31 / 48
31.蓉平の様子がおかしい(蒼司視点)
しおりを挟む
ヒート期間を一緒に過ごしてから、蓉平は上機嫌でより一層いい香りを漂わせるようになった。それに伴って、今まで以上に素直に甘えてくるようになってきた。俺としても、あいつに甘えられて悪い気はしない。
これまで、俺に近寄ろうとして媚を売ってくるオメガは大嫌いだった。だけど、蓉平のはそれとはまた違うのだ。
警戒心の強かった動物が、急に心を開いて懐くようになってきた――というような趣があった。
元々はどちらかというと向こうの方から距離を置こうとしていた。というか一緒に住んでいるのに、ずっとあいつは俺から逃げようとしてるみたいだった。今思えばそれが俺は不満だったのだろう。
母に見せられた結婚相談所のデータはたしかに間違い無かった。あいつとは相性が良く、彼の匂いは俺にとって栄養剤のようなものだった。おそらく、あいつとセックスしたらもっと効果があると思う。しかし、蓉平はそれをヒート期間中でさえ許さなかった。
(触られるのは喜ぶくせに、結婚前提に住んでるこの俺をヒート中拒否するとはな)
別に俺はあいつのことをどうしても抱きたいというわけじゃない。実際に結婚する気が無いのに抱くようなことをしなかったのは結果的に良かったと思っている。断られてがっかりしたとか、そういうわけでは断じて無い。
こうしてヒート後しばらくの間は、俺と蓉平は同居人としてうまくやっていた。俺は疲れたらあいつの匂いを摂取する。
向こうからこちらに優しさを求めてくるわけでもない。むしろ冷たくされる方が良いようだ。変な奴で、こっちがムスッとしてると向こうから寄ってきて勝手に俺の膝に頭を乗せてテレビを見始めたりする。そして、彼の頭を撫でたり首をくすぐってやると喜んで良い匂いを振りまく。
完全にwin-winの関係になりつつあった。
そう、あの日までは。
◇◇◇
「週末、一人で出掛ける?」
「うん」
「どこ行くんだ?」
「ちょっと用事……」
それまでは毎週、週末になると俺の撮影にあいつがカメラマンとして同行していた。それが、急に一人で出掛けるから行けないと言い出した。
しかも、俺が車で送ると言ったのにあいつはそれを断わって電車で行くという。
(何かおかしい……)
嫌な予感がした。しかし、そもそも俺はあいつが独り立ちするのをサポートしているのだ。
(一人で出掛けると言うなら、それでいいじゃないか。それが元々の目的なんだから)
そう、蓉平が引きこもりをやめて俺の助けが要らなくなれば俺は自由になれる。なのに、なぜあいつが俺の手助けを拒否するだけでこんなにムカつくんだ。
俺は理由のわからない苛つきを紛らわせようとしてその週末は久々に菜々に撮影を頼んだ。
◇◇◇
菜々に写真を撮ってもらった帰り道、彼女が聞き捨てならないことを言い出した。
「アンジュが俺のことで探りを入れてきたって?」
「うん。あの子、なにかまた変なこと企んでるんじゃない」
助手席に座る菜々の顔をちらっと見る。いつものように無表情で何を考えているのかわからない。鼻筋の通った美人だが、化粧っけはなく男にも女にも見える。グレーアッシュの短い髪に、身長も184cmの俺と並んで目線が5センチくらいしか違わない。大体洋服はメンズのものを着ているので、一緒に歩いていると男だと間違われる事が多い。
「どういうことだよ」
「知らない。こっちが聞きたい」
「はあ?」
「蒼司が私じゃなくてオメガと撮影してるって、アンジュがキレてた」
「ああ……そんなことかよ」
「私が何か知ってるんじゃないかって、しつこく聞かれた」
もう一度横目で彼女の顔を窺う。基本的に無表情だが、アンジュの話をする時菜々は少し表情が和らぐ。
(あの迷惑女のこと面白がってんのか?)
