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第七章
47・ダンスフロア
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「わあ……!」
華々しい装飾と美しい人々、帝王ホテルもすばらしかったがここも同様に美しく、キイロはあっけにとられた。
「さ、行きましょう」
朧が手を引き、中へ入ると当然人々の目は朧へ集まった。
だが、朧が静かに微笑むと、人々は察したように、小さく頷き、軽く挨拶するにとどめた。
「あくまで身内の集まりですから、気にしなくて良いですよ」
朧にそう言われるとちょっとほっとする。
よくわからないあいさつ回りはしんどいな、と考えてしまったからだ。
「われも!われもあれ!」
りんがキイロの着物を引っ張って、なにかを指さす。
「ああ、あれは駄目ね、お酒だから」
「なんで!」
ぷうっとむくれるりんに、朧が言った。
「ではりん様にも飲めるものを用意して貰いましょう」
給仕を呼ぶと、子供向けのものをすぐに用意してくれた。
「ひょっとして、さっきのお店で飲んだサイダーが気に入ったの?」
梅花が尋ねるとりんは「サイダー好きじゃ!」と満足そうに返す。
「そっか、おいしかったもんね」
「うむ!まいにちのむ!」
「毎日かあ」
そういって梅花は、りんに言った。
「でしたら、朧様にお願いしたらいいかもしれませんね」
「本当か?」
りんが朧を見上げるので「勿論です」と朧も返す。
「朧様、いいのですか?」
キイロが心配すると、朧は「大丈夫です」と笑った。
「青白の店で、瓶詰のサイダーをいま作っているはずです。家に届けさせましょう」
「そんなことまでできるんですね」
「友人ですし、新製品はいつも試してくれ、なんなら軍で仕入れてくれって」
「ちゃっかりしてる」
キイロが笑うと、朧は尋ねた。
「どうですか、麒麟館は」
「とても素敵です。いままで来た事がなかったし」
来れるなんて思わなかった。
ここに入れる着物なんてあるはずもない、キイロなんか一週間前なら、ここの前を通るだけでも警戒されてしまうだろう。
「なんなら毎日来たら良い。わたしなんかしょっちゅうだよ」
ハハハ、と笑ったのは藍銅伯爵だ。
「あなたは仕事してください」
「しているとも、今日の仕事はまず、こうだな」
「きゃっ」
そういうと藍銅伯爵はキイロの手を引いた。
「あ、あの」
「ダンスは?習った事は?」
「学校で」
「では基礎は出来ているね?」
「え、ええ、一応」
麒麟館に行く必要のないキイロでも、学校は全員にダンスを教えたので、簡単なステップくらいはふめる。
藍銅伯爵は、さらっとホールの中央へキイロを引っ張り手を取った。
「じゃあ、少し踊ろうか」
そういって手を取ると、キイロの腰に手をまわし、音楽に合わせてゆっくりダンスを始めた。
キイロは慌てて、藍銅伯爵にあわせて学校で習ったステップを必死に思い出していた。
「あまり緊張しないで。私があわせるから」
「は、はひ、」
緊張しないでと言われても、ちょっと習っただけのダンスを踊るのは大変だ。
藍銅伯爵とキイロが踊りはじめたのを見て、ピアノの音が大きくなった。
他にもダンスに参加する人たちが出てきて、ホールは途端、賑やかさを増す。
「やあ、藍銅伯爵じゃないか」
ダンスをしながら、友人だろうか、初老の夫婦が声をかけてきた。
「君か。いつもご夫婦、仲が良いことだ」
踊りながら藍銅伯爵が答えた。
「おかげさまでね。それより随分可愛らしいじゃないか。新しい恋人かね?」
「いや、新しい娘さ。そしてもうじき朧の妻だ」
「―――――なんと、そういう事か!」
「そういうことさ」
「君は相変わらず策士だな」
「誤解しちゃ困るよ。これは朧から頼まれた事だからね」
「……成程、そういうことか」
「そういうことだ」
含みのある会話をしながら、あくまでダンスの体は保っている。
「うん、わかった。きみにつこう」
「ありがとう。君ならそう言うと思っていたさ」
「なに、こっちも有能な連中は敵にしたくないからね」
そういうと、さりげなく初老の夫婦は楽しそうにダンスをしながら遠ざかった。
藍銅伯爵にキイロは尋ねた。
「いまの方は?」
華々しい装飾と美しい人々、帝王ホテルもすばらしかったがここも同様に美しく、キイロはあっけにとられた。
「さ、行きましょう」
朧が手を引き、中へ入ると当然人々の目は朧へ集まった。
だが、朧が静かに微笑むと、人々は察したように、小さく頷き、軽く挨拶するにとどめた。
「あくまで身内の集まりですから、気にしなくて良いですよ」
朧にそう言われるとちょっとほっとする。
よくわからないあいさつ回りはしんどいな、と考えてしまったからだ。
「われも!われもあれ!」
りんがキイロの着物を引っ張って、なにかを指さす。
「ああ、あれは駄目ね、お酒だから」
「なんで!」
ぷうっとむくれるりんに、朧が言った。
「ではりん様にも飲めるものを用意して貰いましょう」
給仕を呼ぶと、子供向けのものをすぐに用意してくれた。
「ひょっとして、さっきのお店で飲んだサイダーが気に入ったの?」
梅花が尋ねるとりんは「サイダー好きじゃ!」と満足そうに返す。
「そっか、おいしかったもんね」
「うむ!まいにちのむ!」
「毎日かあ」
そういって梅花は、りんに言った。
「でしたら、朧様にお願いしたらいいかもしれませんね」
「本当か?」
りんが朧を見上げるので「勿論です」と朧も返す。
「朧様、いいのですか?」
キイロが心配すると、朧は「大丈夫です」と笑った。
「青白の店で、瓶詰のサイダーをいま作っているはずです。家に届けさせましょう」
「そんなことまでできるんですね」
「友人ですし、新製品はいつも試してくれ、なんなら軍で仕入れてくれって」
「ちゃっかりしてる」
キイロが笑うと、朧は尋ねた。
「どうですか、麒麟館は」
「とても素敵です。いままで来た事がなかったし」
来れるなんて思わなかった。
ここに入れる着物なんてあるはずもない、キイロなんか一週間前なら、ここの前を通るだけでも警戒されてしまうだろう。
「なんなら毎日来たら良い。わたしなんかしょっちゅうだよ」
ハハハ、と笑ったのは藍銅伯爵だ。
「あなたは仕事してください」
「しているとも、今日の仕事はまず、こうだな」
「きゃっ」
そういうと藍銅伯爵はキイロの手を引いた。
「あ、あの」
「ダンスは?習った事は?」
「学校で」
「では基礎は出来ているね?」
「え、ええ、一応」
麒麟館に行く必要のないキイロでも、学校は全員にダンスを教えたので、簡単なステップくらいはふめる。
藍銅伯爵は、さらっとホールの中央へキイロを引っ張り手を取った。
「じゃあ、少し踊ろうか」
そういって手を取ると、キイロの腰に手をまわし、音楽に合わせてゆっくりダンスを始めた。
キイロは慌てて、藍銅伯爵にあわせて学校で習ったステップを必死に思い出していた。
「あまり緊張しないで。私があわせるから」
「は、はひ、」
緊張しないでと言われても、ちょっと習っただけのダンスを踊るのは大変だ。
藍銅伯爵とキイロが踊りはじめたのを見て、ピアノの音が大きくなった。
他にもダンスに参加する人たちが出てきて、ホールは途端、賑やかさを増す。
「やあ、藍銅伯爵じゃないか」
ダンスをしながら、友人だろうか、初老の夫婦が声をかけてきた。
「君か。いつもご夫婦、仲が良いことだ」
踊りながら藍銅伯爵が答えた。
「おかげさまでね。それより随分可愛らしいじゃないか。新しい恋人かね?」
「いや、新しい娘さ。そしてもうじき朧の妻だ」
「―――――なんと、そういう事か!」
「そういうことさ」
「君は相変わらず策士だな」
「誤解しちゃ困るよ。これは朧から頼まれた事だからね」
「……成程、そういうことか」
「そういうことだ」
含みのある会話をしながら、あくまでダンスの体は保っている。
「うん、わかった。きみにつこう」
「ありがとう。君ならそう言うと思っていたさ」
「なに、こっちも有能な連中は敵にしたくないからね」
そういうと、さりげなく初老の夫婦は楽しそうにダンスをしながら遠ざかった。
藍銅伯爵にキイロは尋ねた。
「いまの方は?」
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