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27.アンジュの脅し
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いきなり現れたアンジュに「出てって」と言われて僕は面食らってしまった。
「え、出てくって……ごめん、ここ僕の部屋だから、無理なんだけど……」
「じゃあ、あんたの部屋にAoが転がり込んでるって言いたいの?」
「いや、そうじゃなくて――」
(どういうこと? 僕たちの関係を蒼司くんから聞いて来たんじゃないのかな)
「とにかく、前にも言ったよね? あんたみたいなのがAoのそばをウロウロしてるのが耐えられないの」
「そうは言っても、僕たち義理の兄弟だからしょうがないんだ」
もしかして蒼司はこのことを周囲に知られたくないのかもしれない。だけど、はっきり言わないとアンジュは納得しなそうなので勝手に話してしまった。
「義理の……兄弟?」
どうやらアンジュは知らなかったようで、目を泳がせている。
「本当なの?」
「本当だよ。僕の父と、彼のお母さんが結婚したんだ。このマンションは僕の父の所有物」
アンジュは出鼻をくじかれた様子で、口をぱくぱくさせた。
「で、でも! お互い大人なんだから一緒に住むことないじゃない。あんたみたいないやらしいオメガが近くに居るなんて、彼にとっても迷惑だわ」
迷惑と言われても、僕にはどうしようもない。僕だって一人で暮らすつもりでここに来たのだ。父が勝手に僕のことを心配して蒼司を同居させると決めてしまった。しかし、こんなことを話しても怒り心頭な彼女はわかってくれないだろう。
さすがに、会ったばかりの彼女に僕の抱えているトラウマのことまで話す気はない。
「ごめんね、君にとって僕が目障りなのはわかるよ。だけど、蒼司くんとは家族だから仕方ないんだ」
「それで私が引き下がるとでも思ってるの?」
「え……」
アンジュは一口紅茶を飲んだ。
「Aoの様子が変なのはあんたのせいでしょ」
「様子が変……?」
「いつもカメラを担当してた菜々から聞いてるんだから。最近、あんたが菜々の役目を代わりにやってるって」
「それは――そうだけど……」
「あんたみたいなド素人がやるより菜々が撮った方がいいに決まってるのに。なんで義兄弟だからって出しゃばるのよ」
社会復帰のための訓練の一環だとは言えない。彼女にそんなことを打ち明けたくはなかった。
僕が黙っていると彼女は更に言う。
「あんたみたいのと一緒にいると、Aoの格が下がるのよ。それに、あんたがそのフェロモンで彼のこと誘惑してるのはわかってるんだからね」
アンジュは僕を睨んだまま、バッグの中からスマホを取り出した。
「ここまで言ってもAoのそばを離れないって言うなら、この写真をネットにばらまく」
「写真?」
アンジュが画面をこちらに向けた。そこには僕と蒼司がマンションから出てくるところが写っていた。しかし、これをばらまかれたとしても特に不都合はないのだが。
(これが何だって言うんだ?)
「別に構わないよ。蒼司くんと僕は兄弟なんだから」
「そう? でも、私ってバカだから間違えて『Aoの恋人はオメガの男だ』って書いて拡散しちゃうかも?」
「え……?」
「しかも、手が滑って『フェロモンで誘惑されてAoがオメガ男の家に連れ込まれてる』ってのも付け加えちゃうかも?」
彼女は数枚の写真をスライドして見せてきた。一体いつの間に撮られていたのか、マンション前だけじゃなくて一緒に近所のスーパーで買物している時の写真まである。自分で見る分には兄弟の日常風景に見える。しかし、そのようなキャプションが付けばたしかに恋人同士に見えなくもない。
前回のヒート期間のことが頭をよぎる。ただの兄弟としてやましいことが何も無いとも言えない僕は、少しだけ焦りを感じた。
「で、でもそんなの嘘だってすぐにわかるだろう。実際僕たちは兄弟なんだし」
「ゴシップ好きにとって真実かどうかなんて関係ないのよ。より面白そうなネタに食いつくだけ。芸能人が占い師に騙されてる~とかそういうネタって格好の餌食でしょ」
(一体何が目的なんだ? 蒼司くんのことが好きだからって、こんなことまでするものなの?)
