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第九章
63・あの時のこどもら
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湖の中央にある社の前に、その青年はまっすぐ立っていた。
不思議な、中華風の着物を着ていて、肩に羽織をかけている。
両腕を袖に通し、銀と青が混じった髪は足元の湖へ繋がるほど長い。
びっくりして二人がその青年を見つめると、青年はこちらをじっと見つめていた。
「なるほど、にぎやかだと思ったら子供か」
そう呟くと、ふっと息を吐いた。
銀色の粉がふわっと二人を包んで、二人は目の前に星空が落ちて来たかのような美しさに目を輝かせた。
「うわあ……!」
「きれい……!」
かがやく銀色に目を奪われ、幼い二人はそれを手にとろうと必死に手を伸ばした。
「それは捕まえられん」
そう青年は笑って、もう一度ふっと息を吐いた。
「かわいらしいのう」
そういうと、びゅんっと空へ飛んで、湖の上で昼寝を始めた。
「あれなに?」
「ひょっとして龍神さまかな?」
「そうかも!」
ふたりはすっかり夢中になって、不思議な青年に「おーい」とか「かみさまー」と無邪気に声をかけた。
最初は無視していた龍神も、あまりに子供が呼んで来るので仕方なく相手をするべく湖へおりた。
「こっちへ来い」
龍神が呼ぶので、二人は疑いなく湖へつっこんで、案の定、二人とも沈みかけたので龍神が二人を浮かせた。
「そういや人はおぼれるんだったな。やれ面倒くさい」
息を吐くと、二人は湖の上を歩けるようになっていた。
龍神と子供二人はずっと一緒に遊んでいて、そのうち龍神は楽しくなってきて、気がつくと時間が過ぎていた。
「おやいけない。おまえたちはお帰り。迎えが来たようだよ」
そういって湖の外へぽいっと追い出された。
「いたぞ!」
「どこだ?」
「なんどもそこは探したぞ!」
大人の悲痛な叫び声が響く。
必死な形相の大人に、子供二人はきょとんとしていた。
『そうか、われも思い出した。あのときの子らか』
すやすやと眠るキイロのそばで、りんはそう呟いた。
この土地は相性が良いはずだ。
元々ここにずっといたのだから。
卵から徐々に力を取り戻せているのは、この屋敷に居るからということもあったが、この二人が揃っているからだ。
『やれ、不思議な縁もあるものよの』
あんなに小さかった子供がもうこんなに大きくなっていたのか。
そしてりんがキイロに懐くのも、昔の自分の力を、ずっと持っていたからだ。
わずかに気まぐれで与えた龍神の力が、いつのまにか二人の身体になじみ、元の能力と混じってそれぞれ別のものになっている。
すやすや眠るキイロの寝息に、りんは心の穏やかさを覚えていた。
やがて自分もキイロの傍で、しずかに目を閉じた。
この調子ならきっとすぐにでも、元の姿に戻れるだろう。
でもいまは無理はしたくない。
どうせそのうち、嫌でも元の姿になるのだから。
翌日、早朝から薄氷の家には葵がやって来た。
潤朱の現当主の息子である思の兄である
朧とは幼馴染でもある。
朧の部屋に通された葵は、深々と頭を下げた。
「この度はうちの妹が申し訳ない事を」
「いや、かまわないよ。思の性格を考えればなにをやったか想像はつく。それより」
「ああ。お前のその傷を作った呪い、うちの屋敷に帰って来たと舛花から聞いた」
舛花は優秀な軍人で、朧には心酔していると言っても良い。
勿論、葵も信用している。
「お前に呪いをかけたのは、間違いなくうちの叔父だよ」
「やっぱりそうか。橡局長との繋がりを考えれば無理もないな」
「とはいえ、これでは潤朱が巻き込まれる。勘弁してほしいよ」
そういって葵はため息をついた。
「お前と争いになるなんて馬鹿げている。潤朱はなにを勘違いしているのか」
