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第十章
69・橡の目論見
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「あなたの兄もこれ以上巻き込まれずに済むでしょう。私も知らない情報もありましたし」
「ええ。決して良い兄ではありませんでしたけど」
ただ、話を聞くと少しだけ可哀そうな気もする。
子供だというだけであの義母に巻き込まれたのは事実だ。
「あなたが気に病むことはありませんよ。あなたを助ける手段をとっていれば、わたしももっと気にかけたでしょうね」
朧にとっては名目上の兄であるというだけで、いくらでも出世の口は作ってやれた。
だが、妻とのぞんだ彼女へのあたりが決してやさしいものではない事を知って、関わるのを辞めた。
朧にとっては妻を大事にしない家族なんて、存在する意味がないのだから。
「それより、まさか橡の愛人だったとは」
朧は考え込んでしまう。
確かに若い頃は遊び惚けていたと聞いたことはあったけれど、そんな場末で拾った女を愛人にしていたとは驚きだ。
(木蘭に対して恨みがある、か)
そのことなら朧にも思い当たる節はあった。
子供の頃、幼さもあって朧はキイロ、つまりは木蘭を妻にすると公言してはばからなかった。
大抵は子供のことだと笑って済ませたが、薄氷との関りを狙う橡からしたら面白くなかったわけだ。
朧はキイロの肩を強く抱いた。
「私があまりに公言していたせいで、あなたにも余計な迷惑をかけてしまった」
「朧様が?」
「ええ。子供の頃のこととはいえ、自分が情けない」
朧が説明すると、キイロは首を横に振った。
「そんなの朧様のせいじゃありません。子供の言う事を鵜呑みにしたり、嫌がらせをするほうがおかしいのですから」
「あなたならそう言うと思いましたよ」
ふっと笑う朧に、キイロは頷く。
「舛花の手続きが終わり次第、すぐに動きます。これ以上橡の隙にはさせません」
「お怪我は」
「……今日は、休みますよ」
それは明日になれば、朧は戦いに出向くという事だ。
心配するキイロに、朧は言った。
「戦場に比べたらよっぽどマシですよ。相手は大砲を持っているわけでもありませんから」
冗談を言って和ませようとする朧に、キイロは不安を感じながらも頷くしかできなかった。
「―――――で、朽葉はあっさり鞍替えした、ということか」
不機嫌そうな男の声に、数人の男らがぺこぺこ頭を下げていた。
その中に一人、葵の叔父も存在した。
潤朱家の当主になれなかった、浅黄である。
「浅黄、どういうつもりだ」
「……申し訳ありません。呪いがバレてしまいまして」
「いいわけは良い!ったく、どうしてこんな無様な連中しかおらんのだ!」
手元にあった書類を投げつけ、不機嫌そうに顔を歪める男が、橡局長であった。
「奴は軍人ですから、上官の命令には従うんでしょう」
「はっ、若いくせに書類仕事しかしていない男が軍人だと?帝国軍人はいつからそんな甘い連中ばかりになったんだ?」
鼻で笑うも、作戦は失敗で、どうしようもない。
はあ、と橡はため息をつく。
「わたしももうおわりだな。なんとか幕府のご威光を取り戻したかったが」
嘘をつけ、と浅黄は心の中で思った。
元将軍であるかたは、とっくに政府の中枢に入らてていまや陛下とも親友だ。
この国を守るために肩書はいらぬとあっさり自ら将軍の座を譲られたというのに、あの頃の好き放題が忘れられないだけだろう。
(だが、それはわたしとて同じか)
潤朱はなんとか時代に乗る事はできたが、それでもやっと立場が残っている状態だ。
甥っ子が無能ならばまだ浅黄にもチャンスはあったが、葵は潤朱はじまって以来の良君と言われるほどだ。
一族も皆、葵を指示している。
浅黄も表立っては、だが、心の中は違う。
「このまま終わらせるわけにはいかん。なんとしても、せめてあの薄氷の若造に一太刀でもあびせん限りは、幕府の恨みがはらせん」
そう橡は言うが、浅黄はみっともないと思う。
若い連中に嫉妬して、こうもみじめな老人になってしまうのか。
(だが、それはこちらも同じ)
今更引き返せないのだ。
「ええ。決して良い兄ではありませんでしたけど」
ただ、話を聞くと少しだけ可哀そうな気もする。
子供だというだけであの義母に巻き込まれたのは事実だ。
「あなたが気に病むことはありませんよ。あなたを助ける手段をとっていれば、わたしももっと気にかけたでしょうね」
朧にとっては名目上の兄であるというだけで、いくらでも出世の口は作ってやれた。
だが、妻とのぞんだ彼女へのあたりが決してやさしいものではない事を知って、関わるのを辞めた。
朧にとっては妻を大事にしない家族なんて、存在する意味がないのだから。
「それより、まさか橡の愛人だったとは」
朧は考え込んでしまう。
確かに若い頃は遊び惚けていたと聞いたことはあったけれど、そんな場末で拾った女を愛人にしていたとは驚きだ。
(木蘭に対して恨みがある、か)
そのことなら朧にも思い当たる節はあった。
子供の頃、幼さもあって朧はキイロ、つまりは木蘭を妻にすると公言してはばからなかった。
大抵は子供のことだと笑って済ませたが、薄氷との関りを狙う橡からしたら面白くなかったわけだ。
朧はキイロの肩を強く抱いた。
「私があまりに公言していたせいで、あなたにも余計な迷惑をかけてしまった」
「朧様が?」
「ええ。子供の頃のこととはいえ、自分が情けない」
朧が説明すると、キイロは首を横に振った。
「そんなの朧様のせいじゃありません。子供の言う事を鵜呑みにしたり、嫌がらせをするほうがおかしいのですから」
「あなたならそう言うと思いましたよ」
ふっと笑う朧に、キイロは頷く。
「舛花の手続きが終わり次第、すぐに動きます。これ以上橡の隙にはさせません」
「お怪我は」
「……今日は、休みますよ」
それは明日になれば、朧は戦いに出向くという事だ。
心配するキイロに、朧は言った。
「戦場に比べたらよっぽどマシですよ。相手は大砲を持っているわけでもありませんから」
冗談を言って和ませようとする朧に、キイロは不安を感じながらも頷くしかできなかった。
「―――――で、朽葉はあっさり鞍替えした、ということか」
不機嫌そうな男の声に、数人の男らがぺこぺこ頭を下げていた。
その中に一人、葵の叔父も存在した。
潤朱家の当主になれなかった、浅黄である。
「浅黄、どういうつもりだ」
「……申し訳ありません。呪いがバレてしまいまして」
「いいわけは良い!ったく、どうしてこんな無様な連中しかおらんのだ!」
手元にあった書類を投げつけ、不機嫌そうに顔を歪める男が、橡局長であった。
「奴は軍人ですから、上官の命令には従うんでしょう」
「はっ、若いくせに書類仕事しかしていない男が軍人だと?帝国軍人はいつからそんな甘い連中ばかりになったんだ?」
鼻で笑うも、作戦は失敗で、どうしようもない。
はあ、と橡はため息をつく。
「わたしももうおわりだな。なんとか幕府のご威光を取り戻したかったが」
嘘をつけ、と浅黄は心の中で思った。
元将軍であるかたは、とっくに政府の中枢に入らてていまや陛下とも親友だ。
この国を守るために肩書はいらぬとあっさり自ら将軍の座を譲られたというのに、あの頃の好き放題が忘れられないだけだろう。
(だが、それはわたしとて同じか)
潤朱はなんとか時代に乗る事はできたが、それでもやっと立場が残っている状態だ。
甥っ子が無能ならばまだ浅黄にもチャンスはあったが、葵は潤朱はじまって以来の良君と言われるほどだ。
一族も皆、葵を指示している。
浅黄も表立っては、だが、心の中は違う。
「このまま終わらせるわけにはいかん。なんとしても、せめてあの薄氷の若造に一太刀でもあびせん限りは、幕府の恨みがはらせん」
そう橡は言うが、浅黄はみっともないと思う。
若い連中に嫉妬して、こうもみじめな老人になってしまうのか。
(だが、それはこちらも同じ)
今更引き返せないのだ。
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