Ωの不幸は蜜の味

grotta

文字の大きさ
5 / 5

Ωの不幸は蜜の味(完)

しおりを挟む
翌朝目を覚まし、雪哉が横に寝ているのを見て「夢じゃなかったんだ」とぼんやり思う。
彼は昨夜俺の首の火傷痕に何度も口付けをしていた。
それを思い出し、むず痒い気分になる。ケロイドになったそこを見たくないというアルファはいたが、口付けしてくる男なんて誰もいなかった。

――こいつとつがいになれなくてよかった……。

もしつがいになっていたら、俺はこの男が自分に飽きた時泣いて縋ってしまうだろう。つがいに捨てられるオメガの苦しみなんて、想像するだけでも恐ろしい。
つがいになんてならなければ、いつでも捨てられて当然と思っていられる――。

そこまで考えた時、雪哉の長いまつ毛が震えて目が開いた。
さざなみのように静かに微笑む美しいアルファの男――彼は俺に手を伸ばし、抱きしめた。

「俺の顔見てたの?」
「……いや、ただ整ってるなって――」
「整ってる? それだけ?」
「その……」
「好みじゃない? 俺は望さんの顔がすごく好き」

そう言って彼は俺の顔を覗き込んで頬に手を添えた。
――嘘つくなよ。俺より綺麗なオメガなんていくらでも相手してきただろうに。

「目も鼻も唇も、黒くて細い髪の毛も、やらしい腰つきも、俺のことを美味しそうに食べてくれる後ろの口も――」
「おい!」

ふざけやがって。
俺が遮ろうとしても彼は愉快そうに続ける。

「ふふ、それに――うなじの火傷も、俺は愛しいよ」
「は? 何を言ってるんだよ」

俺は咄嗟に自分のうなじを手で隠した。
自分の忌々しい過去の傷痕に、冗談でもそんなことを言う人はいなかった。こんなものを愛しいと思うことなんてとてもじゃないけど出来やしない。
全身彫刻みたいに整っていて、傷一つないアルファの雪哉。そんな男に昔好きだったなんて言われて舞い上がり、抱かれたことを今更ながら後悔する。羞恥の火で炙られ、うなじの傷がじりじりと痛痒くなるような気がした。

「いくら俺のことを馬鹿にしてるからって傷のことを他人にとやかく言われたくない」
「怒らせたなら謝ります。でもその火傷がなかったら望さんはとっくにどこかの誰かと幸せになってたでしょう? だから、俺にとっては幸運の証です。心から愛しいしこうやって舐めたら――」

そう言って雪哉は起き上がると俺の髪の毛をかきわけ、首筋に顔を寄せてくる。昨夜のようにのしかかられ、身動きが取れない。彼は俺のうなじにそっと舌を這わせた。痒みだけでなくそこからぞくぞくとした痺れが広がる。俺は快感で身震いしそうになるのを必死で耐えた。

「……やめろ、雪哉!」

俺の制止する声など聞こえない様子で彼はそこを舐め、口付けし、甘噛みした。徐々に彼の息遣いが荒くなる。こんなところを舐めて興奮するなんて――火傷のせいでオメガのフェロモンはほとんど出ていないはずなのに。

「んぅ……やだ……! やめろ……」

――このままじゃ食われる。
今まで俺を抱いた男たちは皆、うなじの傷を見ることを避けた。視界に入ると萎えるだろうと自分でもわかっていたから着衣のままするか、後ろを向かない体位でセックスをするのが常だった。
それなのに、なんでこいつはこんなにがっついてくるんだよ――?

「この馬鹿力の変態、やめろっていってるだろ!」

渾身の力を込めて彼の顔を押し退け、雪哉と向かい合わせになる。ベッドに背中をくっつけてうなじを舐められないようにガードしたが、至近距離で見下ろされることになった。

「だって……蜜の味がするんですよ」
「は?」
「望さんのそこ、甘いですよ。匂いはしないけど――」

雪哉は唾液で光る唇でにっと微笑んだ。

「こんなに我慢できなくなるのって久しぶりで自分でも驚いてます。望さん、俺たち相性が良いみたいですね」

――相性がいい? 俺が、こいつと?

こいつの発言にはなんの根拠もない。だけど、雪哉は俺の一番嫌ってる部分を甘いと言いながら舐める変態だし、ある意味お似合いなのかもしれない――。

「変な奴……」
「よく言われます」
「お前友達いないだろ」
「さあ。気にしたこともなかったけど、いないかも?」

のしかかられた俺の下腹部には雪哉の昂りが当たっていた。昨夜散々やったのに、まだこんなに元気なのか。
不幸な俺に欲情し、甘いと言って舐める変なα――……。なぜかおかしくなってきて笑ってしまう。