「当主になりたくてもなれなかったお方だからな」
「叔父様の気持ちはわからんでもないが、それでも納得してくれないと困る。橡局長の行動は最近目に余るんだ」
不思議な、中華風の着物を着ていて、肩に羽織をかけている。
両腕を袖に通し、銀と青が混じった髪は足元の湖へ繋がるほど長い。
びっくりして二人がその青年を見つめると、青年はこちらをじっと見つめていた。
「なるほど、にぎやかだと思ったら子供か」
そう呟くと、ふっと息を吐いた。
銀色の粉がふわっと二人を包んで、二人は目の前に星空が落ちて来たかのような美しさに目を輝かせた。
「うわあ……!」
「きれい……!」
かがやく銀色に目を奪われ、幼い二人はそれを手にとろうと必死に手を伸ばした。
「それは捕まえられん」
そう青年は笑って、もう一度ふっと息を吐いた。
「かわいらしいのう」
そういうと、びゅんっと空へ飛んで、湖の上で昼寝を始めた。
「あれなに?」
「ひょっとして龍神さまかな?」
「そうかも!」
ふたりはすっかり夢中になって、不思議な青年に「おーい」とか「かみさまー」と無邪気に声をかけた。
最初は無視していた龍神も、あまりに子供が呼んで来るので仕方なく相手をするべく湖へおりた。
「こっちへ来い」
龍神が呼ぶので、二人は疑いなく湖へつっこんで、案の定、二人とも沈みかけたので龍神が二人を浮かせた。
「そういや人はおぼれるんだったな。やれ面倒くさい」
息を吐くと、二人は湖の上を歩けるようになっていた。
龍神と子供二人はずっと一緒に遊んでいて、そのうち龍神は楽しくなってきて、気がつくと時間が過ぎていた。
「おやいけない。おまえたちはお帰り。迎えが来たようだよ」
そういって湖の外へぽいっと追い出された。
「いたぞ!」
「どこだ?」
「なんどもそこは探したぞ!」
大人の悲痛な叫び声が響く。
必死な形相の大人に、子供二人はきょとんとしていた。
『そうか、われも思い出した。あのときの子らか』
すやすやと眠るキイロのそばで、りんはそう呟いた。
この土地は相性が良いはずだ。
元々ここにずっといたのだから。
卵から徐々に力を取り戻せているのは、この屋敷に居るからということもあったが、この二人が揃っているからだ。
『やれ、不思議な縁もあるものよの』
あんなに小さかった子供がもうこんなに大きくなっていたのか。
そしてりんがキイロに懐くのも、昔の自分の力を、ずっと持っていたからだ。
わずかに気まぐれで与えた龍神の力が、いつのまにか二人の身体になじみ、元の能力と混じってそれぞれ別のものになっている。
すやすや眠るキイロの寝息に、りんは心の穏やかさを覚えていた。
やがて自分もキイロの傍で、しずかに目を閉じた。
この調子ならきっとすぐにでも、元の姿に戻れるだろう。
でもいまは無理はしたくない。
どうせそのうち、嫌でも元の姿になるのだから。
翌日、早朝から薄氷の家には葵がやって来た。
潤朱の現当主の息子である思の兄である
朧とは幼馴染でもある。
朧の部屋に通された葵は、深々と頭を下げた。
「この度はうちの妹が申し訳ない事を」
「いや、かまわないよ。思の性格を考えればなにをやったか想像はつく。それより」
「ああ。お前のその傷を作った呪い、うちの屋敷に帰って来たと舛花から聞いた」
舛花は優秀な軍人で、朧には心酔していると言っても良い。
勿論、葵も信用している。
「お前に呪いをかけたのは、間違いなくうちの叔父だよ」
「やっぱりそうか。橡局長との繋がりを考えれば無理もないな」
「とはいえ、これでは潤朱が巻き込まれる。勘弁してほしいよ」
そういって葵はため息をついた。
「お前と争いになるなんて馬鹿げている。潤朱はなにを勘違いしているのか」
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