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Ωの不幸は蜜の味(完)
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翌朝目を覚まし、雪哉が横に寝ているのを見て「夢じゃなかったんだ」とぼんやり思う。
彼は昨夜俺の首の火傷痕に何度も口付けをしていた。
それを思い出し、むず痒い気分になる。ケロイドになったそこを見たくないというアルファはいたが、口付けしてくる男なんて誰もいなかった。
――こいつとつがいになれなくてよかった……。
もしつがいになっていたら、俺はこの男が自分に飽きた時泣いて縋ってしまうだろう。つがいに捨てられるオメガの苦しみなんて、想像するだけでも恐ろしい。
つがいになんてならなければ、いつでも捨てられて当然と思っていられる――。
そこまで考えた時、雪哉の長いまつ毛が震えて目が開いた。
さざなみのように静かに微笑む美しいアルファの男――彼は俺に手を伸ばし、抱きしめた。
「俺の顔見てたの?」
「……いや、ただ整ってるなって――」
「整ってる? それだけ?」
「その……」
「好みじゃない? 俺は望さんの顔がすごく好き」
そう言って彼は俺の顔を覗き込んで頬に手を添えた。
――嘘つくなよ。俺より綺麗なオメガなんていくらでも相手してきただろうに。
「目も鼻も唇も、黒くて細い髪の毛も、やらしい腰つきも、俺のことを美味しそうに食べてくれる後ろの口も――」
「おい!」
ふざけやがって。
俺が遮ろうとしても彼は愉快そうに続ける。
「ふふ、それに――うなじの火傷も、俺は愛しいよ」
「は? 何を言ってるんだよ」
俺は咄嗟に自分のうなじを手で隠した。
自分の忌々しい過去の傷痕に、冗談でもそんなことを言う人はいなかった。こんなものを愛しいと思うことなんてとてもじゃないけど出来やしない。
全身彫刻みたいに整っていて、傷一つないアルファの雪哉。そんな男に昔好きだったなんて言われて舞い上がり、抱かれたことを今更ながら後悔する。羞恥の火で炙られ、うなじの傷がじりじりと痛痒くなるような気がした。
「いくら俺のことを馬鹿にしてるからって傷のことを他人にとやかく言われたくない」
「怒らせたなら謝ります。でもその火傷がなかったら望さんはとっくにどこかの誰かと幸せになってたでしょう? だから、俺にとっては幸運の証です。心から愛しいしこうやって舐めたら――」
そう言って雪哉は起き上がると俺の髪の毛をかきわけ、首筋に顔を寄せてくる。昨夜のようにのしかかられ、身動きが取れない。彼は俺のうなじにそっと舌を這わせた。痒みだけでなくそこからぞくぞくとした痺れが広がる。俺は快感で身震いしそうになるのを必死で耐えた。
「……やめろ、雪哉!」
俺の制止する声など聞こえない様子で彼はそこを舐め、口付けし、甘噛みした。徐々に彼の息遣いが荒くなる。こんなところを舐めて興奮するなんて――火傷のせいでオメガのフェロモンはほとんど出ていないはずなのに。
「んぅ……やだ……! やめろ……」
――このままじゃ食われる。
今まで俺を抱いた男たちは皆、うなじの傷を見ることを避けた。視界に入ると萎えるだろうと自分でもわかっていたから着衣のままするか、後ろを向かない体位でセックスをするのが常だった。
それなのに、なんでこいつはこんなにがっついてくるんだよ――?
「この馬鹿力の変態、やめろっていってるだろ!」
渾身の力を込めて彼の顔を押し退け、雪哉と向かい合わせになる。ベッドに背中をくっつけてうなじを舐められないようにガードしたが、至近距離で見下ろされることになった。
「だって……蜜の味がするんですよ」
「は?」
「望さんのそこ、甘いですよ。匂いはしないけど――」
雪哉は唾液で光る唇でにっと微笑んだ。
「こんなに我慢できなくなるのって久しぶりで自分でも驚いてます。望さん、俺たち相性が良いみたいですね」
――相性がいい? 俺が、こいつと?
こいつの発言にはなんの根拠もない。だけど、雪哉は俺の一番嫌ってる部分を甘いと言いながら舐める変態だし、ある意味お似合いなのかもしれない――。
「変な奴……」
「よく言われます」
「お前友達いないだろ」
「さあ。気にしたこともなかったけど、いないかも?」
のしかかられた俺の下腹部には雪哉の昂りが当たっていた。昨夜散々やったのに、まだこんなに元気なのか。
不幸な俺に欲情し、甘いと言って舐める変なα――……。なぜかおかしくなってきて笑ってしまう。
「どうかしてるよお前、久しぶりに会った相手によくそんなこと言えるよな」
「あ、笑った。やっと本気で笑ってくれましたね」
――そういやしばらくぶりにちゃんと笑ったかもしれない。
「嬉しい。俺もっと頑張りますね、望さん」
そう言って雪哉は甘えた仕草で俺の胸に頭を乗せた。彼の髪の毛からはどこか心が落ち着く良い香りがする。
俺の体に染みついた不幸の蜜――この男ならそれが空っぽになるまで、全て舐め尽くしてくれるのかもしれない。
END
彼は昨夜俺の首の火傷痕に何度も口付けをしていた。
それを思い出し、むず痒い気分になる。ケロイドになったそこを見たくないというアルファはいたが、口付けしてくる男なんて誰もいなかった。
――こいつとつがいになれなくてよかった……。
もしつがいになっていたら、俺はこの男が自分に飽きた時泣いて縋ってしまうだろう。つがいに捨てられるオメガの苦しみなんて、想像するだけでも恐ろしい。
つがいになんてならなければ、いつでも捨てられて当然と思っていられる――。
そこまで考えた時、雪哉の長いまつ毛が震えて目が開いた。
さざなみのように静かに微笑む美しいアルファの男――彼は俺に手を伸ばし、抱きしめた。
「俺の顔見てたの?」
「……いや、ただ整ってるなって――」
「整ってる? それだけ?」
「その……」
「好みじゃない? 俺は望さんの顔がすごく好き」
そう言って彼は俺の顔を覗き込んで頬に手を添えた。
――嘘つくなよ。俺より綺麗なオメガなんていくらでも相手してきただろうに。
「目も鼻も唇も、黒くて細い髪の毛も、やらしい腰つきも、俺のことを美味しそうに食べてくれる後ろの口も――」
「おい!」
ふざけやがって。
俺が遮ろうとしても彼は愉快そうに続ける。
「ふふ、それに――うなじの火傷も、俺は愛しいよ」
「は? 何を言ってるんだよ」
俺は咄嗟に自分のうなじを手で隠した。
自分の忌々しい過去の傷痕に、冗談でもそんなことを言う人はいなかった。こんなものを愛しいと思うことなんてとてもじゃないけど出来やしない。
全身彫刻みたいに整っていて、傷一つないアルファの雪哉。そんな男に昔好きだったなんて言われて舞い上がり、抱かれたことを今更ながら後悔する。羞恥の火で炙られ、うなじの傷がじりじりと痛痒くなるような気がした。
「いくら俺のことを馬鹿にしてるからって傷のことを他人にとやかく言われたくない」
「怒らせたなら謝ります。でもその火傷がなかったら望さんはとっくにどこかの誰かと幸せになってたでしょう? だから、俺にとっては幸運の証です。心から愛しいしこうやって舐めたら――」
そう言って雪哉は起き上がると俺の髪の毛をかきわけ、首筋に顔を寄せてくる。昨夜のようにのしかかられ、身動きが取れない。彼は俺のうなじにそっと舌を這わせた。痒みだけでなくそこからぞくぞくとした痺れが広がる。俺は快感で身震いしそうになるのを必死で耐えた。
「……やめろ、雪哉!」
俺の制止する声など聞こえない様子で彼はそこを舐め、口付けし、甘噛みした。徐々に彼の息遣いが荒くなる。こんなところを舐めて興奮するなんて――火傷のせいでオメガのフェロモンはほとんど出ていないはずなのに。
「んぅ……やだ……! やめろ……」
――このままじゃ食われる。
今まで俺を抱いた男たちは皆、うなじの傷を見ることを避けた。視界に入ると萎えるだろうと自分でもわかっていたから着衣のままするか、後ろを向かない体位でセックスをするのが常だった。
それなのに、なんでこいつはこんなにがっついてくるんだよ――?
「この馬鹿力の変態、やめろっていってるだろ!」
渾身の力を込めて彼の顔を押し退け、雪哉と向かい合わせになる。ベッドに背中をくっつけてうなじを舐められないようにガードしたが、至近距離で見下ろされることになった。
「だって……蜜の味がするんですよ」
「は?」
「望さんのそこ、甘いですよ。匂いはしないけど――」
雪哉は唾液で光る唇でにっと微笑んだ。
「こんなに我慢できなくなるのって久しぶりで自分でも驚いてます。望さん、俺たち相性が良いみたいですね」
――相性がいい? 俺が、こいつと?
こいつの発言にはなんの根拠もない。だけど、雪哉は俺の一番嫌ってる部分を甘いと言いながら舐める変態だし、ある意味お似合いなのかもしれない――。
「変な奴……」
「よく言われます」
「お前友達いないだろ」
「さあ。気にしたこともなかったけど、いないかも?」
のしかかられた俺の下腹部には雪哉の昂りが当たっていた。昨夜散々やったのに、まだこんなに元気なのか。
不幸な俺に欲情し、甘いと言って舐める変なα――……。なぜかおかしくなってきて笑ってしまう。
「どうかしてるよお前、久しぶりに会った相手によくそんなこと言えるよな」
「あ、笑った。やっと本気で笑ってくれましたね」
――そういやしばらくぶりにちゃんと笑ったかもしれない。
「嬉しい。俺もっと頑張りますね、望さん」
そう言って雪哉は甘えた仕草で俺の胸に頭を乗せた。彼の髪の毛からはどこか心が落ち着く良い香りがする。
俺の体に染みついた不幸の蜜――この男ならそれが空っぽになるまで、全て舐め尽くしてくれるのかもしれない。
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とっても面白かったです😊
望と雪哉の再会は運命だったのかなぁ💕ロマンチックですね🥰
ステキな作品✨ありがとうございました👑✨
にいなさん、ご感想ありがとうございます!
ずっと不幸だったΩでも運命の巡り合わせで最後はちゃんと幸せになってほしいなと思って書きました♡
そう感じていただけて嬉しいです♪
望くんの不幸が重なってきた人生は辛かったけど、雪哉くんに再会して愛される為だったんだね。
項が甘くて蜜の味❤
家族がたくさん増える未来が想像できます。
素敵なお話ありがとうございました。
麻紀さん、早速のご感想ありがとうございます!
Xの方でも告知しようと思ってたらもう読んで頂けたとは嬉しいです♡
最初は長めの話で考えてましたが、望が不憫な気がして早めに雪哉につかまえてもらえるお話にしました。
雪哉がやる気満々なので子だくさんになると思います🤭