「これだとAoは変な注目集めたとしてもすぐに同情されて復帰できるわ。でも、あんたは悪者としSNS上でファンからずっと叩かれ続ける」
「そ、そんな……!」
それでなくても人目につくようなことは嫌なのに。蒼司はトップモデルほどの知名度は無いが、一定のファンが付いている。その界隈で話題になるだけでも僕にとっては恐ろしいことだ。
(ようやく外に出ることに慣れてきたのに……)
そんな好奇の目で見られるとしたら、僕はもう二度と外界に出られなくなるだろう。
「まあどっちにしろAoも迷惑を被るわね。変なイメージ付いたら、広告系の仕事が減るかも」
僕はそれを聞いてぞっとした。
「酷いよ。アンジュちゃんは蒼司くんのことが好きなんじゃないの? どうしてそんなことするんだよ」
「Aoのことが好きだからに決まってる。ちょっと迷惑かかったとしても、あんたみたいなのがそばにいる方がずっと彼にとってマイナスなのよ!」
「だけど……そんな……」
(いちファンだった僕が、調子に乗って蒼司くんと親しくしていたのが悪いのか……?)
急にここを出て行けと言われても、実家に戻れば父に怪しまれる。蒼司との不仲を疑われるだろう。
蒼司にアンジュから言われたことを相談したら、彼女と話し合ってなんとかしてくれるだろうか?
「変なこと考えないでよ? このことをAoに話したらその時点でこの写真をおもしろ解説付きでばらまくから」
理屈や倫理観で説得しようとしても、嫉妬に狂った彼女に対しては無駄だった。結局、よくわからない彼女の脅しに僕は屈するしかなかった。
「出ていくにしても、時間を貰わないと無理だよ」
「ふーん、じゃあ一週間あげる」
「短かすぎる! せめて一ヶ月くらい貰わないと、こっちにも事情があるんだ」
「じゃあ二週間。それ以上経ってもここに居るのがわかったら写真を拡散するから」
彼女は「私が来たこと、Aoには内緒だからね」と言い捨てて去っていった。
父にも蒼司にも怪しまれることなくここを出るとしたら、僕が結婚相手を見つけて一人で出ていくしか手がない。しかし、そんなことすぐには無理だ。
「二週間……? 間に合わなくて一時的に実家に帰るにしても一体どうしたら……」
「え、出てくって……ごめん、ここ僕の部屋だから、無理なんだけど……」
「じゃあ、あんたの部屋にAoが転がり込んでるって言いたいの?」
「いや、そうじゃなくて――」
(どういうこと? 僕たちの関係を蒼司くんから聞いて来たんじゃないのかな)
「とにかく、前にも言ったよね? あんたみたいなのがAoのそばをウロウロしてるのが耐えられないの」
「そうは言っても、僕たち義理の兄弟だからしょうがないんだ」
もしかして蒼司はこのことを周囲に知られたくないのかもしれない。だけど、はっきり言わないとアンジュは納得しなそうなので勝手に話してしまった。
「義理の……兄弟?」
どうやらアンジュは知らなかったようで、目を泳がせている。
「本当なの?」
「本当だよ。僕の父と、彼のお母さんが結婚したんだ。このマンションは僕の父の所有物」
アンジュは出鼻をくじかれた様子で、口をぱくぱくさせた。
「で、でも! お互い大人なんだから一緒に住むことないじゃない。あんたみたいないやらしいオメガが近くに居るなんて、彼にとっても迷惑だわ」
迷惑と言われても、僕にはどうしようもない。僕だって一人で暮らすつもりでここに来たのだ。父が勝手に僕のことを心配して蒼司を同居させると決めてしまった。しかし、こんなことを話しても怒り心頭な彼女はわかってくれないだろう。
さすがに、会ったばかりの彼女に僕の抱えているトラウマのことまで話す気はない。
「ごめんね、君にとって僕が目障りなのはわかるよ。だけど、蒼司くんとは家族だから仕方ないんだ」
「それで私が引き下がるとでも思ってるの?」
「え……」
アンジュは一口紅茶を飲んだ。
「Aoの様子が変なのはあんたのせいでしょ」
「様子が変……?」
「いつもカメラを担当してた菜々から聞いてるんだから。最近、あんたが菜々の役目を代わりにやってるって」
「それは――そうだけど……」
「あんたみたいなド素人がやるより菜々が撮った方がいいに決まってるのに。なんで義兄弟だからって出しゃばるのよ」
社会復帰のための訓練の一環だとは言えない。彼女にそんなことを打ち明けたくはなかった。
僕が黙っていると彼女は更に言う。
「あんたみたいのと一緒にいると、Aoの格が下がるのよ。それに、あんたがそのフェロモンで彼のこと誘惑してるのはわかってるんだからね」
アンジュは僕を睨んだまま、バッグの中からスマホを取り出した。
「ここまで言ってもAoのそばを離れないって言うなら、この写真をネットにばらまく」
「写真?」
アンジュが画面をこちらに向けた。そこには僕と蒼司がマンションから出てくるところが写っていた。しかし、これをばらまかれたとしても特に不都合はないのだが。
(これが何だって言うんだ?)
