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33.進展と迷い(2)
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桂木の自宅は大学から徒歩15分くらいの位置にあり、先日行ったカフェからも近かった。
低層マンションの二階にある南向きの部屋で、結構広い。というか、物があまりないから広く感じるのだ。無駄なものは一切無く、シンプルで必要最低限の家具しか置いていない。しかし、そのどれもが洗練されていた。
殺風景な部屋の一角に、建築模型がいくつか置かれた大きなテーブルがある。僕はついそれに目を奪われた。自分でも紙で建物を作るのが趣味なので、模型のレベルの高さに感嘆する。
「すごいですね、これ。桂木さんが作ったんですか?」
「私が昔設計した建物なんだ。模型は大体アシスタントが作ったかな」
「桂木さん、設計もされるんですか?」
「ああ……昔はね。もう20年以上前の話だ」
彼は少し寂しそうに笑った。
建築史が専門と聞いていたので、設計はやらないのかと思っていた。
「本を持ってくるから、そこに掛けて待っていて」
僕がそのまま模型を眺めていると、彼が本を持って戻ってきた。アイスコーヒーを入れてくれたので席に着く。
その後は本の内容の話をいろいろと聞かせてくれた。彼の自宅にはA3対応のレーザープリンタが置かれていて、僕の自宅では印刷できないサイズの型紙をいくつかプリントアウトしてくれた。
カットする時のコツなども教えてもらっているうちに、夢中になって時間が経つのも忘れていた。さっきまでは晴れていたのに、ポツポツと雨音が聞こえてきてハッとする。
「あ、もうこんな時間! すみません、長居してしまって」
「こっちこそ引き止めて悪かったね」
彼は印刷物を筒型の図面ケースに入れ、傘と一緒に持たせてくれた。
別れ際に彼が言う。
「また遊びに来てくれる?」
「はい、是非」
「蓉平くん、私はこういうことはちゃんと確認した方がいいと思ってるんだけど……」
「え、なんですか?」
「今後、お付き合いするかもって意味で――少しは期待しても構わない?」
「あ……」
僕が一瞬口ごもったので彼は慌てて付け加えた。
「ごめんね、すぐに返事を貰おうと焦ってるわけじゃないんだ。ただ、趣味の合う友人として対応すべきか、それとも恋人として口説いてもいいのか聞いておきたくて」
「そ……それは……」
「そういう目で見られるのが嫌だったら、遠慮なく言って下さい」
びっくりしたけれど、嫌だとは思わなかった。
「あの、相談所を通して人とお会いするのも初めてで、こういうの慣れてないんですけど……。僕も、嫌じゃないのでそういうつもりで……お会いしたいと思っています」
僕の言葉を聞いて桂木の表情がパッと明るくなった。
「ありがとう。もちろん、本当に付き合うかどうかは何度か会ってお互いのことを知ってから決めてくれていいから。でも、私は君のことをすごく魅力的だと思ってる。それだけ伝えておきたかったんだ」
「はい……」
「それじゃあ、気をつけて帰ってね」
帰りの電車で彼の柔らかい笑顔を思い出し、僕は自己嫌悪に陥った。桂木のことは嫌じゃないし、むしろ一緒に居て落ち着く。アルファなのに好感が持てる貴重な相手だ。
(だけど、恋愛感情とは違う気がする。それが今の時点でわかっていながら、結婚目的で今後も会おうとするなんて間違っているのかな……)
◇◇◇
そんなことを考えながら帰宅すると、蒼司が先に帰っていて珍しく僕を出迎えてくれた。
「あ、ただいま」
「随分遅かったな。大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫だよ。ごめんね連絡もせず遅くなって。心配掛けちゃった?」
どうやら僕の帰りが遅いのを気にしてくれていたようだ。しかしそれを指摘されるのは嫌だったようで、眉間にシワを寄せながら近づいてくる。どうしたのかと思ったら、こめかみの辺りでクンクン匂いを嗅がれた。
「臭い」
「あ、ごめんにんにく臭かった? お昼にパスタ食べたから……」
「ちがう」
「え?」
すごく怖い顔で睨まれ、手にしていた荷物を奪われた。
「蒼司くん、どうしたの……?」
「荷物は部屋に持ってく。だからさっさと風呂に入れ。ひどい匂いだ」
「そう……? じゃあ、お願い」
「晩飯は?」
「まだだよ」
「風呂入ってる間に用意しておいてやる」
