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13 ③(※)
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領地から両親を連れて帰り屋敷に入ると、使用人達が右往左往していた。
どうしたのかと尋ねると、ナーシュが部屋で倒れていて、今ベッドで苦しんでいるという。
私は何もかも放り投げて、寝室へ向かった。
部屋に入った途端、体がカッと熱くなり、目がくらみ、頭が痺れた。
部屋中ナーシュの甘い香りで満ちていた。
「ナーシュ!一人にしてすまない!」
ナーシュは発情期が始まっていた。
予定より少し早いのは、私がナーシュに余計な心労をかけてしまったせいかもしれない。
「ナーシュ、今すぐ楽にしてあげからね」
私がそうナーシュに声を掛けた時には、ナーシュは既に着ていた服を全て脱ぎ捨て、シーツに自分の体を擦り付けながら、自ら快感を探し求めていた。
私の声にナーシュはぴくりと反応し、瞳を潤ませ恍惚とした表情で私にしがみついてきた。
「アラン様ぁ、欲しいぃ、早くぅ、ああぁっ」
ナーシュが正気を失うまで放っておいた自分が許せなかった。
私は奥歯を噛み締めて、ナーシュを抱き締めた。
ナーシュを気遣いたかったが、私も自分で思っている以上に疲れていたのか、ナーシュのフェロモンに当てられ、すぐに正気を失ってしまった。
我に返った時には既に一週間が過ぎていて、発情期が治まったナーシュは、私に組み敷かれながらも静かに眠っていた。
私はまだ繋がっていた昂りを温かなナーシュの中からゆっくりと引き抜くと、ベルを鳴らし侍女を呼んだ。
ほんの少しナーシュを一人にしただけだった。
私は放ったらかしだった両親の事も含め、屋敷の事が気に掛かり、眠っているナーシュを抱えて一緒に湯浴みを済ませると、簡単な着替えをして、執務室に向かった。
呆れ顔の父から何も問題はないと言われ、安心して部屋に戻ると、ナーシュがいなくなっていた。
慌てて探すと、台所の入口近くの廊下の壁に、よろよろと寄りかかっていた。
「ナーシュ!」
聞こえなかったのか、ナーシュはこちらを見なかった。
近付くと、華奢な体が小刻みに震えているのが分かり、慌てて体調を尋ねた。
そこで返ってきた言葉に面食らってしまった。
私にナーシュ以外に愛する者がいる?
ナーシュがあの人形の身代わり?
あの人形を性奴隷にしてる?
あの人形を見て、どうしてそこまで話が飛躍するのか。ナーシュの少し世間知らずな所はとても可愛いが、さすがに私も理解に苦しんだ。
発情期明けで、まだ意識がはっきりしていないのだろうと考えが至り、抱き上げて部屋に戻ろうとした時、私が生きてきた26年の人生の中で、一番の衝撃が私を襲った。
「アラン様!離婚してくださいっ!!」
「り、離婚!!??」
私は固まったまま動けなくなってしまった。
ようやく現実に戻ってきた私は、家の者からナーシュが実家の伯爵家に戻ったと聞き、すぐさま後を追いかけた。もちろん人形も持って行った。
伯爵邸に着くと、伯爵が仁王立ちで私を待ち構えていて、無言で応接室まで案内された。
「⋯伯爵、ナーシュが世話になった」
「タザキル公爵、少しお話をよろしいですか?」
「伯爵⋯、少々他人行儀ではないか?」
「もうすぐ他人になると聞きましたが」
「なっ!?」
「申し訳ありません。少し冗談が過ぎました」
「あ、ああ。驚かさないでくれ」
「今回の件、きっとナーシュがまた何か勘違いをしているのでしょうが、あの子が傷付いて帰ってきたのも事実です」
「ああ、申し訳ない。しかし、実は私も何が何やら訳が分からないのだ」
「分かりました。では何があったか詳しい話を聞かせてください。でもその前に、アラン様⋯、そのずっとアラン様の隣に座っている物の事に触れてもよろしいでしょうか」
伯爵は人形をチラチラ見ながらそう聞いてきた。
「ああ、もちろんだとも。むしろ触れてもらわないと、私がいたたまれないよ」
私は苦笑いを伯爵に向けてから、ナーシュと結婚してからの事を詳しく話した。
無事に番なった事、仕事が多忙でナーシュとすれ違ってしまった事、両親の事、そして人形の事。
伯爵は小さく頷きながら黙って聞いていたが、全て聞き終わると、一つ大きく頷いた。
「アラン様、おそらくナーシュは、その人形を人だと思っているのでしょう」
「はっ!?この人形が人に⋯見えるか?」
「普通は有り得ませんが、ナーシュですから」
「そうか、有り得⋯、るか」
「はい。あの子を世間知らずに育ててしまった私の責任でもあります。アラン様、先ずは人形の誤解を解いてあげてください」
「あ、ああ、分かった」
「アラン様、それともう一つ確認したい事があります」
「何だろうか」
「ナーシュが、この一週間アラン様が誰かと情を交わしていたと言っておりましたが」
「伯爵、それは私がナーシュに会えば解決する」
私がにっと笑ってそう言うと、伯爵は全て理解したように微笑んだ。
私が伯爵の了承を得て二階のナーシュの部屋へ向かおうとした時、伯爵が躊躇いながら、
「少し人形を抱かせてもらえますか?」
