
「脅し……」
「その子は、滅多に言う事を聞きません。我々でもなだめすかしてなんとかやっと、という状態でした。その子を狙う、しかも脅すような連中では尚更、言う事は聞かないでしょう」
「言う事って、まだこんなに小さいんですよ?」
「それが判れば、強引な事はしないでしょう」
それに、と薄氷は続けた。
「その子はあなただからそんなに大人しくしているんです。本来なら、暴れて手が付けられるような子ではありません」
「……そんな風に見えません」
「そうでしょうね」
そういって薄氷は立ち上がると「失礼」と子供を抱え上げた。
するとだ。
子供はいきなり涙を流し。
「んぎゃ―――――ッ!!!!!!!!!」
物凄い声で泣き喚いた。
え、とキイロが驚くと、突然部屋の中が灰色のもやで包まれたかと思うと。
「びや―――――っ!!!」
子供が叫ぶと同時に、部屋の中がまるで台風でも来たみたいにいきなり暴風雨で荒れ狂った。
「え、ちょっと……なんですかこれ!!!」
慌てるキイロに、薄氷は子供を渡した。
するとぴたっと子供は泣きやんだ、と同時に部屋の中の嵐も消えた。
「い、い、い、いまのは一体……」
呆然とするキイロに、ずぶ濡れの薄氷は言った。
「これがこの子の力です。この子は、ちょっと特殊な、我々の一族の子、なのです」
いま教えられるのはこのくらいだ。
薄氷は微笑むが、キイロは体中からぽたぽた水を零していた。
(さっきお風呂に入ったばかりなのに)
またずぶぬれに「なってしまい、薄氷は「すみません」と苦笑した。
キイロは着替えを用意して貰い、また着物に着替えて呼ばれた別の部屋へ入った。
(全く、なんて忙しい日なんだろう)
しかし、着物はとても良いもので、むしろこんなに着替えて良いのだろうか?とキイロは心配になる。
さっきの部屋はずぶぬれになってしまったので、別の部屋へ案内される。
(広いお屋敷だなあ)
いくつもいくつも部屋があって、毎日別の部屋で過ごしても全部の部屋に止まるにはひと月以上かかりそうだ。
「こちらです」
案内され、部屋へ入り、キイロは少し、驚いた。
「こちらへどうぞ」
そう薄氷が微笑んでくれたのだが、軍服ではなく着物に着替えていた。
髪をひとつにまとめ、肩へおとし、薄い水色の、複雑な織なのだろうか、鈍く光が見えるような、不思議な生地の着物だった。
だが、とても似合っている。
厚めの生地が肩のラインにそって、鍛えられた体が着物越しにも見える。
(ひょろひょろしたうちの父とは大違いだわ)
比べるのも失礼だが、同じ軍人という肩書なのにこんなにも違うのか、とキイロは驚いた。
とすんと足になにかしがみつく。
子供だった。
「あなたも着替えさせて貰ったのね」
子供用の可愛い着物に兵児帯、しかしこれも大人用の生地を仕立て直した良い着物だ。
「とても可愛い」
そういって抱き上げると、子供はご機嫌に笑った。
薄氷は微笑みながら、それでもキイロと子供の様子に感嘆していた。
(このお方がこんなにも懐くとは)
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