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第五章
29・藍銅(らんどう)伯爵の脅し
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「で、取り逃がしてしまったと」
「は、はい」
怯える警官らに、上司の男は「バカ者!」と怒鳴って机の上にあったものを手当たり次第にぶん投げ始めた。
慌てて頭を下げて避けるも、上司の怒りは収まらない。
「唯一のチャンスだったのだぞ!それをまああっさり奪われた上に、もう一度の強引なチャンスさえ取り逃がすとは!一体、あのホテルの奴にいくら掴ませたと思っているんだ!」
「も、申し訳ございません!」
「しかもあのホテル支配人め、お前の部下がやったくせに、こっちに修繕費を請求だと!」
しかし、それを踏み倒せば、この事が明るみに出るだろう。
「まったく、どう殿に申し上げれば良いものか」
しかし、苛立つ男に、更に苛立つ一報が入って来た。
「あ、あ、あの、大変です」
「今度はどうした!」
「どうしても参事官どのにお会いしたいと」
「帰せ!!!!」
「しかし」
「うるさい!とっとと帰せと言って……」
そういって男は顔をあげた。
深い藍色のスーツに身を固め、愛用のモノクルをつけたまま、銀の杖で床を軽く叩いた。
「随分とにぎやかなご様子で」
長めの白髪をまとめ、静かに微笑む。
細身の身体であるのに背が高く、日本人らしくないその外見に圧倒される。
「藍銅伯爵……」
「どうしてもいそぎ伝えたくてね。直接足を運んだよ」
「い、いえ、伯爵にお越しいただくほどの」
「ものだよ」
そういって、藍銅伯爵は、こつんと銀の杖先を鳴らした。
「先に結論から言おう。あなたたちの中で『蘇芳キイロ』という名の女性は、すでに『藍銅家』の娘となった」
「なん、です、と」
「なに、わたしは息子ばかりでね。丁度娘が欲しかったところだ。そしたらどうだ、息子のようにかわいがっている子が妻にしたいというじゃないか。なんという偶然、という事で、藍銅家の娘は、薄氷へ嫁ぐことになった。わたしも花嫁の父として、忙しくてね」
ざあっと男らから血の気が引いた。
(まさか、藍銅家が養子に、だと?)
伯爵家の養子となれば、それだけで手出しはできなくなる。
「し、し、しかし陛下の許可が」
「陛下にはすでにお許しを得たよ。だからこうして君らみたいな下々にも伝える事ができるわけだ」
上流階級の、厭味ったらしい傲慢さを出していても、藍銅伯爵の声は美しかった。
圧倒される雰囲気は、やはり龍の一族だからだろうか。
「失礼します!大変です参事官どの!あの女が藍銅家の―――――」
部下らしき男が慌てふためき入って来て、藍銅伯爵の姿に驚き口を閉じたが。
「ああ、その話ならわたしがいま、伝えていた所だ。陛下のお許しはすでに頂いているから、今更きみらにはどうもできないよ」
そういって参事官に近づき、耳元で囁いた。
『出世したいのなら、敵と味方を見誤らない事だ』
参事官は怯え、青ざめた。
「さて、じゃあわたしは帰るとするよ。諸君らもどうぞお元気で。我々は、お行儀のよい子にはなにもしない主義だ」
そういって首を傾げた。
「みなさん、どうぞお元気で」
「待、」
思わず呼び止めようとしたその時だ。
参事官の頬を何かがかすった。
つ、と血がしたたり、参事官は自らの頬に手を当て、見た。
血だ。
「うわあっ!!!」
「いきなり声をかけないでくれるかい?びっくりしてしまった」
「貴様!参事官どのに!」
何名かが藍銅伯爵に銃を向けた。
「全く、結局はしつけがなってないね。よく上に言っておかないと」
藍銅伯爵に向けられた銃は全て凍っていて、警官らは「ひいっ」と慌てた。
「さっさと病院へ行きなさい。凍傷で腕が落ちてしまうよ?」
ぎゃああ、うわああああ、と数名の叫びの中、藍銅伯爵は「ではお大事に」と笑顔で部屋を出て行った。
参事官は腰を抜かした。
「は、はい」
怯える警官らに、上司の男は「バカ者!」と怒鳴って机の上にあったものを手当たり次第にぶん投げ始めた。
慌てて頭を下げて避けるも、上司の怒りは収まらない。
「唯一のチャンスだったのだぞ!それをまああっさり奪われた上に、もう一度の強引なチャンスさえ取り逃がすとは!一体、あのホテルの奴にいくら掴ませたと思っているんだ!」
「も、申し訳ございません!」
「しかもあのホテル支配人め、お前の部下がやったくせに、こっちに修繕費を請求だと!」
しかし、それを踏み倒せば、この事が明るみに出るだろう。
「まったく、どう殿に申し上げれば良いものか」
しかし、苛立つ男に、更に苛立つ一報が入って来た。
「あ、あ、あの、大変です」
「今度はどうした!」
「どうしても参事官どのにお会いしたいと」
「帰せ!!!!」
「しかし」
「うるさい!とっとと帰せと言って……」
そういって男は顔をあげた。
深い藍色のスーツに身を固め、愛用のモノクルをつけたまま、銀の杖で床を軽く叩いた。
「随分とにぎやかなご様子で」
長めの白髪をまとめ、静かに微笑む。
細身の身体であるのに背が高く、日本人らしくないその外見に圧倒される。
「藍銅伯爵……」
「どうしてもいそぎ伝えたくてね。直接足を運んだよ」
「い、いえ、伯爵にお越しいただくほどの」
「ものだよ」
そういって、藍銅伯爵は、こつんと銀の杖先を鳴らした。
「先に結論から言おう。あなたたちの中で『蘇芳キイロ』という名の女性は、すでに『藍銅家』の娘となった」
「なん、です、と」
「なに、わたしは息子ばかりでね。丁度娘が欲しかったところだ。そしたらどうだ、息子のようにかわいがっている子が妻にしたいというじゃないか。なんという偶然、という事で、藍銅家の娘は、薄氷へ嫁ぐことになった。わたしも花嫁の父として、忙しくてね」
ざあっと男らから血の気が引いた。
(まさか、藍銅家が養子に、だと?)
伯爵家の養子となれば、それだけで手出しはできなくなる。
「し、し、しかし陛下の許可が」
「陛下にはすでにお許しを得たよ。だからこうして君らみたいな下々にも伝える事ができるわけだ」
上流階級の、厭味ったらしい傲慢さを出していても、藍銅伯爵の声は美しかった。
圧倒される雰囲気は、やはり龍の一族だからだろうか。
「失礼します!大変です参事官どの!あの女が藍銅家の―――――」
部下らしき男が慌てふためき入って来て、藍銅伯爵の姿に驚き口を閉じたが。
「ああ、その話ならわたしがいま、伝えていた所だ。陛下のお許しはすでに頂いているから、今更きみらにはどうもできないよ」
そういって参事官に近づき、耳元で囁いた。
『出世したいのなら、敵と味方を見誤らない事だ』
参事官は怯え、青ざめた。
「さて、じゃあわたしは帰るとするよ。諸君らもどうぞお元気で。我々は、お行儀のよい子にはなにもしない主義だ」
そういって首を傾げた。
「みなさん、どうぞお元気で」
「待、」
思わず呼び止めようとしたその時だ。
参事官の頬を何かがかすった。
つ、と血がしたたり、参事官は自らの頬に手を当て、見た。
血だ。
「うわあっ!!!」
「いきなり声をかけないでくれるかい?びっくりしてしまった」
「貴様!参事官どのに!」
何名かが藍銅伯爵に銃を向けた。
「全く、結局はしつけがなってないね。よく上に言っておかないと」
藍銅伯爵に向けられた銃は全て凍っていて、警官らは「ひいっ」と慌てた。
「さっさと病院へ行きなさい。凍傷で腕が落ちてしまうよ?」
ぎゃああ、うわああああ、と数名の叫びの中、藍銅伯爵は「ではお大事に」と笑顔で部屋を出て行った。
参事官は腰を抜かした。
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