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32.進展と迷い(1)
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翌週の木曜日が祝日だったので、桂木に本を貸してもらうことになった。連続で休日に予定ができたので、少し蒼司には言い出しにくかった。
案の定、僕の申し出に彼は不審そうな顔をした。だけどペーパークラフトの本や材料を買いに行くと答えたら納得してくれた。嘘をついていることは多少後ろめたかったが、彼のためでもあるので仕方がない。
(本を借りるんだから、半分は嘘じゃないし……)
まさかこの短期間に本当に結婚相手の候補が見つかるとは思っていなかった。このままいけばフリだけじゃなくて本当に桂木と付き合って、最終的に結婚することになるかもしれない――。
(これで良いんだよね……)
◇◇◇
木曜日、約束の時刻を過ぎても待ち合わせ場所に桂木は現れなかった。
(時間、間違ってたかな?)
やりとりをしたメッセージの履歴を見ようとしたところ、スマホに着信が入った。桂木からだ。
「もしもし?」
『蓉平くん申し訳ない! 寝坊してしまって、今家を出たから到着まであと20分くらいかかります!』
ものすごく焦った声で、僕は思わず吹き出してしまった。
「そんなに慌てなくて大丈夫ですよ。近くの書店にでもいますから、ゆっくり来てください」
それから本当に20分ぴったりで、電話が掛かってきた。
『すみません、今駅に着きました! どこにいますか』
書店の名前を伝えてその店先で待っていると、桂木が小走りにやってきた。
今日は洗いざらしの白いシャツにベージュのアンクルパンツというラフな格好だった。先日会った時はスーツでピシッとしていたが、寝癖のついた髪型を見るに相当慌てて出てきたのだろう。顔の雰囲気も何か違うな、と思ったら眼鏡を掛けていた。
「蓉平くん! ごめん、こんなに遅刻してしまって……」
桂木は目の前で僕に深々と頭を下げた。
「本を見てたらすぐでしたよ。全然気にしないでください」
そう言っても、まだ会って間もない二度目のデートに遅れたことで彼は相当気落ちしているみたいだった。僕としては、前回のきちんとした印象の彼よりもちょっと抜けているくらいの方が気楽で良かったのだけど。
何か食べたら落ち着くかなと思って、目に付いたトラットリアに入った。
「言い訳するつもりはないんだけど、昨夜遅くまでレポートの採点をやってて……今日君と会うのに何着ていこうと悩んでいたらそのままアラームもかけずに寝てしまったんだ」
僕も緊張はしていたけど、彼の方もそわそわしていたんだと思うとちょっとほっとする。
「結局こんなみっともない格好ですまない。なるべく君が恥ずかしくないようにしようって思ってたのに……」
彼はそう言って頭をかきながら目を伏せた。これまで僕はAoに憧れて洋服を揃えていたけど、今思えばすごく背伸びして無理していた。僕には、今日の桂木くらい素朴で気取らない服装の方が身の丈に合っている気がした。
「本当に、見た目なんて気にしてないから大丈夫ですよ。それに僕だってもう33歳で全然若くないですから」
「いやいや! 写真で見るより実際の君がすごく若くて綺麗だったからこんなおじさんじゃ申し訳なくて」
「へ?」
(きれい? そんなこと言われたの初めてだよ)
「桂木さん、それは言いすぎです」
「本心だよ。あ、でもごめん、失礼なのかな? こうやって人を口説くのも久々すぎて……今の若い子の感覚とズレていたらごめんね」
「あ……いえ……。むしろ僕がこういうの、慣れていないだけなんです」
僕が話す相手といえば父や従兄弟、そして最近だと蒼司くらいだ。なので、男性に口説かれた経験など無くてちょっと恥ずかしかった。
僕が居心地悪そうにしているのを察したのか、その後彼は当たり障りのない時事ネタに話題を移してくれた。そしてしばらく話していて、彼がまた頭を抱える事態となった。
「ごめん! 本を貸すために会いに来て貰ったのに、肝心の本を忘れるなんて」
寝坊して慌てて家を飛び出した彼は、焦るあまりペーパークラフトの本を持ってくるのを忘れてしまったそうだ。
それで、結局この後彼の家に一緒に取りに行くことになった。
案の定、僕の申し出に彼は不審そうな顔をした。だけどペーパークラフトの本や材料を買いに行くと答えたら納得してくれた。嘘をついていることは多少後ろめたかったが、彼のためでもあるので仕方がない。
(本を借りるんだから、半分は嘘じゃないし……)
まさかこの短期間に本当に結婚相手の候補が見つかるとは思っていなかった。このままいけばフリだけじゃなくて本当に桂木と付き合って、最終的に結婚することになるかもしれない――。
(これで良いんだよね……)
◇◇◇
木曜日、約束の時刻を過ぎても待ち合わせ場所に桂木は現れなかった。
(時間、間違ってたかな?)
やりとりをしたメッセージの履歴を見ようとしたところ、スマホに着信が入った。桂木からだ。
「もしもし?」
『蓉平くん申し訳ない! 寝坊してしまって、今家を出たから到着まであと20分くらいかかります!』
ものすごく焦った声で、僕は思わず吹き出してしまった。
「そんなに慌てなくて大丈夫ですよ。近くの書店にでもいますから、ゆっくり来てください」
それから本当に20分ぴったりで、電話が掛かってきた。
『すみません、今駅に着きました! どこにいますか』
書店の名前を伝えてその店先で待っていると、桂木が小走りにやってきた。
今日は洗いざらしの白いシャツにベージュのアンクルパンツというラフな格好だった。先日会った時はスーツでピシッとしていたが、寝癖のついた髪型を見るに相当慌てて出てきたのだろう。顔の雰囲気も何か違うな、と思ったら眼鏡を掛けていた。
「蓉平くん! ごめん、こんなに遅刻してしまって……」
桂木は目の前で僕に深々と頭を下げた。
「本を見てたらすぐでしたよ。全然気にしないでください」
そう言っても、まだ会って間もない二度目のデートに遅れたことで彼は相当気落ちしているみたいだった。僕としては、前回のきちんとした印象の彼よりもちょっと抜けているくらいの方が気楽で良かったのだけど。
何か食べたら落ち着くかなと思って、目に付いたトラットリアに入った。
「言い訳するつもりはないんだけど、昨夜遅くまでレポートの採点をやってて……今日君と会うのに何着ていこうと悩んでいたらそのままアラームもかけずに寝てしまったんだ」
僕も緊張はしていたけど、彼の方もそわそわしていたんだと思うとちょっとほっとする。
「結局こんなみっともない格好ですまない。なるべく君が恥ずかしくないようにしようって思ってたのに……」
彼はそう言って頭をかきながら目を伏せた。これまで僕はAoに憧れて洋服を揃えていたけど、今思えばすごく背伸びして無理していた。僕には、今日の桂木くらい素朴で気取らない服装の方が身の丈に合っている気がした。
「本当に、見た目なんて気にしてないから大丈夫ですよ。それに僕だってもう33歳で全然若くないですから」
「いやいや! 写真で見るより実際の君がすごく若くて綺麗だったからこんなおじさんじゃ申し訳なくて」
「へ?」
(きれい? そんなこと言われたの初めてだよ)
「桂木さん、それは言いすぎです」
「本心だよ。あ、でもごめん、失礼なのかな? こうやって人を口説くのも久々すぎて……今の若い子の感覚とズレていたらごめんね」
「あ……いえ……。むしろ僕がこういうの、慣れていないだけなんです」
僕が話す相手といえば父や従兄弟、そして最近だと蒼司くらいだ。なので、男性に口説かれた経験など無くてちょっと恥ずかしかった。
僕が居心地悪そうにしているのを察したのか、その後彼は当たり障りのない時事ネタに話題を移してくれた。そしてしばらく話していて、彼がまた頭を抱える事態となった。
「ごめん! 本を貸すために会いに来て貰ったのに、肝心の本を忘れるなんて」
寝坊して慌てて家を飛び出した彼は、焦るあまりペーパークラフトの本を持ってくるのを忘れてしまったそうだ。
それで、結局この後彼の家に一緒に取りに行くことになった。
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