長時間一人で外に出掛けていたから疲れてると思って気を遣ってくれているのだろうか。
桂木の自然な優しさとは違うが、蒼司もなんだかんだ優しいところがあるのだ。
低層マンションの二階にある南向きの部屋で、結構広い。というか、物があまりないから広く感じるのだ。無駄なものは一切無く、シンプルで必要最低限の家具しか置いていない。しかし、そのどれもが洗練されていた。
殺風景な部屋の一角に、建築模型がいくつか置かれた大きなテーブルがある。僕はついそれに目を奪われた。自分でも紙で建物を作るのが趣味なので、模型のレベルの高さに感嘆する。
「すごいですね、これ。桂木さんが作ったんですか?」
「私が昔設計した建物なんだ。模型は大体アシスタントが作ったかな」
「桂木さん、設計もされるんですか?」
「ああ……昔はね。もう20年以上前の話だ」
彼は少し寂しそうに笑った。
建築史が専門と聞いていたので、設計はやらないのかと思っていた。
「本を持ってくるから、そこに掛けて待っていて」
僕がそのまま模型を眺めていると、彼が本を持って戻ってきた。アイスコーヒーを入れてくれたので席に着く。
その後は本の内容の話をいろいろと聞かせてくれた。彼の自宅にはA3対応のレーザープリンタが置かれていて、僕の自宅では印刷できないサイズの型紙をいくつかプリントアウトしてくれた。
カットする時のコツなども教えてもらっているうちに、夢中になって時間が経つのも忘れていた。さっきまでは晴れていたのに、ポツポツと雨音が聞こえてきてハッとする。
「あ、もうこんな時間! すみません、長居してしまって」
「こっちこそ引き止めて悪かったね」
彼は印刷物を筒型の図面ケースに入れ、傘と一緒に持たせてくれた。
別れ際に彼が言う。
「また遊びに来てくれる?」
「はい、是非」
「蓉平くん、私はこういうことはちゃんと確認した方がいいと思ってるんだけど……」
「え、なんですか?」
「今後、お付き合いするかもって意味で――少しは期待しても構わない?」
「あ……」
僕が一瞬口ごもったので彼は慌てて付け加えた。
「ごめんね、すぐに返事を貰おうと焦ってるわけじゃないんだ。ただ、趣味の合う友人として対応すべきか、それとも恋人として口説いてもいいのか聞いておきたくて」
「そ……それは……」
「そういう目で見られるのが嫌だったら、遠慮なく言って下さい」
びっくりしたけれど、嫌だとは思わなかった。
「あの、相談所を通して人とお会いするのも初めてで、こういうの慣れてないんですけど……。僕も、嫌じゃないのでそういうつもりで……お会いしたいと思っています」
僕の言葉を聞いて桂木の表情がパッと明るくなった。
「ありがとう。もちろん、本当に付き合うかどうかは何度か会ってお互いのことを知ってから決めてくれていいから。でも、私は君のことをすごく魅力的だと思ってる。それだけ伝えておきたかったんだ」
「はい……」
「それじゃあ、気をつけて帰ってね」
帰りの電車で彼の柔らかい笑顔を思い出し、僕は自己嫌悪に陥った。桂木のことは嫌じゃないし、むしろ一緒に居て落ち着く。アルファなのに好感が持てる貴重な相手だ。
(だけど、恋愛感情とは違う気がする。それが今の時点でわかっていながら、結婚目的で今後も会おうとするなんて間違っているのかな……)
◇◇◇
そんなことを考えながら帰宅すると、蒼司が先に帰っていて珍しく僕を出迎えてくれた。
「あ、ただいま」
「随分遅かったな。大丈夫なのか?」
「うん、大丈夫だよ。ごめんね連絡もせず遅くなって。心配掛けちゃった?」
どうやら僕の帰りが遅いのを気にしてくれていたようだ。しかしそれを指摘されるのは嫌だったようで、眉間にシワを寄せながら近づいてくる。どうしたのかと思ったら、こめかみの辺りでクンクン匂いを嗅がれた。
「臭い」
「あ、ごめんにんにく臭かった? お昼にパスタ食べたから……」
「ちがう」
「え?」
すごく怖い顔で睨まれ、手にしていた荷物を奪われた。
「蒼司くん、どうしたの……?」
「荷物は部屋に持ってく。だからさっさと風呂に入れ。ひどい匂いだ」
「そう……? じゃあ、お願い」
「晩飯は?」
「まだだよ」
「風呂入ってる間に用意しておいてやる」
長時間一人で外に出掛けていたから疲れてると思って気を遣ってくれているのだろうか。
桂木の自然な優しさとは違うが、蒼司もなんだかんだ優しいところがあるのだ。
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