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第十二章
81・葵と藍銅伯爵
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「やあ、これは潤朱の」
豪華客船のフロアで潤朱葵に声をかけてきたのは藍銅伯爵だった。
「これは伯爵、」
「ああ、いい、そのままで。お互いにお忍びだろう?」
「はあ」
葵は苦笑する。
なぜなら藍銅伯爵のいでたちではお忍びと言えるのか謎だからだ。
(いつもの雰囲気のままだが、なにせ目立つ方だからなあ)
とはいえ、そんな自分の事は百も承知で来ているのだから、お忍び、というより公式ではない、といったところだろう。
「どうなさいました?ご旅行ですか?」
「いや、お披露目を見たくてね。なにせ橡のが居るそうじゃないか」
「……ええ、」
「ちょっと気になってね」
馬鹿なことはしない男だったのだが、ここ数年はそれすらも怪しい。
特に朧が結婚したと聞いてからは、突然ひどく荒れるようになった。
「あれも昔は、わきまえた男だったんだが」
「年を取るとああなるものなんでしょうか」
「そうかなあ。だとしたら私も気をつけないと」
「伯爵は大丈夫でしょう」
ふふっと葵は笑うが、小さくためいきもつく。
「疲れますよ。こうも問題児が多いと」
「おや、叔父を問題児扱いかね?」
妹の事を言ったつもりだったのだが、確かに叔父もそうかもしれない。
「はは、困ったものです。潤朱の事を考えたら大人しくしてほしいものですが」
「考えた結果、間違えているのではないかね」
「だとしたら間違いと勘違いも甚だしいですよ。薄氷の勢いを把握できていない」
薄氷の家はこれからますます栄えるだろう。
なにせ、朧はずっと探していた初恋の少女を妻に迎えられたし、しかも栴檀家のものだったという。
(思もいい加減、諦めなければ)
せめてそこらの女なら、愛人にでもおいておけ、と言えたのだろう。
だが、栴檀家の娘にずっと恋をしていたのなら、潤朱には勝ち目はない。
(余計なことをしなければよいのだが)
「そういえばきみの妹さんはお披露目の舞台をやるそうだね」
「お披露目?」
なんだそれは、と葵は身を乗り出す。
「おや、ご存じない?この船にある舞台で、独身のお嬢様を集めて皆様に見て頂くそうだ」
「なんと品のない。そんな場所に思が出るのですか?」
「出るも何も、発案者は君の妹だそうだよ」
「なんですって?」
そんな話は聞いていない、と葵は驚く。
「これはちょっと小耳にはさんだのだが、どうやら君の妹は花嫁衣裳を着てその舞台に出るらしい」
「バカな」
「そして、なぜかその警備に呼ばれているのが軍のとある方だと」
葵は青ざめた。
「朧の事ですね」
「さあ、私はそこまでは詳しく」
ざっと立ち上がろうとした葵の袖を、藍銅伯爵が引いた。
「それより落ち着きなさい。いまあなたが慌ててもどうしようもないでしょう」
「しかし、妹が愚かな事を」
「恋に狂った女性はとんでもないことをやるもの。ただ、それを救いたいのなら、妹を止めるよりやることがあるんじゃないかな?」
「やること……」
「そうだな。まずは妹をそそのかした背後の連中をどうにかすべきかな?」
藍銅伯爵がにっこり笑い、葵は今度は冷静に頷いた。
会場は誰でも入って良いようで、誰でもどうぞと案内されていた。
おかげでキイロと梅花、りんの三人は問題なく会場の空いている席へ座った。
あんまり前だと見えないので、後ろのほうを選んだ。
「ここならよく見えるわね」
「ええ。でも一体、なにをするのかしら」
次々にお客は入って来て、なにかあるらしいと楽しそうに待っている。
(こんなにたくさん人がいるところで、たくらみなんかできるのかしら?)
船の中は豪華で賑やかで、楽しいばかりで。
こんな中にいたら変なことも考えなくなりそうなのにな、とキイロは考える。
「どうしたの?考え事?」
「うん。こんなに賑やかなのに、たくらみがあるのならなんだかつまらないなって」
キイロにとって豪華客船も、このなかの賑わいも、祭のように楽しいのに。
そんな風に話をしている時だった。
会場の明かりが突然消えた。
豪華客船のフロアで潤朱葵に声をかけてきたのは藍銅伯爵だった。
「これは伯爵、」
「ああ、いい、そのままで。お互いにお忍びだろう?」
「はあ」
葵は苦笑する。
なぜなら藍銅伯爵のいでたちではお忍びと言えるのか謎だからだ。
(いつもの雰囲気のままだが、なにせ目立つ方だからなあ)
とはいえ、そんな自分の事は百も承知で来ているのだから、お忍び、というより公式ではない、といったところだろう。
「どうなさいました?ご旅行ですか?」
「いや、お披露目を見たくてね。なにせ橡のが居るそうじゃないか」
「……ええ、」
「ちょっと気になってね」
馬鹿なことはしない男だったのだが、ここ数年はそれすらも怪しい。
特に朧が結婚したと聞いてからは、突然ひどく荒れるようになった。
「あれも昔は、わきまえた男だったんだが」
「年を取るとああなるものなんでしょうか」
「そうかなあ。だとしたら私も気をつけないと」
「伯爵は大丈夫でしょう」
ふふっと葵は笑うが、小さくためいきもつく。
「疲れますよ。こうも問題児が多いと」
「おや、叔父を問題児扱いかね?」
妹の事を言ったつもりだったのだが、確かに叔父もそうかもしれない。
「はは、困ったものです。潤朱の事を考えたら大人しくしてほしいものですが」
「考えた結果、間違えているのではないかね」
「だとしたら間違いと勘違いも甚だしいですよ。薄氷の勢いを把握できていない」
薄氷の家はこれからますます栄えるだろう。
なにせ、朧はずっと探していた初恋の少女を妻に迎えられたし、しかも栴檀家のものだったという。
(思もいい加減、諦めなければ)
せめてそこらの女なら、愛人にでもおいておけ、と言えたのだろう。
だが、栴檀家の娘にずっと恋をしていたのなら、潤朱には勝ち目はない。
(余計なことをしなければよいのだが)
「そういえばきみの妹さんはお披露目の舞台をやるそうだね」
「お披露目?」
なんだそれは、と葵は身を乗り出す。
「おや、ご存じない?この船にある舞台で、独身のお嬢様を集めて皆様に見て頂くそうだ」
「なんと品のない。そんな場所に思が出るのですか?」
「出るも何も、発案者は君の妹だそうだよ」
「なんですって?」
そんな話は聞いていない、と葵は驚く。
「これはちょっと小耳にはさんだのだが、どうやら君の妹は花嫁衣裳を着てその舞台に出るらしい」
「バカな」
「そして、なぜかその警備に呼ばれているのが軍のとある方だと」
葵は青ざめた。
「朧の事ですね」
「さあ、私はそこまでは詳しく」
ざっと立ち上がろうとした葵の袖を、藍銅伯爵が引いた。
「それより落ち着きなさい。いまあなたが慌ててもどうしようもないでしょう」
「しかし、妹が愚かな事を」
「恋に狂った女性はとんでもないことをやるもの。ただ、それを救いたいのなら、妹を止めるよりやることがあるんじゃないかな?」
「やること……」
「そうだな。まずは妹をそそのかした背後の連中をどうにかすべきかな?」
藍銅伯爵がにっこり笑い、葵は今度は冷静に頷いた。
会場は誰でも入って良いようで、誰でもどうぞと案内されていた。
おかげでキイロと梅花、りんの三人は問題なく会場の空いている席へ座った。
あんまり前だと見えないので、後ろのほうを選んだ。
「ここならよく見えるわね」
「ええ。でも一体、なにをするのかしら」
次々にお客は入って来て、なにかあるらしいと楽しそうに待っている。
(こんなにたくさん人がいるところで、たくらみなんかできるのかしら?)
船の中は豪華で賑やかで、楽しいばかりで。
こんな中にいたら変なことも考えなくなりそうなのにな、とキイロは考える。
「どうしたの?考え事?」
「うん。こんなに賑やかなのに、たくらみがあるのならなんだかつまらないなって」
キイロにとって豪華客船も、このなかの賑わいも、祭のように楽しいのに。
そんな風に話をしている時だった。
会場の明かりが突然消えた。
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