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第八章
55・愛しいムーラン
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「思い出しました。りんちゃんのおかげだと思います」
キイロの言葉に朧は「そうですか」となにか察したようだった。
「あの方はあなたの守護についたと言っていました。あくまで略式なものですが……」
「守護、とは何のことなのでしょうか?」
訪ねるキイロに朧は呟く。
「簡単に言えば『許可』のようなものです。我々の能力は個々のものですが、それを使うためには能力の『より強い、高い』ものからの許しがなければ、思い通りには使えません。そしてその守護は強いものからの許可なら尚更、能力は自由に使えます。勿論、元々の素質以上のものは出ませんが」
朧は続けた。
「例えばわたしの守護は実の母です。能力で一族の中で敵う人はいないでしょう。よって、わたしも持っている能力を全て発揮できます。ですが、もし守護がなければなにをどこまで使って良いのかも判らず、あいまいになるでしょう」
それで、とキイロは納得した。
能力が使えはしたが、常に一定という事もなく、せいぜい小さな虹が見えるくらいの霧雨だったり、手元に水が出せたりの手品程度で、しかもできる時とできない時があった。
「あなたは守護がなかったか、もしくはとても小さかった。それで能力が発揮できなかったのでしょう。更に本来の名前ではないものを『自分の名前』として思い込まされた。名前は立派な呪いです。だから能力も発揮できなかった」
名前が呪いに、と聞いてキイロは驚いた。
「そんなにも、酷いのですか」
「酷いですね。なんなら名前の呪いは簡単でかなり強固です。だからあなたも、そのせいで能力も安定せず、かといって完全に隠すこともできなかった」
「どうしてそんな事までしたのでしょうか」
「多分、あなたを隠す為でしょう。例えばわたしはただあなたを妻に迎えたい一心でしたが、あなたの真の名前を知れば、他の連中は心穏やかではないのは判ります」
「あの、朧様」
キイロは尋ねた。
「わたしは、一体、どこの何なんでしょうか。本当の名前は思い出しても、なぜこんな風になってしまったのか判らないのです」
ずっと蘇芳キイロだと思っていた。
違う事も気づいた。
でも、じゃあ本名の自分はいったい、どうしてそんな呪いを受けたのだろうか。
朧は尋ねた。
「では、あなたの本当の名前は?」
キイロは頷き、静かに名乗った。
「栴檀木蘭」
朧はすうっと息を吐いて、吐き出す。
必死に冷静になろうとしていたようだったが、やはりこらえきれず、キイロに向き合うと、ぎゅっと抱きしめた。
「ああ、本当に思い出したんですね!ぼくの、愛しい木蘭!」
キイロは初めて気づく。
朧はこれまで一度も、キイロの事を呼んだことがなかったことに。
『キイロ』と決して呼ばなかった事に。
「朧さま?」
「なんだい、木蘭」
「その、あの。なぜ『ムーラン』とお呼びに?」
朧はキイロを抱きしめたまま、微笑んだ。
「あなたが自分でそう名乗っていたんですよ。まだ幼くて、舌ッ足らずで小さくて。『もくらん』を名乗れず『むうらん』と言っていた。それがあまりに可愛かったので、みんなあなたを『ムーラン』と呼んでいたよ」
そうだ、とキイロは思いだす。
あの頃、ずっと自分の名前は『ムーラン』だと思っていた。
だから素直に『ムーラン』と名乗ったし、呼ばれてもそれが自分の名前だと信じていた。
「ぼくの中ではあなたはずっと可愛らしい『ムーラン』だった。でもどんなに探してもあなたは見つからなかった。当然だ、巧妙に隠されてしまって、見つけ出すことができなかった」
ぎゅうぎゅうと朧はキイロを抱きしめてくる。
キイロは痛いと思うより、朧の傷は大丈夫なのか、そればかり気になった。
「朧様、あんまりその、お怪我が」
「そんなもの、もう治ったよ」
「嘘をつかないでください。酷くなっては大変です」
朧を押しのけようとするが、当然力で敵うはずもない。
キイロの言葉に朧は「そうですか」となにか察したようだった。
「あの方はあなたの守護についたと言っていました。あくまで略式なものですが……」
「守護、とは何のことなのでしょうか?」
訪ねるキイロに朧は呟く。
「簡単に言えば『許可』のようなものです。我々の能力は個々のものですが、それを使うためには能力の『より強い、高い』ものからの許しがなければ、思い通りには使えません。そしてその守護は強いものからの許可なら尚更、能力は自由に使えます。勿論、元々の素質以上のものは出ませんが」
朧は続けた。
「例えばわたしの守護は実の母です。能力で一族の中で敵う人はいないでしょう。よって、わたしも持っている能力を全て発揮できます。ですが、もし守護がなければなにをどこまで使って良いのかも判らず、あいまいになるでしょう」
それで、とキイロは納得した。
能力が使えはしたが、常に一定という事もなく、せいぜい小さな虹が見えるくらいの霧雨だったり、手元に水が出せたりの手品程度で、しかもできる時とできない時があった。
「あなたは守護がなかったか、もしくはとても小さかった。それで能力が発揮できなかったのでしょう。更に本来の名前ではないものを『自分の名前』として思い込まされた。名前は立派な呪いです。だから能力も発揮できなかった」
名前が呪いに、と聞いてキイロは驚いた。
「そんなにも、酷いのですか」
「酷いですね。なんなら名前の呪いは簡単でかなり強固です。だからあなたも、そのせいで能力も安定せず、かといって完全に隠すこともできなかった」
「どうしてそんな事までしたのでしょうか」
「多分、あなたを隠す為でしょう。例えばわたしはただあなたを妻に迎えたい一心でしたが、あなたの真の名前を知れば、他の連中は心穏やかではないのは判ります」
「あの、朧様」
キイロは尋ねた。
「わたしは、一体、どこの何なんでしょうか。本当の名前は思い出しても、なぜこんな風になってしまったのか判らないのです」
ずっと蘇芳キイロだと思っていた。
違う事も気づいた。
でも、じゃあ本名の自分はいったい、どうしてそんな呪いを受けたのだろうか。
朧は尋ねた。
「では、あなたの本当の名前は?」
キイロは頷き、静かに名乗った。
「栴檀木蘭」
朧はすうっと息を吐いて、吐き出す。
必死に冷静になろうとしていたようだったが、やはりこらえきれず、キイロに向き合うと、ぎゅっと抱きしめた。
「ああ、本当に思い出したんですね!ぼくの、愛しい木蘭!」
キイロは初めて気づく。
朧はこれまで一度も、キイロの事を呼んだことがなかったことに。
『キイロ』と決して呼ばなかった事に。
「朧さま?」
「なんだい、木蘭」
「その、あの。なぜ『ムーラン』とお呼びに?」
朧はキイロを抱きしめたまま、微笑んだ。
「あなたが自分でそう名乗っていたんですよ。まだ幼くて、舌ッ足らずで小さくて。『もくらん』を名乗れず『むうらん』と言っていた。それがあまりに可愛かったので、みんなあなたを『ムーラン』と呼んでいたよ」
そうだ、とキイロは思いだす。
あの頃、ずっと自分の名前は『ムーラン』だと思っていた。
だから素直に『ムーラン』と名乗ったし、呼ばれてもそれが自分の名前だと信じていた。
「ぼくの中ではあなたはずっと可愛らしい『ムーラン』だった。でもどんなに探してもあなたは見つからなかった。当然だ、巧妙に隠されてしまって、見つけ出すことができなかった」
ぎゅうぎゅうと朧はキイロを抱きしめてくる。
キイロは痛いと思うより、朧の傷は大丈夫なのか、そればかり気になった。
「朧様、あんまりその、お怪我が」
「そんなもの、もう治ったよ」
「嘘をつかないでください。酷くなっては大変です」
朧を押しのけようとするが、当然力で敵うはずもない。
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