以前アンジュが俺のことを酔ったふりで家に連れ込んだ話も知られている。その話をした時も菜々は口元に笑みをたたえていたのだ。
「あいつ、俺の身内に絡んできたから腹立ってんだよ俺は」
「身内?」
「ああ」
「珍しいね、蒼司が自分以外の人間のことで怒るなんて」
「はぁ?」
菜々が目を細めて言う。
「ふーん。蒼司が大事にしてる身内にちょっかい出そうとしてるんだ、アンジュ。本当にバカな子」
「お前なぁ。笑い事じゃないんだよ。あいつ何考えてるんだ?」
「さあ。頭悪すぎて何考えてるかわからないんだよね」
「まあな」
「そこが面白いっていうか」
「お前、ほんと悪趣味だよな」
菜々と組むようになって三年経つが、彼女は俺には到底理解できないようなものを気に入る癖がある。
「なあ、あいつに変なこと考えるのやめろって言ってくれよ」
「あの子止めるとか無理でしょ。まあ、何しようとしてるのかわかったら教えるけど」
(あいつ、蓉平のこと誰だとかしつこく聞いてきてたけど……まさか本当に手出ししたりしないよな)
その蓉平が俺に隠れてコソコソ一人で出掛けるようになったのも気に食わないというのに、アンジュのことでまで悩まされたくない。
(どいつもこいつも、勝手なことばかりしやがって……)
これまで、俺に近寄ろうとして媚を売ってくるオメガは大嫌いだった。だけど、蓉平のはそれとはまた違うのだ。
警戒心の強かった動物が、急に心を開いて懐くようになってきた――というような趣があった。
元々はどちらかというと向こうの方から距離を置こうとしていた。というか一緒に住んでいるのに、ずっとあいつは俺から逃げようとしてるみたいだった。今思えばそれが俺は不満だったのだろう。
母に見せられた結婚相談所のデータはたしかに間違い無かった。あいつとは相性が良く、彼の匂いは俺にとって栄養剤のようなものだった。おそらく、あいつとセックスしたらもっと効果があると思う。しかし、蓉平はそれをヒート期間中でさえ許さなかった。
(触られるのは喜ぶくせに、結婚前提に住んでるこの俺をヒート中拒否するとはな)
別に俺はあいつのことをどうしても抱きたいというわけじゃない。実際に結婚する気が無いのに抱くようなことをしなかったのは結果的に良かったと思っている。断られてがっかりしたとか、そういうわけでは断じて無い。
こうしてヒート後しばらくの間は、俺と蓉平は同居人としてうまくやっていた。俺は疲れたらあいつの匂いを摂取する。
向こうからこちらに優しさを求めてくるわけでもない。むしろ冷たくされる方が良いようだ。変な奴で、こっちがムスッとしてると向こうから寄ってきて勝手に俺の膝に頭を乗せてテレビを見始めたりする。そして、彼の頭を撫でたり首をくすぐってやると喜んで良い匂いを振りまく。
完全にwin-winの関係になりつつあった。
そう、あの日までは。
◇◇◇
「週末、一人で出掛ける?」
「うん」
「どこ行くんだ?」
「ちょっと用事……」
それまでは毎週、週末になると俺の撮影にあいつがカメラマンとして同行していた。それが、急に一人で出掛けるから行けないと言い出した。
しかも、俺が車で送ると言ったのにあいつはそれを断わって電車で行くという。
(何かおかしい……)
嫌な予感がした。しかし、そもそも俺はあいつが独り立ちするのをサポートしているのだ。
(一人で出掛けると言うなら、それでいいじゃないか。それが元々の目的なんだから)
そう、蓉平が引きこもりをやめて俺の助けが要らなくなれば俺は自由になれる。なのに、なぜあいつが俺の手助けを拒否するだけでこんなにムカつくんだ。
俺は理由のわからない苛つきを紛らわせようとしてその週末は久々に菜々に撮影を頼んだ。
◇◇◇
菜々に写真を撮ってもらった帰り道、彼女が聞き捨てならないことを言い出した。
「アンジュが俺のことで探りを入れてきたって?」
「うん。あの子、なにかまた変なこと企んでるんじゃない」
助手席に座る菜々の顔をちらっと見る。いつものように無表情で何を考えているのかわからない。鼻筋の通った美人だが、化粧っけはなく男にも女にも見える。グレーアッシュの短い髪に、身長も184cmの俺と並んで目線が5センチくらいしか違わない。大体洋服はメンズのものを着ているので、一緒に歩いていると男だと間違われる事が多い。
「どういうことだよ」
「知らない。こっちが聞きたい」
「はあ?」
「蒼司が私じゃなくてオメガと撮影してるって、アンジュがキレてた」
「ああ……そんなことかよ」
「私が何か知ってるんじゃないかって、しつこく聞かれた」
もう一度横目で彼女の顔を窺う。基本的に無表情だが、アンジュの話をする時菜々は少し表情が和らぐ。
(あの迷惑女のこと面白がってんのか?)