と言って私から人形を受け取ると、愛おしそうに抱き締めて、まるでナーシュの幼い頃のようだ、と呟いて涙ぐんでいた。
どうしたのかと尋ねると、ナーシュが部屋で倒れていて、今ベッドで苦しんでいるという。
私は何もかも放り投げて、寝室へ向かった。
部屋に入った途端、体がカッと熱くなり、目がくらみ、頭が痺れた。
部屋中ナーシュの甘い香りで満ちていた。
「ナーシュ!一人にしてすまない!」
ナーシュは発情期が始まっていた。
予定より少し早いのは、私がナーシュに余計な心労をかけてしまったせいかもしれない。
「ナーシュ、今すぐ楽にしてあげからね」
私がそうナーシュに声を掛けた時には、ナーシュは既に着ていた服を全て脱ぎ捨て、シーツに自分の体を擦り付けながら、自ら快感を探し求めていた。
私の声にナーシュはぴくりと反応し、瞳を潤ませ恍惚とした表情で私にしがみついてきた。
「アラン様ぁ、欲しいぃ、早くぅ、ああぁっ」
ナーシュが正気を失うまで放っておいた自分が許せなかった。
私は奥歯を噛み締めて、ナーシュを抱き締めた。
ナーシュを気遣いたかったが、私も自分で思っている以上に疲れていたのか、ナーシュのフェロモンに当てられ、すぐに正気を失ってしまった。
我に返った時には既に一週間が過ぎていて、発情期が治まったナーシュは、私に組み敷かれながらも静かに眠っていた。
私はまだ繋がっていた昂りを温かなナーシュの中からゆっくりと引き抜くと、ベルを鳴らし侍女を呼んだ。
ほんの少しナーシュを一人にしただけだった。
私は放ったらかしだった両親の事も含め、屋敷の事が気に掛かり、眠っているナーシュを抱えて一緒に湯浴みを済ませると、簡単な着替えをして、執務室に向かった。
呆れ顔の父から何も問題はないと言われ、安心して部屋に戻ると、ナーシュがいなくなっていた。
慌てて探すと、台所の入口近くの廊下の壁に、よろよろと寄りかかっていた。
「ナーシュ!」
聞こえなかったのか、ナーシュはこちらを見なかった。
近付くと、華奢な体が小刻みに震えているのが分かり、慌てて体調を尋ねた。
そこで返ってきた言葉に面食らってしまった。
私にナーシュ以外に愛する者がいる?
ナーシュがあの人形の身代わり?
あの人形を性奴隷にしてる?
あの人形を見て、どうしてそこまで話が飛躍するのか。ナーシュの少し世間知らずな所はとても可愛いが、さすがに私も理解に苦しんだ。
発情期明けで、まだ意識がはっきりしていないのだろうと考えが至り、抱き上げて部屋に戻ろうとした時、私が生きてきた26年の人生の中で、一番の衝撃が私を襲った。
「アラン様!離婚してくださいっ!!」
「り、離婚!!??」
私は固まったまま動けなくなってしまった。
ようやく現実に戻ってきた私は、家の者からナーシュが実家の伯爵家に戻ったと聞き、すぐさま後を追いかけた。もちろん人形も持って行った。
伯爵邸に着くと、伯爵が仁王立ちで私を待ち構えていて、無言で応接室まで案内された。
「⋯伯爵、ナーシュが世話になった」
「タザキル公爵、少しお話をよろしいですか?」
「伯爵⋯、少々他人行儀ではないか?」
「もうすぐ他人になると聞きましたが」
「なっ!?」
「申し訳ありません。少し冗談が過ぎました」
「あ、ああ。驚かさないでくれ」
「今回の件、きっとナーシュがまた何か勘違いをしているのでしょうが、あの子が傷付いて帰ってきたのも事実です」
「ああ、申し訳ない。しかし、実は私も何が何やら訳が分からないのだ」
「分かりました。では何があったか詳しい話を聞かせてください。でもその前に、アラン様⋯、そのずっとアラン様の隣に座っている物の事に触れてもよろしいでしょうか」
伯爵は人形をチラチラ見ながらそう聞いてきた。
「ああ、もちろんだとも。むしろ触れてもらわないと、私がいたたまれないよ」
私は苦笑いを伯爵に向けてから、ナーシュと結婚してからの事を詳しく話した。
無事に番なった事、仕事が多忙でナーシュとすれ違ってしまった事、両親の事、そして人形の事。
伯爵は小さく頷きながら黙って聞いていたが、全て聞き終わると、一つ大きく頷いた。
「アラン様、おそらくナーシュは、その人形を人だと思っているのでしょう」
「はっ!?この人形が人に⋯見えるか?」
「普通は有り得ませんが、ナーシュですから」
「そうか、有り得⋯、るか」
「はい。あの子を世間知らずに育ててしまった私の責任でもあります。アラン様、先ずは人形の誤解を解いてあげてください」
「あ、ああ、分かった」
「アラン様、それともう一つ確認したい事があります」
「何だろうか」
「ナーシュが、この一週間アラン様が誰かと情を交わしていたと言っておりましたが」
「伯爵、それは私がナーシュに会えば解決する」
私がにっと笑ってそう言うと、伯爵は全て理解したように微笑んだ。
私が伯爵の了承を得て二階のナーシュの部屋へ向かおうとした時、伯爵が躊躇いながら、
「少し人形を抱かせてもらえますか?」
と言って私から人形を受け取ると、愛おしそうに抱き締めて、まるでナーシュの幼い頃のようだ、と呟いて涙ぐんでいた。
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