10 / 48
10.撮影のお手伝い(1)
しおりを挟む
蒼司と何故か二人で暮らすことになり戸惑いはあった。しかし父が用意してくれたマンションは4LDKでかなり広い。なので、実家で過ごしているときとそれほど生活に変化はなさそうだった。
(一人なのにやけに広い部屋に入居させられるなと思ったら、蒼司くんも来るとはね……)
あの後父に抗議の電話をしたら、笑いながら「サプライズだよ。気に入った?」と言われて毒気を抜かれてしまった。最初に一人暮らしの打診をした時きっぱり断られたのに、二回目話してすんなり了承されたのは蒼司を投入するつもりだったからだろう。
(まぁ、僕も大抵部屋で作業しているし、蒼司くんは忙しくて日中家にほとんどいないからなんとかなりそうかな)
実家に引きこもっていた時は僕のフェロモンに反応する人間がいなかった。なので薬は外出時や来客時以外は飲まずに済んでいた。だけど、蒼司と一緒に住むからには毎日服用しなければならない。今度病院に行った時は今までより多めに薬を貰う必要があるだろう。
(ちょっと面倒だけど、それ以上に蒼司くんを近くで拝めるというメリットあるしな)
それにしても、まさかSNSのアカウントがバレているとは思わなかった。今まで自分が送ってきたDMを見返して、悶え死にそうになった。誰かひと思いにやってくれという気持ち……。
返事が来ないから、読んでいるとは思っていなかった。あの後蒼司に聞いたところ、僕のようなおかしなメッセージじゃなければ結構普通に返信するのだと言っていた。
(悔しい……なんでeagle0908には返事くれないんだよー!)
それは気持ち悪い絡み方をしたからに他ならない。自分のアカウントのプロフィールには「30↑」と、30歳以上の男性であることを明記していた。
(――そんな奴に「カフェで遠くから眺めたいです。ごちそうします」とか言われたらそりゃ誰でも無視するよ……ほんとキモいよ僕!)
それでも、毎日彼のアカウントにアクションしていたおかげで、認知だけはされていてちょっと嬉しかった。相変わらずちょっと冷たい目で見られるのはぞくぞくして気分が良い。僕は彼に睨まれるのが癖になりつつあった。
◇◇◇
翌日は朝から出掛けると言われていたので、張り切って早起きした。
部屋がまだ完全に片付いていないが、蒼司のお供とあれば家のことは投げ出してついて行くしかない。
引きこもりとしては、あまり大勢人のいる場所には行きたくない。だけどおそらく、隼一と同じく蒼司と一緒に出かければ視線は全て向こうに集まるに違いない。
(僕は全身黒尽くめで、キャップを被っていればスタッフに見えるから大丈夫なはず)
そう思って僕は蒼司がSNSで着ていたという理由で以前購入したTシャツと黒いパンツに着替えた。もちろん僕はお店で試着して買ったりしない。ネットで買うとサイズ感がわからなくて、届いたTシャツはちょっと大きめだった。ビッグシルエットはまだ流行ってるみたいだしまぁいいや、と僕はそれを着ていくことにした。
早く起きすぎたようで、蒼司が起きてきたのはそれから一時間後だった。
「なんだ、もう準備できたのか?」
「うん。人の多いところに行くのは久々だから緊張して眠れなくて……」
「あー、そうか。人前出るの嫌ならやめるか?」
「ううん! 行く。僕もそろそろ、ちゃんと外に出ないとって思ってたから」
「ふーん。それより、その服で行く気なんだ?」
「え? あ、そう。これわかる? 蒼司くんが前に着てた――」
蒼司は僕の全身を眺めて言う。
「似合ってねぇな」
「へ?」
「俺が着て似合ってるものをそのまま着て似合うとでも思ってんのか?」
「それは……思ってない、です」
モデルが着てるみたいに着こなせるわけないのはわかっている。だけどそれを憧れの相手に指摘されて、恥ずかしくて顔から火が出そうだった。僕が俯いていると彼が近寄って来て突然Tシャツの裾を掴んだ。
「脱げ、ほら」
「うわぁ! 何するの!?」
そして、そのまま脱がされてしまった。
「こっちこい、お前が着れそうな服貸してやるよ」
「えっ……」
(Aoの服を借りる!?)
蒼司は自室のクローゼットを開け、すぐに目当てのものを見つけて持ってきた。
「これ着てみろ」
せっかく全身黒にしようと思ったのに、彼が選んだのは真っ白なTシャツだった。だけど、あまりの強引さに断りきれず仕方なく着させてもらう。
(うわ、やば……これ蒼司くんのめっちゃ良い匂いする……♡)
僕は思わず襟元を両手で掴んでクンクン匂いをかいでしまった。
「おい、おい! 正気に戻れ。匂いすごいぞ!」
蒼司は腕で口と鼻を覆った。
「ご、ごめん……ていうかこのTシャツ良い匂いだから僕、なんか変な気分になりそう……」
「バカなこと言ってないでさっさと鏡見てこい。さっきより良くなっただろ」
「はい……見てきます……」
言われた通り自室の姿見で確認したところ、黒いTシャツより断然こっちの方が似合っていた。
「お前は色白すぎてトップスが黒だと血色悪く見えるんだよ。白い服着たほうがマシだ」
「そうなの?」
しかし今鏡に映る自分の顔は、彼の香りのシャツのおかげで薄っすらピンク色に染まっていた。
「今はおかしなフェロモン垂れ流してるから顔が赤いだけだぞ。外に出ないからそういう不健康な生白い顔なんだよ。これからはちゃんと日光浴びろよな」
「うん、わかった。ありがとう心配してくれて」
「勘違いすんなよ? 一緒に住んでいながらお前が具合悪そうにしてたらお父さんが心配するからだ」
蒼司はそう言ってふいっと顔を背けた。
(あれ? もしかして……)
「蒼司くん、照れてるの?」
「はぁ!? うるさいぞ。とっととその赤い顔洗ってこい」
「蒼司くんもまだ顔洗ってないでしょ」
朝起きてそのままの蒼司に突っ込むと、彼はフン! と鼻を鳴らしてバスルームへ消えていった。
(なんか……気性の荒い動物みたいで可愛いかも……)
(一人なのにやけに広い部屋に入居させられるなと思ったら、蒼司くんも来るとはね……)
あの後父に抗議の電話をしたら、笑いながら「サプライズだよ。気に入った?」と言われて毒気を抜かれてしまった。最初に一人暮らしの打診をした時きっぱり断られたのに、二回目話してすんなり了承されたのは蒼司を投入するつもりだったからだろう。
(まぁ、僕も大抵部屋で作業しているし、蒼司くんは忙しくて日中家にほとんどいないからなんとかなりそうかな)
実家に引きこもっていた時は僕のフェロモンに反応する人間がいなかった。なので薬は外出時や来客時以外は飲まずに済んでいた。だけど、蒼司と一緒に住むからには毎日服用しなければならない。今度病院に行った時は今までより多めに薬を貰う必要があるだろう。
(ちょっと面倒だけど、それ以上に蒼司くんを近くで拝めるというメリットあるしな)
それにしても、まさかSNSのアカウントがバレているとは思わなかった。今まで自分が送ってきたDMを見返して、悶え死にそうになった。誰かひと思いにやってくれという気持ち……。
返事が来ないから、読んでいるとは思っていなかった。あの後蒼司に聞いたところ、僕のようなおかしなメッセージじゃなければ結構普通に返信するのだと言っていた。
(悔しい……なんでeagle0908には返事くれないんだよー!)
それは気持ち悪い絡み方をしたからに他ならない。自分のアカウントのプロフィールには「30↑」と、30歳以上の男性であることを明記していた。
(――そんな奴に「カフェで遠くから眺めたいです。ごちそうします」とか言われたらそりゃ誰でも無視するよ……ほんとキモいよ僕!)
それでも、毎日彼のアカウントにアクションしていたおかげで、認知だけはされていてちょっと嬉しかった。相変わらずちょっと冷たい目で見られるのはぞくぞくして気分が良い。僕は彼に睨まれるのが癖になりつつあった。
◇◇◇
翌日は朝から出掛けると言われていたので、張り切って早起きした。
部屋がまだ完全に片付いていないが、蒼司のお供とあれば家のことは投げ出してついて行くしかない。
引きこもりとしては、あまり大勢人のいる場所には行きたくない。だけどおそらく、隼一と同じく蒼司と一緒に出かければ視線は全て向こうに集まるに違いない。
(僕は全身黒尽くめで、キャップを被っていればスタッフに見えるから大丈夫なはず)
そう思って僕は蒼司がSNSで着ていたという理由で以前購入したTシャツと黒いパンツに着替えた。もちろん僕はお店で試着して買ったりしない。ネットで買うとサイズ感がわからなくて、届いたTシャツはちょっと大きめだった。ビッグシルエットはまだ流行ってるみたいだしまぁいいや、と僕はそれを着ていくことにした。
早く起きすぎたようで、蒼司が起きてきたのはそれから一時間後だった。
「なんだ、もう準備できたのか?」
「うん。人の多いところに行くのは久々だから緊張して眠れなくて……」
「あー、そうか。人前出るの嫌ならやめるか?」
「ううん! 行く。僕もそろそろ、ちゃんと外に出ないとって思ってたから」
「ふーん。それより、その服で行く気なんだ?」
「え? あ、そう。これわかる? 蒼司くんが前に着てた――」
蒼司は僕の全身を眺めて言う。
「似合ってねぇな」
「へ?」
「俺が着て似合ってるものをそのまま着て似合うとでも思ってんのか?」
「それは……思ってない、です」
モデルが着てるみたいに着こなせるわけないのはわかっている。だけどそれを憧れの相手に指摘されて、恥ずかしくて顔から火が出そうだった。僕が俯いていると彼が近寄って来て突然Tシャツの裾を掴んだ。
「脱げ、ほら」
「うわぁ! 何するの!?」
そして、そのまま脱がされてしまった。
「こっちこい、お前が着れそうな服貸してやるよ」
「えっ……」
(Aoの服を借りる!?)