「別に構わないよ。蒼司くんと僕は兄弟なんだから」
「そう? でも、私ってバカだから間違えて『Aoの恋人はオメガの男だ』って書いて拡散しちゃうかも?」
「え……?」
「しかも、手が滑って『フェロモンで誘惑されてAoがオメガ男の家に連れ込まれてる』ってのも付け加えちゃうかも?」
彼女は数枚の写真をスライドして見せてきた。一体いつの間に撮られていたのか、マンション前だけじゃなくて一緒に近所のスーパーで買物している時の写真まである。自分で見る分には兄弟の日常風景に見える。しかし、そのようなキャプションが付けばたしかに恋人同士に見えなくもない。
前回のヒート期間のことが頭をよぎる。ただの兄弟としてやましいことが何も無いとも言えない僕は、少しだけ焦りを感じた。
「で、でもそんなの嘘だってすぐにわかるだろう。実際僕たちは兄弟なんだし」
「ゴシップ好きにとって真実かどうかなんて関係ないのよ。より面白そうなネタに食いつくだけ。芸能人が占い師に騙されてる~とかそういうネタって格好の餌食でしょ」
(一体何が目的なんだ? 蒼司くんのことが好きだからって、こんなことまでするものなの?)
「これだとAoは変な注目集めたとしてもすぐに同情されて復帰できるわ。でも、あんたは悪者としSNS上でファンからずっと叩かれ続ける」
「そ、そんな……!」
それでなくても人目につくようなことは嫌なのに。蒼司はトップモデルほどの知名度は無いが、一定のファンが付いている。その界隈で話題になるだけでも僕にとっては恐ろしいことだ。
(ようやく外に出ることに慣れてきたのに……)
そんな好奇の目で見られるとしたら、僕はもう二度と外界に出られなくなるだろう。
「まあどっちにしろAoも迷惑を被るわね。変なイメージ付いたら、広告系の仕事が減るかも」
僕はそれを聞いてぞっとした。
「酷いよ。アンジュちゃんは蒼司くんのことが好きなんじゃないの? どうしてそんなことするんだよ」
「Aoのことが好きだからに決まってる。ちょっと迷惑かかったとしても、あんたみたいなのがそばにいる方がずっと彼にとってマイナスなのよ!」
「だけど……そんな……」
(いちファンだった僕が、調子に乗って蒼司くんと親しくしていたのが悪いのか……?)
急にここを出て行けと言われても、実家に戻れば父に怪しまれる。蒼司との不仲を疑われるだろう。
蒼司にアンジュから言われたことを相談したら、彼女と話し合ってなんとかしてくれるだろうか?
「変なこと考えないでよ? このことをAoに話したらその時点でこの写真をおもしろ解説付きでばらまくから」
理屈や倫理観で説得しようとしても、嫉妬に狂った彼女に対しては無駄だった。結局、よくわからない彼女の脅しに僕は屈するしかなかった。
「出ていくにしても、時間を貰わないと無理だよ」
「ふーん、じゃあ一週間あげる」
「短かすぎる! せめて一ヶ月くらい貰わないと、こっちにも事情があるんだ」
「じゃあ二週間。それ以上経ってもここに居るのがわかったら写真を拡散するから」
彼女は「私が来たこと、Aoには内緒だからね」と言い捨てて去っていった。
父にも蒼司にも怪しまれることなくここを出るとしたら、僕が結婚相手を見つけて一人で出ていくしか手がない。しかし、そんなことすぐには無理だ。
「二週間……? 間に合わなくて一時的に実家に帰るにしても一体どうしたら……」
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