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第九章
62・龍神の泉
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「ではキイロ様、ごゆっくりお休みください」
「ごゆっくりって……」
まだそんなに眠いというわけでもないのに、キイロはあれからお風呂に入れられ、髪をとかし、お茶をたっぷり飲まされた。
「われら龍の一族は、必ず水で回復します」
「その通り、さらにここは古くからの地であるうえに龍の一族の本尊とも言える場所」
「そこでゆっくり水に浸かってお茶を飲めば、すぐに調子を戻されます」
なるほど、だからやたら風呂に入れたがるのかとキイロは頷く。
(でも、こういうのが普通なのかもしれない)
ほぼ虐待だったキイロの生活では、毎日入浴できることなんかなかった。
朧と結婚式の日から、トラブル続きではあるが食事と入浴が常に用意されているだけで、キイロの悩みの殆どが消える。
ふわあ、と欠伸がでてしまった。
つい気が緩んでしまった。
するとキイロは布団の中へ押し込まれた。
「ささ、おやすみください」
「ゆっくりお休みにならないと、わたしたちが朧様に叱られます」
「ささ、早く」
これまでは無理矢理に起こされることばかりだったのに、いまは早く寝ろとせかされる。
「わ、わかりました」
多分これはちゃんと寝ないと強引に押し込まれる奴だとわかってキイロはふとんに潜り込んだ。
「おやすみなさい」
「はい、おやすみなさいませ」
すぐ眠れるかなあ、と思ったキイロだったが、やはり寝ていないことで体はつかれていたらしく、あっというまに眠りにおちた。
ぐっすり眠っていると、遠くから音が聞こえて、あ、起きなくちゃと思って目を覚ました。
すると、キイロを覗き込んでいる少年がいた。
「あ、目を覚ました。ムーラン、とてもよく寝ていたね」
「……?」
寝てたの?と首を傾げると、少年は笑ってムーランの手を引っ張った。
「よかった。見せたいものがあったんだけど、あんまりぐっすり眠っているから」
「いい、おきれる」
舌足らずの声に自分で、あれ、こんな声だっけ?と思いながら手を引っ張られるままついていった。
朧に引っ張られてついて行ったのは、大きな泉の前だった。
「ここは?」
「龍神様がいらっしゃるんだ。といっても僕はまだ見たことがないんだけど」
「りゅうじんさま」
「そう。うすらいの家はずっとこうしてりゅうのいる泉を守ってる。そのかわり、龍神様は、眠っているところを守るために、うすらいの家に力をわけてあたえてくださるんだって」
「へえ」
美しい泉は静かで、水をたたえていて、でもどこまでも底が見えない。
「ねえムーラン、いつか龍神様が姿を現して、神様になったらとても美しい泉になるんだって。そのときは一緒に見てくれる?」
よくわからないけど、ムーランは「うん!」と頷く。
よかった、と小さな朧は笑顔を見せた。
「でも、いまでもとってもきれい」
森の木々の間から沸き上がる泉は中央に社をかまえていて、まわりの木々は緑が鮮やかで、このままでも充分だとキイロは思った。
「きれいな場所で、りゅうじんさまは、きっとゆっくりねむっているのね」
「うん、きっとそうだよ」
「ねえ、龍神様ってどんなお姿なのかしら?」
「さあ?ぼくがしってるのは、とっても大きくてこわくて、でもすごく美しいんだって」
「こわくてうつくしい?よくわかんない」
「だよね。だからさ、見れたらその時は一緒に見よう」
「こわいのはやだ」
「だよね」
朧はムーランの言葉に笑った。
「大丈夫。きっとこわくなんかないよ、ふたりだもん。それにぼくらはりゅうの子なんだから、きっと龍神様も見守ってくれる」
「うん!」
そうやって笑っていると、ぱしゃん、と魚が跳ねた音がした。
魚だ!と二人が顔をあげると、泉のなかからざばあ、となにか大きなものが現れて、ぬっと二人の前にかがみこんだ。
おおきな黒い、不思議な影。
でもその黒い影はキラキラと輝いていて、ちっとも怖くなかった。
やがて影はくるんっと回転すると、一人の青年の姿になった。
「ごゆっくりって……」
まだそんなに眠いというわけでもないのに、キイロはあれからお風呂に入れられ、髪をとかし、お茶をたっぷり飲まされた。
「われら龍の一族は、必ず水で回復します」
「その通り、さらにここは古くからの地であるうえに龍の一族の本尊とも言える場所」
「そこでゆっくり水に浸かってお茶を飲めば、すぐに調子を戻されます」
なるほど、だからやたら風呂に入れたがるのかとキイロは頷く。
(でも、こういうのが普通なのかもしれない)
ほぼ虐待だったキイロの生活では、毎日入浴できることなんかなかった。
朧と結婚式の日から、トラブル続きではあるが食事と入浴が常に用意されているだけで、キイロの悩みの殆どが消える。
ふわあ、と欠伸がでてしまった。
つい気が緩んでしまった。
するとキイロは布団の中へ押し込まれた。
「ささ、おやすみください」
「ゆっくりお休みにならないと、わたしたちが朧様に叱られます」
「ささ、早く」
これまでは無理矢理に起こされることばかりだったのに、いまは早く寝ろとせかされる。
「わ、わかりました」
多分これはちゃんと寝ないと強引に押し込まれる奴だとわかってキイロはふとんに潜り込んだ。
「おやすみなさい」
「はい、おやすみなさいませ」
すぐ眠れるかなあ、と思ったキイロだったが、やはり寝ていないことで体はつかれていたらしく、あっというまに眠りにおちた。
ぐっすり眠っていると、遠くから音が聞こえて、あ、起きなくちゃと思って目を覚ました。
すると、キイロを覗き込んでいる少年がいた。
「あ、目を覚ました。ムーラン、とてもよく寝ていたね」
「……?」
寝てたの?と首を傾げると、少年は笑ってムーランの手を引っ張った。
「よかった。見せたいものがあったんだけど、あんまりぐっすり眠っているから」
「いい、おきれる」
舌足らずの声に自分で、あれ、こんな声だっけ?と思いながら手を引っ張られるままついていった。
朧に引っ張られてついて行ったのは、大きな泉の前だった。
「ここは?」
「龍神様がいらっしゃるんだ。といっても僕はまだ見たことがないんだけど」
「りゅうじんさま」
「そう。うすらいの家はずっとこうしてりゅうのいる泉を守ってる。そのかわり、龍神様は、眠っているところを守るために、うすらいの家に力をわけてあたえてくださるんだって」
「へえ」
美しい泉は静かで、水をたたえていて、でもどこまでも底が見えない。
「ねえムーラン、いつか龍神様が姿を現して、神様になったらとても美しい泉になるんだって。そのときは一緒に見てくれる?」
よくわからないけど、ムーランは「うん!」と頷く。
よかった、と小さな朧は笑顔を見せた。
「でも、いまでもとってもきれい」
森の木々の間から沸き上がる泉は中央に社をかまえていて、まわりの木々は緑が鮮やかで、このままでも充分だとキイロは思った。
「きれいな場所で、りゅうじんさまは、きっとゆっくりねむっているのね」
「うん、きっとそうだよ」
「ねえ、龍神様ってどんなお姿なのかしら?」
「さあ?ぼくがしってるのは、とっても大きくてこわくて、でもすごく美しいんだって」
「こわくてうつくしい?よくわかんない」
「だよね。だからさ、見れたらその時は一緒に見よう」
「こわいのはやだ」
「だよね」
朧はムーランの言葉に笑った。
「大丈夫。きっとこわくなんかないよ、ふたりだもん。それにぼくらはりゅうの子なんだから、きっと龍神様も見守ってくれる」
「うん!」
そうやって笑っていると、ぱしゃん、と魚が跳ねた音がした。
魚だ!と二人が顔をあげると、泉のなかからざばあ、となにか大きなものが現れて、ぬっと二人の前にかがみこんだ。
おおきな黒い、不思議な影。
でもその黒い影はキラキラと輝いていて、ちっとも怖くなかった。
やがて影はくるんっと回転すると、一人の青年の姿になった。
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