蒼司は自室のクローゼットを開け、すぐに目当てのものを見つけて持ってきた。
「これ着てみろ」
せっかく全身黒にしようと思ったのに、彼が選んだのは真っ白なTシャツだった。だけど、あまりの強引さに断りきれず仕方なく着させてもらう。
(うわ、やば……これ蒼司くんのめっちゃ良い匂いする……♡)
僕は思わず襟元を両手で掴んでクンクン匂いをかいでしまった。
「おい、おい! 正気に戻れ。匂いすごいぞ!」
蒼司は腕で口と鼻を覆った。
「ご、ごめん……ていうかこのTシャツ良い匂いだから僕、なんか変な気分になりそう……」
「バカなこと言ってないでさっさと鏡見てこい。さっきより良くなっただろ」
「はい……見てきます……」
言われた通り自室の姿見で確認したところ、黒いTシャツより断然こっちの方が似合っていた。
「お前は色白すぎてトップスが黒だと血色悪く見えるんだよ。白い服着たほうがマシだ」
「そうなの?」
しかし今鏡に映る自分の顔は、彼の香りのシャツのおかげで薄っすらピンク色に染まっていた。
「今はおかしなフェロモン垂れ流してるから顔が赤いだけだぞ。外に出ないからそういう不健康な生白い顔なんだよ。これからはちゃんと日光浴びろよな」
「うん、わかった。ありがとう心配してくれて」
「勘違いすんなよ? 一緒に住んでいながらお前が具合悪そうにしてたらお父さんが心配するからだ」
蒼司はそう言ってふいっと顔を背けた。
(あれ? もしかして……)
「蒼司くん、照れてるの?」
「はぁ!? うるさいぞ。とっととその赤い顔洗ってこい」
「蒼司くんもまだ顔洗ってないでしょ」
朝起きてそのままの蒼司に突っ込むと、彼はフン! と鼻を鳴らしてバスルームへ消えていった。
(なんか……気性の荒い動物みたいで可愛いかも……)
30
あなたにおすすめの小説
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
寡黙なオオカミαにストーカー気質のネコΩが嫁いだ話
かとらり。
BL
誰もがケモミミとバース性を持つ世界。
澪は猫種のΩだった。
引っ込み思案の澪は半ばストーカーのように密かに追いかけている憧れの人がいる。
狼種のαの慶斗だ。
そんな慶斗にいきなり嫁ぐことが決定した澪。話しかけるのも無理なのに結婚なんてできるの?
