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第四章
25・同じ一族
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こうして見るとただの子供にしか見えない。
しかし薄氷はこの子供の正体を知っている。
だが、知っているからこそ余計に目の前の事に驚いてしまう。
本来ならこんなに穏やかで大人しいはずはないのだ。
(それもあなただからか)
自分がずっと想い続けていた人だ。
だから間違いはなかった。
一方、キイロはずっと気になっていたことを尋ねた。
「ずっと気になっていたんです。この子のご両親は?」
「―――――わけあって、両親はいません」
「そうなんですか」
「いうなれば、父親のような存在はあります。ですが、立場上、関わる事は難しいですね」
「そうなんですか」
「ええ。私のところで預かる事が一番良いだろうと思っていたのですが、どうも失敗したようで」
多分、あの屋敷に火をつけた犯人は、詳しくはこの子供の正体を知らないのだろう。
もし知っているなら、炎で脅すなんて馬鹿な真似はしないだろう。
(多分、誰かに雇われたのだろう)
あの日は結婚式で、それなりに薄氷の屋敷は出入りが多かった。
その隙を狙われたのなら、納得がいく。
「この子はこの先、どうなるのでしょうか」
「我が家でお預かりしますが、多分、そのうちご実家にお戻りになるでしょう」
「それまでは一緒に居られますか?」
「一緒に?」
「はい」
キイロにしてみたら、両親のいない子供が一人きりで知らない家に預けられるのは不安だろうとも思ったし、なにより自分が嫌だった。
「―――――あなたさえ良ければ、迎えが来るまで一緒にいますか?」
「本当に?」
「ええ。あなたに懐いていますし、その方が面倒も見やすいでしょう。その子はあなた以外には懐かない。さっき見たでしょう?」
苦笑する薄氷に、キイロは確かにな、と思った。
「あの、この子の力とか、薄氷さまの」
「朧です」
「え、」
「朧です。朧、とお呼びください」
「……朧、さま」
「さまも必要ありませんよ」
「でも、なんだかちょっと困ります」
キイロにしてみたら、いきなり目の前の人を、しかも立派な立場の人を呼び捨てにするのは度胸がいる。
「でしたら、しばらくはそれで」
「朧さま、や、この子や、私はどうしてこんな力があるのでしょうか」
「それは、元はと言えば、私たちは同じ一族だったからです。随分と昔の話ですが」
「昔」
「ええ。もう昔話とか、神話の時代とも言っていいかもしれません。随分と昔、私たちは同じ一族だったのです。遠い親戚である、といって良いでしょう。私があなたと出逢ったのも、その関りなんですよ」
「それはいつの事でしょうか」
「あなたが五歳の時ですよ。その時に出会っています」
そういえば、目の前の朧の年齢すらキイロは知らなかった。
「ぶしつけながら、朧さまはその時、おいくつだったんでしょうか」
「丁度十歳です。私は無理やり行事に参加させられて不機嫌でしたし、逃げ出そうと思っていたんです。その時にあなたに会った。その五年後にも会っています」
「―――――覚えていません」
「ええ。でもそれはあなたのせいではありません」
朧は調べて来た資料と、そして目の前の妻の様子に、これまでの懸念が妄想でなかったことを知る。
「まず、最初に。私たちは元々、同じ一族だった、ということはお伝えしました」
「はい」
「この国のオオキミを守るために、四つの守護があることは」
「存じています」
この国は、元は神であったものの末裔がオオキミとして君臨している。
そのオオキミを守っているのが、四つの守護であり、それぞれが役目を与えられている、ことは知っている。
「北に玄武、南に朱雀、そして西は白虎、東は青龍。我々はその『青龍』の守護の末裔なのです」
キイロはぽかんと口を開けてしまった。
なぜなら、その四つの守護の一族は、まぎれもなく宮家になるからだ。
「薄氷家が宮家なのはわかります、でも私の家は」
そんなに立派なはずはないのに、とキイロは思うが、朧は首を横に振った。
「いえ、あなたは―――――あなただけは、紛れもなく我々と同じ一族なのです」
しかし薄氷はこの子供の正体を知っている。
だが、知っているからこそ余計に目の前の事に驚いてしまう。
本来ならこんなに穏やかで大人しいはずはないのだ。
(それもあなただからか)
自分がずっと想い続けていた人だ。
だから間違いはなかった。
一方、キイロはずっと気になっていたことを尋ねた。
「ずっと気になっていたんです。この子のご両親は?」
「―――――わけあって、両親はいません」
「そうなんですか」
「いうなれば、父親のような存在はあります。ですが、立場上、関わる事は難しいですね」
「そうなんですか」
「ええ。私のところで預かる事が一番良いだろうと思っていたのですが、どうも失敗したようで」
多分、あの屋敷に火をつけた犯人は、詳しくはこの子供の正体を知らないのだろう。
もし知っているなら、炎で脅すなんて馬鹿な真似はしないだろう。
(多分、誰かに雇われたのだろう)
あの日は結婚式で、それなりに薄氷の屋敷は出入りが多かった。
その隙を狙われたのなら、納得がいく。
「この子はこの先、どうなるのでしょうか」
「我が家でお預かりしますが、多分、そのうちご実家にお戻りになるでしょう」
「それまでは一緒に居られますか?」
「一緒に?」
「はい」
キイロにしてみたら、両親のいない子供が一人きりで知らない家に預けられるのは不安だろうとも思ったし、なにより自分が嫌だった。
「―――――あなたさえ良ければ、迎えが来るまで一緒にいますか?」
「本当に?」
「ええ。あなたに懐いていますし、その方が面倒も見やすいでしょう。その子はあなた以外には懐かない。さっき見たでしょう?」
苦笑する薄氷に、キイロは確かにな、と思った。
「あの、この子の力とか、薄氷さまの」
「朧です」
「え、」
「朧です。朧、とお呼びください」
「……朧、さま」
「さまも必要ありませんよ」
「でも、なんだかちょっと困ります」
キイロにしてみたら、いきなり目の前の人を、しかも立派な立場の人を呼び捨てにするのは度胸がいる。
「でしたら、しばらくはそれで」
「朧さま、や、この子や、私はどうしてこんな力があるのでしょうか」
「それは、元はと言えば、私たちは同じ一族だったからです。随分と昔の話ですが」
「昔」
「ええ。もう昔話とか、神話の時代とも言っていいかもしれません。随分と昔、私たちは同じ一族だったのです。遠い親戚である、といって良いでしょう。私があなたと出逢ったのも、その関りなんですよ」
「それはいつの事でしょうか」
「あなたが五歳の時ですよ。その時に出会っています」
そういえば、目の前の朧の年齢すらキイロは知らなかった。
「ぶしつけながら、朧さまはその時、おいくつだったんでしょうか」
「丁度十歳です。私は無理やり行事に参加させられて不機嫌でしたし、逃げ出そうと思っていたんです。その時にあなたに会った。その五年後にも会っています」
「―――――覚えていません」
「ええ。でもそれはあなたのせいではありません」
朧は調べて来た資料と、そして目の前の妻の様子に、これまでの懸念が妄想でなかったことを知る。
「まず、最初に。私たちは元々、同じ一族だった、ということはお伝えしました」
「はい」
「この国のオオキミを守るために、四つの守護があることは」
「存じています」
この国は、元は神であったものの末裔がオオキミとして君臨している。
そのオオキミを守っているのが、四つの守護であり、それぞれが役目を与えられている、ことは知っている。
「北に玄武、南に朱雀、そして西は白虎、東は青龍。我々はその『青龍』の守護の末裔なのです」
キイロはぽかんと口を開けてしまった。
なぜなら、その四つの守護の一族は、まぎれもなく宮家になるからだ。
「薄氷家が宮家なのはわかります、でも私の家は」
そんなに立派なはずはないのに、とキイロは思うが、朧は首を横に振った。
「いえ、あなたは―――――あなただけは、紛れもなく我々と同じ一族なのです」
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