「どうかしてるよお前、久しぶりに会った相手によくそんなこと言えるよな」
「あ、笑った。やっと本気で笑ってくれましたね」

――そういやしばらくぶりにちゃんと笑ったかもしれない。

「嬉しい。俺もっと頑張りますね、望さん」

そう言って雪哉は甘えた仕草で俺の胸に頭を乗せた。彼の髪の毛からはどこか心が落ち着く良い香りがする。

俺の体に染みついた不幸の蜜――この男ならそれが空っぽになるまで、全て舐め尽くしてくれるのかもしれない。


END
しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

にいな
2023.10.08 にいな

とっても面白かったです😊
望と雪哉の再会は運命だったのかなぁ💕ロマンチックですね🥰
ステキな作品✨ありがとうございました👑✨

2023.10.08 grotta

にいなさん、ご感想ありがとうございます!
ずっと不幸だったΩでも運命の巡り合わせで最後はちゃんと幸せになってほしいなと思って書きました♡
そう感じていただけて嬉しいです♪

解除
一ノ瀬麻紀
2023.10.08 一ノ瀬麻紀

望くんの不幸が重なってきた人生は辛かったけど、雪哉くんに再会して愛される為だったんだね。
項が甘くて蜜の味❤
家族がたくさん増える未来が想像できます。
素敵なお話ありがとうございました。

2023.10.08 grotta

麻紀さん、早速のご感想ありがとうございます!
Xの方でも告知しようと思ってたらもう読んで頂けたとは嬉しいです♡
最初は長めの話で考えてましたが、望が不憫な気がして早めに雪哉につかまえてもらえるお話にしました。
雪哉がやる気満々なので子だくさんになると思います🤭

解除

あなたにおすすめの小説

捨てられオメガの幸せは

ホロロン
BL
家族に愛されていると思っていたが実はそうではない事実を知ってもなお家族と仲良くしたいがためにずっと好きだった人と喧嘩別れしてしまった。 幸せになれると思ったのに…番になる前に捨てられて行き場をなくした時に会ったのは、あの大好きな彼だった。

隣の番は、俺だけを見ている

雪兎
BL
Ωである高校生の湊(みなと)は、幼いころから体が弱く、友人も少ない。そんな湊の隣に住んでいるのは、幼馴染で幼少期から湊に執着してきたαの律(りつ)。律は湊の護衛のように常にそばにいて、彼に近づく人間を片っ端から遠ざけてしまう。 ある日、湊は学校で軽い発情期の前触れに襲われ、助けてくれたのもやはり律だった。逃れられない幼馴染との関係に戸惑う湊だが、律は静かに囁く。「もう、俺からは逃げられない」――。 執着愛が静かに絡みつく、オメガバース・あまあま系BL。 【キャラクター設定】 ■主人公(受け) 名前:湊(みなと) 属性:Ω(オメガ) 年齢:17歳 性格:引っ込み思案でおとなしいが、内面は芯が強い。幼少期から体が弱く、他人に頼ることが多かったため、律に守られるのが当たり前になっている。 特徴:小柄で華奢。淡い茶髪で色白。表情はおだやかだが、感情が表に出やすい。 ■相手(攻め) 名前:律(りつ) 属性:α(アルファ) 年齢:18歳 性格:独占欲が非常に強く、湊に対してのみ甘く、他人には冷たい。基本的に無表情だが、湊のこととなると感情的になる。 特徴:長身で整った顔立ち。黒髪でクールな雰囲気。幼少期に湊を助けたことをきっかけに執着心が芽生え、彼を「俺の番」と心に決めている。

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

やっぱり、すき。

朏猫(ミカヅキネコ)
BL
ぼくとゆうちゃんは幼馴染みで、小さいときから両思いだった。そんなゆうちゃんは、やっぱりαだった。βのぼくがそばいいていい相手じゃない。だからぼくは逃げることにしたんだ――ゆうちゃんの未来のために、これ以上ぼく自身が傷つかないために。

ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。

水鳴諒
BL
 目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)

【BL】無償の愛と愛を知らない僕。

ありま氷炎
BL
何かしないと、人は僕を愛してくれない。 それが嫌で、僕は家を飛び出した。 僕を拾ってくれた人は、何も言わず家に置いてくれた。 両親が迎えにきて、仕方なく家に帰った。 それから十数年後、僕は彼と再会した。

αが離してくれない

雪兎
BL
運命の番じゃないのに、αの彼は僕を離さない――。 Ωとして生まれた僕は、発情期を抑える薬を使いながら、普通の生活を目指していた。 でもある日、隣の席の無口なαが、僕の香りに気づいてしまって……。 これは、番じゃないふたりの、近すぎる距離で始まる、運命から少しはずれた恋の話。

大好きな婚約者を僕から自由にしてあげようと思った

こたま
BL
オメガの岡山智晴(ちはる)には婚約者がいる。祖父が友人同士であるアルファの香川大輝(だいき)だ。格好良くて優しい大輝には祖父同士が勝手に決めた相手より、自らで選んだ人と幸せになって欲しい。自分との婚約から解放して自由にしてあげようと思ったのだが…。ハッピーエンドオメガバースBLです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。