わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います

あきた

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第五章

30・新しい娘のもとへ

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(ば、化物め!)

 しかし、もうとっくに悪だくみはあちらにバレているようだ。

(殿に報告を、急がねば)

 そして出来れば、もうこの仕事はやりたくないと、逃げる事を考えなければならないだろう。
 まだ忠告で済んでいるうちに。

(あれに勝てるわけがない)

 左遷で良い、どこか遠くへやってもらおう。
 参事官はそう思った。


 車に戻って来た藍銅らんどう伯爵に、執事の男が頭を下げた。

「お話は」
「済んだよ。すぐって言ったろう?」
「ええ。しかしこんなにお早いとは」
「気分が悪くなる場所に長居はしたくないからね」

 全く、どうしてあんなに悪臭だらけなのか。
 しかし連中が気づけないのは仕方がない。
 彼らはあくまで『普通』であって、自分たちが『異常』なのだから。

「全く、先人の知恵には感謝するよ。こうしてながらく陛下にお仕えしていなければ、我々なんかただの異形だ」
「なにをおっしゃいますか。陛下のご無事もこの力あっての事ではありませんか」

 それに、と執事の男は言う。

「伯爵の心配をしなくて良いのは我々にとってこれほど楽なことはありませんから」
「参ったな。危ない時は助けに来てよ」
「そんな事があればですが。まあまずおこりますまい」
 そう言い、執事は伯爵を車に乗せた。
「さて、このまま屋敷に帰るか、それとも」

 脅しに行く場所を増やすか、または別の手を考えるか。
 それに、もうひとつ。

「子供は大きくなったかな?」
「そうですね。あの屋敷に居れば、問題なく」
「なにせあそこは良い場所な上に、いまの当主の力があふれているからね。早々に元の姿を取り戻すだろう……そうだ!いまのうちに可愛い姿を見にいこうか。おぼろの妻、いや、わたしの娘になった子も見てみたい」

 藍銅伯爵が言うと、執事はやや呆れた。

「顔も知らない子の親になったんですか?」
「知らない訳じゃないな。写真も見たし、多分昔に何度かは会っている。ただ、名前と顔が一致しないんだ。なにせ彼女は別の名前だったから」

 いつの間に名前を変えられて、まるで呪いのように縛られた彼女。

(能力もかなり縛られているはずだが)

 名前を思い出せば、彼女は本来の姿も力も思い出すだろう。

「子供と居るのは良い事かもしれないね。随分と懐いているというしきっと相性も良いのだろう。だったらお互いの相乗効果もあると思うよ」
「でしたら、目的地は」
「決まっているだろう。薄氷の屋敷だ」
「突然お伺いしても大丈夫でしょうか」
「別にかまわんだろう?我々の仲だ」
「いえ、折角の娘さんにプレゼントでもいかがですか?というお尋ねでございます」
「これは失態。ではいますぐ、いくつか用意して向かおう。外で買い物なんてひさしぶりだ」
「きっと皆さま、お喜びになります」

 車は都内のデパートへ向かい、軽やかに走り出した。


 食事を済ませ、子供が眠そうなのでキイロは一緒にソファーに座っていた。
 朧はその姿をずっと微笑んでみていて、なにが楽しいのだろうとキイロは不思議になる。

「あの」
「はい」
「お仕事、は」
「行きません。妻が危険な目にあったばかりですよ。怪我もしている」

 怪我と言っても大したことないんだけど、とキイロが思っても、朧は首を横に振る。

「とにかく数日は静かにしておいてくださいね。心配なので」

 軍人なのに、大げさな人だなあとキイロは思った。
 ただ、こうして大事にしてくれるのはありがたい。

「朧さま」
「はい」
「このお屋敷で過ごすのでしょうか?」
「本当は隣の屋敷へ移って欲しいのですけどね。母がしばらくこちらへ滞在しろとうるさいので」
「そう、ですか。お隣の屋敷って、洋館風の」
「ええ。あそこが私の屋敷です。成人してからはあっちで生活していましたし、あなたとこちらへ帰る時にはあちらの屋敷を使うつもりです」

 すごいな、さすが大きな家というか、お屋敷まで個人にあるのか、とキイロは驚く。

「あちらがいいですか?」

 朧の問いに、キイロは笑った。

「とんでもない。どこでだって、ご飯がいただけてゆっくり眠れて、こんなにふかふかのソファーに座れたらもうどこでも良いです」

 なにせ家に居た時は辛かった。
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