以前アンジュが俺のことを酔ったふりで家に連れ込んだ話も知られている。その話をした時も菜々は口元に笑みをたたえていたのだ。
「あいつ、俺の身内に絡んできたから腹立ってんだよ俺は」
「身内?」
「ああ」
「珍しいね、蒼司が自分以外の人間のことで怒るなんて」
「はぁ?」
菜々が目を細めて言う。
「ふーん。蒼司が大事にしてる身内にちょっかい出そうとしてるんだ、アンジュ。本当にバカな子」
「お前なぁ。笑い事じゃないんだよ。あいつ何考えてるんだ?」
「さあ。頭悪すぎて何考えてるかわからないんだよね」
「まあな」
「そこが面白いっていうか」
「お前、ほんと悪趣味だよな」
菜々と組むようになって三年経つが、彼女は俺には到底理解できないようなものを気に入る癖がある。
「なあ、あいつに変なこと考えるのやめろって言ってくれよ」
「あの子止めるとか無理でしょ。まあ、何しようとしてるのかわかったら教えるけど」
(あいつ、蓉平のこと誰だとかしつこく聞いてきてたけど……まさか本当に手出ししたりしないよな)
その蓉平が俺に隠れてコソコソ一人で出掛けるようになったのも気に食わないというのに、アンジュのことでまで悩まされたくない。
(どいつもこいつも、勝手なことばかりしやがって……)
30
あなたにおすすめの小説
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
寡黙なオオカミαにストーカー気質のネコΩが嫁いだ話
かとらり。
BL
誰もがケモミミとバース性を持つ世界。
澪は猫種のΩだった。
引っ込み思案の澪は半ばストーカーのように密かに追いかけている憧れの人がいる。
狼種のαの慶斗だ。
そんな慶斗にいきなり嫁ぐことが決定した澪。話しかけるのも無理なのに結婚なんてできるの?
しかも慶斗は事情があるらしくー…
【完結済】キズモノオメガの幸せの見つけ方~番のいる俺がアイツを愛することなんて許されない~
つきよの
BL
●ハッピーエンド●
「勇利先輩……?」
俺、勇利渉は、真冬に照明と暖房も消されたオフィスで、コートを着たままノートパソコンに向かっていた。
だが、突然背後から名前を呼ばれて後ろを振り向くと、声の主である人物の存在に思わず驚き、心臓が跳ね上がった。
(どうして……)
声が出ないほど驚いたのは、今日はまだ、そこにいるはずのない人物が立っていたからだった。
「東谷……」
俺の目に映し出されたのは、俺が初めて新人研修を担当した後輩、東谷晧だった。
背が高く、ネイビーより少し明るい色の細身スーツ。
落ち着いたブラウンカラーの髪色は、目鼻立ちの整った顔を引き立たせる。
誰もが目を惹くルックスは、最後に会った三年前となんら変わっていなかった。
そう、最後に過ごしたあの夜から、空白の三年間なんてなかったかのように。
番になればラット化を抑えられる
そんな一方的な理由で番にさせられたオメガ
しかし、アルファだと偽って生きていくには
関係を続けることが必要で……
そんな中、心から愛する人と出会うも
自分には噛み痕が……
愛したいのに愛することは許されない
社会人オメガバース
あの日から三年ぶりに会うアイツは…
敬語後輩α × 首元に噛み痕が残るΩ
変異型Ωは鉄壁の貞操
田中 乃那加
BL
変異型――それは初めての性行為相手によってバースが決まってしまう突然変異種のこと。
男子大学生の金城 奏汰(かなしろ かなた)は変異型。
もしαに抱かれたら【Ω】に、βやΩを抱けば【β】に定着する。
奏汰はαが大嫌い、そして絶対にΩにはなりたくない。夢はもちろん、βの可愛いカノジョをつくり幸せな家庭を築くこと。
だから護身術を身につけ、さらに防犯グッズを持ち歩いていた。
ある日の歓楽街にて、β女性にからんでいたタチの悪い酔っ払いを次から次へとやっつける。
それを見た高校生、名張 龍也(なばり たつや)に一目惚れされることに。
当然突っぱねる奏汰と引かない龍也。
抱かれたくない男は貞操を守りきり、βのカノジョが出来るのか!?
【完結】Ωになりたくない僕には運命なんて必要ない!
なつか
BL
≪登場人物≫
七海 千歳(ななみ ちとせ):高校三年生。二次性、未確定。新聞部所属。
佐久間 累(さくま るい):高校一年生。二次性、α。バスケットボール部所属。
田辺 湊(たなべ みなと):千歳の同級生。二次性、α。新聞部所属。
≪あらすじ≫
α、β、Ωという二次性が存在する世界。通常10歳で確定する二次性が、千歳は高校三年生になった今でも未確定のまま。
そのことを隠してβとして高校生活を送っていた千歳の前に現れたαの累。彼は千歳の運命の番だった。
運命の番である累がそばにいると、千歳はΩになってしまうかもしれない。だから、近づかないようにしようと思ってるのに、そんな千歳にかまうことなく累はぐいぐいと迫ってくる。しかも、βだと思っていた友人の湊も実はαだったことが判明。
二人にのαに挟まれ、果たして千歳はβとして生きていくことができるのか。
胎児の頃から執着されていたらしい
夜鳥すぱり
BL
好きでも嫌いでもない幼馴染みの鉄堅(てっけん)は、葉月(はづき)と結婚してツガイになりたいらしい。しかし、どうしても鉄堅のねばつくような想いを受け入れられない葉月は、しつこく求愛してくる鉄堅から逃げる事にした。オメガバース執着です。
◆完結済みです。いつもながら読んで下さった皆様に感謝です。
◆表紙絵を、花々緒さんが描いて下さいました(*^^*)。葉月を常に守りたい一途な鉄堅と、ひたすら逃げたい意地っぱりな葉月。
ずっと二人で。ー俺と大好きな幼なじみとの20年間の恋の物語ー
紗々
BL
俺は小さな頃からずっとずっと、そうちゃんのことが大好きだった───。
立本樹と滝宮颯太は、物心ついた頃からの幼なじみ。いつも一緒で、だけど離れて、傷付けあって、すれ違って、また近づいて。泣いたり笑ったりしながら、お互いをずっと想い合い大人になっていく二人の物語です。
※攻めと女性との絡みが何度かあります。
※展開かなり遅いと思います。
【完結】おじさんはΩである
藤吉とわ
BL
隠れ執着嫉妬激強年下α×αと誤診を受けていたおじさんΩ
門村雄大(かどむらゆうだい)34歳。とある朝母親から「小学生の頃バース検査をした病院があんたと連絡を取りたがっている」という電話を貰う。
何の用件か分からぬまま、折り返しの連絡をしてみると「至急お知らせしたいことがある。自宅に伺いたい」と言われ、招いたところ三人の男がやってきて部屋の中で突然土下座をされた。よくよく話を聞けば23年前のバース検査で告知ミスをしていたと告げられる。
今更Ωと言われても――と戸惑うものの、αだと思い込んでいた期間も自分のバース性にしっくり来ていなかった雄大は悩みながらも正しいバース性を受け入れていく。
治療のため、まずはΩ性の発情期であるヒートを起こさなければならず、謝罪に来た三人の男の内の一人・研修医でαの戸賀井 圭(とがいけい)と同居を開始することにーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる