世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃

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1938年春 ドイツ第三帝国 前哨戦

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「トランシルバニアをめぐる一連の事物の終息に向け、我がドイツ第三帝国に仲裁を求めると?」

「はい。大ハンガリー王国とルーマニア王国の国境では小規模の諍いが発生しているのが現状です。」

ヒトラーは執務室にてルーマニア王国から届いた親書を片手に外交官の一人と会議をしていた。トランシルバニアの要求について第三国としての仲裁を挟み会談を行いたい、というものである。

「第三者を挟んでの会談とは…。第三者として我々を選んでいる時点で単なる仲介役としての我々に期待しているのではないことは確実だな。」

「ええその通りでしょう。目的となるのは我々との対洪同盟の構築でしょう。同盟に届かなくとも援助を期待しての要請であることは確実であるでしょう。」

親書を机の上に放り、椅子に体重を預けた。ルーマニア王国との共同戦線を引けるのはドイツ第三帝国的には非常にありがたい話である。大ハンガリー王国はドイツ第三帝国に加えて、ルーマニア王国にも戦線を持つ羽目になり、そのすべてをカバーするほどの戦力を大ハンガリー王国は有していない。つまり、実質的に大ハンガリー王国は戦争できなくなる。

しかし、ただ単に利用されるのは外交ではない。ここは相応の対価を求めるほかない。さて何がいいものかと悩むヒトラー。長い沈黙に入ったヒトラーを残しすでに外交官の姿はこの執務室の中にはなかった。あまりに自信の思考に没入しすぎたせいかもしれない。机の上には、近日中に再度答えを伺いに参る旨が知るされた紙が置かれてあった。

「一人で考えるよりも会話しながらのほうが、考えやすいことは間違いないか…。」

机に置かれたベルを鳴らし、数秒。秘書が入室してくる。

「ゲルドと夕食をとりたい。相手の都合を確かめてくれ。」

そう伝えると「かしこまりました。」と言い残して秘書は退室した。それから五時間後、帝都随一のレストランにてヒトラーとゲルトはともに食事をとっていた。

「総統と夕食とは珍しいこともあるものです。」

「一人ではなかなか考えが纏まらなくてな。お前の考えも聞きたいと思ったのだ。」

「どのような話でしょう?おそらくトランシルバニアのたぐいの話ではないかと察しますが…。」

「話が早くて何よりだ。お前はこの件についてどう考える。」

「総統は完璧を求めすぎる余り、決断しきれないのでは無いでしょうか?」

「……ふむ?」

ヒトラーはワインを口に含む。ゲルトはこれを先を促すサインと取った。

「大ハンガリー王国は我が帝国を脅かす存在である、よって排除せねばならない……。それは間違いなくそうでありましょう。しかし、その結果に至る過程は完璧を求められるのは些か都合が良すぎるのではないかと。」

「と言うと?」

「総統はおそらく、ズデーテン地方に加え、スロベニアまでも手中に収めようとしておられると想像します。」

「ああ、その通りだ。」

「しかしそれは総統にとっての理想にすぎません。合理にかけているのではないかと私は思っております。」

「ドイツ民族の悲願である。理想すら語ることの出来ない為政者など不要だとは思わんかね?」

「身の丈に合わない理想は身を滅ぼすことになるでしょう。ここはどちらかを味方とするのが得策でしょう。」

「我が理想より優先されると言う、得策とやらを聞きたいな。」

ゲルトは姿勢を崩さない。背筋を伸ばし、ヒトラーの目を捕える。しかしヒトラーは、煙草の先に火を付け背もたれに体重をかける。

「我々はスロベニアをユーゴスラビアの領土と認め、その対価としてユーゴスラビアに同盟を迫るのです。これによって大ハンガリー王国は国境の大部分に戦線を構えることになります。これによって不戦によって、ズデーテン地方を割譲を迫れることでしょう。」

「それは対大ハンガリー王国のみしか先のない外交だ。ユーゴスラビアとの友好は、イタリアとの不仲になる材料になる。」

…………ジュワッ…。
煙草の先端の火を揉み消しヒトラーは席を立った。そして、振り返り一言…

「お前は先が見えてない。」




ヒトラーの居なくなった個室。そこには落胆した男の姿はなく、よく言えば腹を括った、悪く言えば狂気の目をした男が一人、赤いワインを飲み干した。


















――――――――――――――――――
大日本帝国視点は内容が思い浮かばず苦戦しています。しばらくドイツ視点が続くと思います。
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