しかも慶斗は事情があるらしくー…
【完結済】キズモノオメガの幸せの見つけ方~番のいる俺がアイツを愛することなんて許されない~
つきよの
BL
●ハッピーエンド●
「勇利先輩……?」
俺、勇利渉は、真冬に照明と暖房も消されたオフィスで、コートを着たままノートパソコンに向かっていた。
だが、突然背後から名前を呼ばれて後ろを振り向くと、声の主である人物の存在に思わず驚き、心臓が跳ね上がった。
(どうして……)
声が出ないほど驚いたのは、今日はまだ、そこにいるはずのない人物が立っていたからだった。
「東谷……」
俺の目に映し出されたのは、俺が初めて新人研修を担当した後輩、東谷晧だった。
背が高く、ネイビーより少し明るい色の細身スーツ。
落ち着いたブラウンカラーの髪色は、目鼻立ちの整った顔を引き立たせる。
誰もが目を惹くルックスは、最後に会った三年前となんら変わっていなかった。
そう、最後に過ごしたあの夜から、空白の三年間なんてなかったかのように。
番になればラット化を抑えられる
そんな一方的な理由で番にさせられたオメガ
しかし、アルファだと偽って生きていくには
関係を続けることが必要で……
そんな中、心から愛する人と出会うも
自分には噛み痕が……
愛したいのに愛することは許されない
社会人オメガバース
あの日から三年ぶりに会うアイツは…
敬語後輩α × 首元に噛み痕が残るΩ
変異型Ωは鉄壁の貞操
田中 乃那加
BL
変異型――それは初めての性行為相手によってバースが決まってしまう突然変異種のこと。
男子大学生の金城 奏汰(かなしろ かなた)は変異型。
もしαに抱かれたら【Ω】に、βやΩを抱けば【β】に定着する。
奏汰はαが大嫌い、そして絶対にΩにはなりたくない。夢はもちろん、βの可愛いカノジョをつくり幸せな家庭を築くこと。
だから護身術を身につけ、さらに防犯グッズを持ち歩いていた。
ある日の歓楽街にて、β女性にからんでいたタチの悪い酔っ払いを次から次へとやっつける。
それを見た高校生、名張 龍也(なばり たつや)に一目惚れされることに。
当然突っぱねる奏汰と引かない龍也。
抱かれたくない男は貞操を守りきり、βのカノジョが出来るのか!?
【完結】Ωになりたくない僕には運命なんて必要ない!
なつか
BL
≪登場人物≫
七海 千歳(ななみ ちとせ):高校三年生。二次性、未確定。新聞部所属。
佐久間 累(さくま るい):高校一年生。二次性、α。バスケットボール部所属。
田辺 湊(たなべ みなと):千歳の同級生。二次性、α。新聞部所属。
≪あらすじ≫
α、β、Ωという二次性が存在する世界。通常10歳で確定する二次性が、千歳は高校三年生になった今でも未確定のまま。
そのことを隠してβとして高校生活を送っていた千歳の前に現れたαの累。彼は千歳の運命の番だった。
運命の番である累がそばにいると、千歳はΩになってしまうかもしれない。だから、近づかないようにしようと思ってるのに、そんな千歳にかまうことなく累はぐいぐいと迫ってくる。しかも、βだと思っていた友人の湊も実はαだったことが判明。
二人にのαに挟まれ、果たして千歳はβとして生きていくことができるのか。
胎児の頃から執着されていたらしい
夜鳥すぱり
BL
好きでも嫌いでもない幼馴染みの鉄堅(てっけん)は、葉月(はづき)と結婚してツガイになりたいらしい。しかし、どうしても鉄堅のねばつくような想いを受け入れられない葉月は、しつこく求愛してくる鉄堅から逃げる事にした。オメガバース執着です。
◆完結済みです。いつもながら読んで下さった皆様に感謝です。
◆表紙絵を、花々緒さんが描いて下さいました(*^^*)。葉月を常に守りたい一途な鉄堅と、ひたすら逃げたい意地っぱりな葉月。
ずっと二人で。ー俺と大好きな幼なじみとの20年間の恋の物語ー
紗々
BL
俺は小さな頃からずっとずっと、そうちゃんのことが大好きだった───。
立本樹と滝宮颯太は、物心ついた頃からの幼なじみ。いつも一緒で、だけど離れて、傷付けあって、すれ違って、また近づいて。泣いたり笑ったりしながら、お互いをずっと想い合い大人になっていく二人の物語です。
※攻めと女性との絡みが何度かあります。
※展開かなり遅いと思います。
【完結】おじさんはΩである
藤吉とわ
BL
隠れ執着嫉妬激強年下α×αと誤診を受けていたおじさんΩ
門村雄大(かどむらゆうだい)34歳。とある朝母親から「小学生の頃バース検査をした病院があんたと連絡を取りたがっている」という電話を貰う。
何の用件か分からぬまま、折り返しの連絡をしてみると「至急お知らせしたいことがある。自宅に伺いたい」と言われ、招いたところ三人の男がやってきて部屋の中で突然土下座をされた。よくよく話を聞けば23年前のバース検査で告知ミスをしていたと告げられる。
今更Ωと言われても――と戸惑うものの、αだと思い込んでいた期間も自分のバース性にしっくり来ていなかった雄大は悩みながらも正しいバース性を受け入れていく。
治療のため、まずはΩ性の発情期であるヒートを起こさなければならず、謝罪に来た三人の男の内の一人・研修医でαの戸賀井 圭(とがいけい)と同居を開始することにーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる