蛇の噛み痕

ラティ

文字の大きさ
3 / 6
一章

3

しおりを挟む

 スマホのキーボードを叩く。
 入力し、消して、また打って、直して。

 ――昨日はありがとう。次会うの楽しみにしてるね!
 
 数時間もかかったのに、送ったのは、当たり障りのない短い文章だった。
 チャット画面を凝視する。一分、二分と経っても、既読がつかない。心臓が痛くて、裏のまま、机に置いた。
 けれどすぐに気になって、手に取ってしまった。

 忙しいの?誰かといる?なんで返事くれないの?
 答えは見つかるはずないのに、ずっと考えた。
 出勤時間になったら、こまめに確認することもできない。
 何も手につかず、布団にくるまっていると、三時間後にメッセージが届いた。

 ――こちらこそ色々ありがとうございました。

 シンプルで、佳代ちゃんらしい文だった。
 アプリを開き、急いで言葉を考える。どうにか会話を続けたくて、もっと気の利いたセリフがあったはずなのに、今何してた?と、つまらない質問を送ってしまった。

 ――空き時間に休憩してました。

 たった一言に、気分が上がる。
 そのあとも、少しだけ喋り、会話は終わった。
 本当は聞きたいことも沢山あったけれど、一方的な質問は、相手に嫌われる可能性があるから。……堪えた。

 佳代ちゃんが来店するまで、毎日、俺はメッセージを送り続けた。会いたくて、喋りたくて、なんで自分がこんなことになっているのか、全然分からなくて。身体中がゆっくりと、侵されている感じがした。

 たった一週間、それが、あまりにも長かった。

 当日になって、佳代ちゃんの待つ席に向かったら、いつもどうやって女の子に話していたかを、忘れてしまった。

「会いに来てくれて嬉しい!俺ずっと楽しみにしてたんだよね」

 何とかセリフを吐き出したのに、口角がうまく上がらなくて、あぁ失敗したと、心の中でつぶやく。

「黒金さん?……虫でもいましたか?」

 ちらり、視線を移すと、佳代ちゃんが、丸い瞳でこちらの様子を伺っていた。
 口の中にあった水分が消え去り、ヒュッと、喉が鳴る。そんな顔で、見ないでほしい。
 唇を小さく動かし、手に持っていたものを渡した。

「え、あ、いや、ごめんね、違うよ……。マフラー!そうだ、マフラー。すっごいあったかくて、佳代ちゃんのおかげで風邪ひかなかったよ!ありがとう」

 実を言うと、ここ数日間は、マフラーを抱きしめて寝ていた。佳代ちゃんが貸してくれた日、外したくなくて、ずっと顔を埋めて座っていたら、いつの間にか意識が消えていた。起きたら、朝。
 本当にびっくりした。
 薬を飲んでも、なかなか眠れなくて、絶対に一回は、目が覚めていたのに。
 頭がスッキリしていて、鏡を見たら、少しだけ、隈が薄くなっていた。
 欲を出すなら、そのまま買い取りたかったけれど、匂いは薄まってくるので、仕方なく手放すことにした。

「お役に立てて良かったです」

 伸ばされた手が、俺の指に当たる。
 染み込むように伝わってきた体温に、気づいたら、腕を握っていた。

「……ちっちゃくてあったか」

 一番最初に触れた時は、こんなこと思わなかったのに。

「え?」
「え……あっ!ご、ごめんね、ち、違うんだ、ほら俺の手にすっぽり収まるなーって思って」

 いつもなら、しないへまをして、慌てて誤魔化した。言い終わってから、その誤魔化しすらも、間違えてることに気づく。

「黒金さん、大丈夫ですか?」
「……大丈夫だよ?」 

 小刻みに、心臓が音をたてる。
 全然大丈夫じゃない。

 メニューを眺め始めた佳代ちゃんに、バレないよう、じっと見た。
 ほっぺが可愛いとか、一本だけ髪の毛がはねてるとか、思いながら、記憶していると、予想外の言葉が耳に入ってきた。

「あの、このお酒注文したいです」
「頼むの?」
「はい……。ダメでしたか?あんまり高くないですけど、頼んだ方が黒金さんのためになりますよね?」
「え……俺のため?」

 会いに来てくれただけで嬉しくて、売上なんかどうでも良かったのに。
 しかも理由が、俺のため。

「夢……かな……?いや、違うよな、死ぬのかな、俺……」

 渦をまく脳を、落ち着かせる。無意識に声が出てて、誤魔化すように酒を頼んだ。
 もし、誘ったら、アフターしてくれるかな。前回は、佳代ちゃんから誘ってくれたし、きっと喜んでくれるはず。

「この前さ、アフター出来なかったじゃん?だから……今日やり直ししない?」

 そう思って提案したが、「え」と、むしろ嫌がっているような、返事をされた。悪寒が走る。
 駄々をこねる子供みたいに、早口で、続けて加えた。

「お、俺が佳代ちゃんといたいなーって思って、楽しませるからさ」
 
 でも、意味がなかった。眉を下げ、罪悪感がひしひしと伝わってくる表情で、「ごめんなさい」と言われた。
 心臓が軋む。はっ、はっ、と、息が漏れる。

「……え、あ……そっか、うん。いや、俺こそごめんね。急だったよね、予定とか、色々あるだろうし」
「そうなんです、予定があって」

 俺を優先してよ……。
 喉まででかかった。情けなく、乞うてしまいそうになった。
 ひと息ついてから、質問をする。
 
「でも、ここにはまた来てくれるでしょ?」
「は、はい」

 あぁ良かった。これからも喋れる。
 
 それから、お酒を飲みながら、幸せな時間を過ごした。自分が楽しませる側なのに、そんなことは、頭から抜けていた。
 目の前にある、キラキラした顔をみていたとき、他の席で、シャンパンが入った。舌打ちをしそうになり、唇を噛む。
 重い体を叱咤し、立ち上がり、「ちょっと呼ばれたから行ってくるね」と、声をかける。
 向かった女の机には、派手な箱に入ったお酒が、光を反射して、ギラギラと輝いていた。
 普段ならなんとも思わなかったはずなのに、今日は、目障りだなと感じた。
 仮面を被り、ソファに腰掛ける。
 女は、肉の詰まった足を擦り付け、甲高い声で、愛を求めてきた。
 佳代ちゃん以外を相手にしている時の俺は、俺自身じゃない。本当の自分でいられるのは、佳代ちゃんの前だけ。
 早く、時間がすぎればいいと思った。
 やっと対応が終わり、佳代ちゃんのいる席に視線を移した。

 笑ってる。
 佳代ちゃんが、笑ってる。
 他のやつに。

 俺と最初に喋った時は、そんな顔しなかったのに。
 胃液がせり上がってくる感じがした。気持ち悪い。
 早足で向かい、ソファに腰掛ける。

「佳代ちゃん……おまたせ」

 明るく話しかけたつもりが、何かありました?と、尋ねられた。俺の様子に気づいてくれたと、単純な心は、浮き足立つ。

「……ううん。なんでもないよ、それよりずいぶん盛り上がってたけど、何話してたの?」

 誤魔化しながらも、探りを入れた。

「好きなタイプとかについて話してました」
「好きなタイプ。佳代ちゃんの好きなタイプって?」
「えっと、私は、優しくて頭のいい人が好きです」

 なんでもない顔をしたが、気持ちは、前のめりになっていた。
 自分が該当してるかが、きになって仕方ない。

「そっか、さっきの人との会話楽しかった?」

 俺との会話の方が楽しい。そう言ってくれないかなと思ったが、期待は裏切られた。
 
「はい」
 
 短い言葉が、刃物のように鋭く、刺してきた。
 やばい、上手く笑えない。
 視界が定まらなくなり、手が震えた。
 ガラスが音をたてる。そこでやっと、正気に戻った。下を見ると、ズボンが酒で濡れていた。

「だ、大丈夫ですか?」
 
 佳代ちゃんが、ハンカチで拭ってくれる。伸ばされた腕の、袖あたりは、湿っていた。
 なんでいつも、他人のことばっかり……。
 あまりにも眩しいその姿に、俺は顔を背けてしまった。


 ***

「ねぇ~!私今日、ショウ君のために、いつもより時間かけて、オシャレしてきたんだー!この髪型とか可愛くない?」
「うん、すっごい可愛い。俺のためって理由も嬉しいよ、ありがとう」
 
 数日が経った。
 相変わらず、俺は、睡眠が取れていない。いや、実際は、佳代ちゃんと別れてから、夜中に、目が覚める回数が増えた。
 どうして。
 ずっと、その理由を探しているけれど、全く見つからない。
 また来てくれるかと聞いた時は、頷いていたが、全然音沙汰がない。メッセージを送っても、予定があるからと、断られる。
 しかも、俺ばっかりが話しかけている。
 あぁもうよく分からない。なんでこんなに苦しいのか。ムカつくのか。
 俺は、佳代ちゃんを――

「好き……」
「え?」
「だからぁ、私は、ショウのことが好きなの、ショウも、私のこと大切、って言ってくれてたじゃん?だから、両思いでしょ?そろそろ、一緒に住みたいなぁって、思って……ちょっと、聞いてる?ショウ!」

 佳代ちゃんの声が聞こえたと思った。実際は、ただの金切り声だったことに、肩を落とす。
 すき。好き……。
 全然考えつかなかった。恋。
 あまり、実感がわかない。でも、そっか。

「ねぇ!聞いてないでしょ、酷い!もう私知らないから、帰る!」

 耳をつんざく声に、意識を取り戻す。普段なら、機嫌をとるよう努めるが、今は、どうでもよかった。
 わだかまりがなくなったおかげで、スッキリしている。
 やっと理解できた。寝ようとすると、佳代ちゃんの幻覚が見えるのも。こっそりと、写真を撮りたくなるのも、メールのやり取りを全て保存してしまったのも。全部。
 佳代ちゃんのことが好きだからなんだ。

 翌日、仕事が休みの俺は、昼過ぎまでゴロゴロとしていた。やっぱり、近くに佳代ちゃんの存在がないと、眠れない。
 窓を見れば、太陽は沈みかかっていた。
 何とかベッドから起き上がり、冷蔵庫を開ける。がらんとしたその箱を、ぼーっと眺めた。

 寝室に戻ろうとした足を止める。
 何となく、いや、もしかしたら会えるかもしれない、なんて期待があって、この前のコンビニに行こうと思った。



 ***


「ありがとうございましたー」

 感情のこもってない挨拶を受け、店から出る。
 手の袋には、ゼリー飲料。食欲がない時は、いつもこれだ。
 目的の人には、結局会えなかった。
 のろのろとしたスピードで、来た道をあるく。ふと顔を上げると、見覚えのある姿が見えた。
 鼓動が早くなる。歩幅が大きくなる。視線が合って、体が沸騰ふっとうしそうになった。
 さらに近づき、綺麗な顔の、頬に、目がまった。腫れている。

「……佳代ちゃん?」
「黒金さん……」

 俺がいることに驚いてるようだった。目尻を下げて、普段通りに話しかけてこようとするので、どうしたのかと、少し大きめな声が出た。
 すると佳代ちゃんは、口を引き結び、下を向いた。
 違う。ただ心配してただけで、そんな顔、して欲しかったわけじゃ……。

「わ、わたじの、せいなんです」

 嗚咽の混じったセリフが横から飛んできた。佳代ちゃんばかりを見ていて、もう一人の存在に気がついていなかった。
 
 今、確かにそう言った。胃がムカムカとして、殴りかかりそうになった。
 けれど、俺が行動を起こすよりも先に、佳代ちゃんは、バッグから絆創膏を取り出し、女に貼った。

「佳代ー!」

 目の前で佳代ちゃんに抱きついている。
 次の瞬間には、手が出ていた。

「へ?」
「え、あ……いや……、ほら、頬が腫れてるから、痛そうで……ご、ごめんね。無意識に腕掴んじゃった」

 自分の体なのに、制御が効かない。
 とにかく、俺以外といる所を、みたくなかった。

「か、佳代ちゃんのこと、手当しないとだよね。そうだ、俺の家おいでよ」

 連れ出そうとすると、佳代ちゃんは、「玲奈と一緒に行動したい」と言ってきた。

「……なんで」

 無意識に漏れた言葉は、誰にも届かない。


 その後やってきた警察に、事情を説明しているのを聞いて、俺はやっと、状況が理解できた。
 結局は、全部あの女のせいだったのだ。

 やっとふたりきりになれた頃、俺は食事に誘った。数日ぶりに会えたのだ、もっと、一緒にいたい。

「すみません。誘って下さったのは嬉しいんですが、今日は帰ります。服も汚れてるし、怪我もしちゃったので」
「あ……そうだよね、ごめんね」

 丁寧なお辞儀で断られる。帰ろうとする後ろ姿を見た時、胸騒ぎがした。
 もう会えないかもしれない。
 なるべく優しくとか、もっと知的に見えるようにとか、全然考えられないまま、引き止めていた。

「また俺に会いに来てくれる?」

 佳代ちゃんは、小さく頷く。

「い、いつ来てくれる?」
「えっと、じ、時間がある時に」
「やっぱり、今日家においでよ」
「ほ、本当に大丈夫です」
「もしかして、新しい担当ができたとか?だから、俺から離れようとするの?最近他のところに行ってるから、会いに来てくれないの?」

 溜まっていた疑問や不満が爆発した。
 
「離してください!」
 
 いつもは穏やかな佳代ちゃんの、切羽詰まったような声に、手を離す。やってしまった。
 謝るが、返事はない。それどころか、この場から去ろうとしている。

「待って、もしかして電車でかえろうとしてる?危ないんだからタクシーで帰りな、はい。これ使って」

 持っていた、ありったけのお札を渡す。
 佳代ちゃんの性格なら、きっと連絡をしてくる。金額に気づく前に、早く別れれば、また会える。
 なるだけ平然を装って、見送った。
 
 
 家に帰ってから、画面を見続け、小一時間。予想通り、メッセージは届いた。……良かった。
 鉛のような人体を、布団に預け、なんと返事をしようか考える。違和感がないように、接点を作りたい。

 ――明日、俺の家これる?交通費と欲しい分は、そのお金から引いていいから。と打ち込み、伝えた。
 しばらくしてから、了承の文が送られてきて、ホッと息を吐く。

 ついでに、仕事を休む連絡を入れた。
 欠勤なんていつぶりだろう……。
 写真ホルダーを開き、保存していたやり取りを見ていく。
 カーテンの隙間から入った光に顔を上げると、いつの間にか朝をむかえていた。
 佳代ちゃんは、今何をしてるのかな。
 まだ寝てるのかな。
 今日会うというのに、既に恋しい。
 画面を凝視して、また時間が経った。スマホが振動して、通知がくる。

 ――十七時くらいに伺いますね。

 ドクン。
 心臓が、口から出るかと思った。
 すぐにアプリを開く。

 指が震えた。ぐるぐると悩んで、全然思いつかなくて、やっと、――わかった。待ってるね。と、答えた。
 けれど、返事がこない。読んですらもらえない。
 冷や汗が止まらない。

 ――昨日の傷大丈夫?
 ――やっぱり、心配だから迎えに行ってもいい?
 ――今日も、昨日の女の子といる?
 ――既読付けて欲しい

 タップ音だけが、耳に響く。
 ひたすらおくって、返事が来たのは、何十件と、送信した後だった。
 授業中で見れなかっただけだと分かり、肩の力が抜ける。呼吸が楽になった。
 俺は、無意識に、通話ボタンを押していた。
 自分でかけたのに、出てくれたことに驚いた。

「……もしもし?佳代ちゃん?」

 ――あ、はい……

 小さな声を聞いて、頬が緩む。

「ご、ごめんね。急に。どうしても不安だったんだ。声も、聞きたくて」

 ――えっと、大丈夫です……。すみません、次も授業あるので、また

 会話を終わらせようとするので、疑問を抱き、引き止めた。

「今、誰かといる?昨日の女の子とか、男友達とか……」
 
――いませんけど……急にどうしたんですか?
 
「あ、ううん。いないならいいんだ。」

 俺が知らない間、知らない誰かと一緒にいるなんて、耐えられないと思い、尋ねたが、杞憂きゆうだった。
 電話を切ってからも、夢を見てる気分だった。
 
 佳代ちゃんがくるんだから、部屋を綺麗にしないと。
 そう考え、散乱した服をまとめ、床を掃除し、机の上を片付けた。
 近くの有名なスイーツ屋さんにも行き、好き嫌いがあるかもしれないから、シンプルなショートケーキを買った。
 服装も新しくしようとしたが、似合わないと思われたらいやなので、いつもの格好に落ち着いた。
 時間が余り、やることがなくなったあと、俺は椅子に座っていた。
 膝の上で握った拳に、力がこもっていく。空気が重たくて、体が動かない。
 なにか違うことを考えようと、思考を巡らせたが、最終的にいきつくのは、佳代ちゃんのことだった。

 今までのが全て、俺の妄想だったらどうしよう。もしかしたら、家にこないかもしれない。さっき話したのも、全部嘘で……。

 強く瞼を閉じた時、ピンポーンと、音が響いた。

 蹴飛ばすように立ち上がり、モニターを見る。

「佳代ちゃん?」
「あ、こんにちは」

 息を飲む。
 声が上ずりそうになった。
 番号を伝え、部屋で待ってる間、廊下をウロウロと歩いた。
 インターホンがなり、ゆっくりと扉を開ける。

「黒金さん――」
「……っ、ほんもの」
 
 伝えるはずなかったセリフが、飛び出た。
 最悪だ、やり直したい。
 次にかける言葉を探していると、何かを渡される。

「これ……!残った分が入ってます。ありがとうございました」

 完全に忘れていた俺は、紙幣の入った封筒を手に取った。
 すると、佳代ちゃんは、来た道を戻ろうとして行く。

「ケーキ!」

 引き止めたくて、咄嗟に叫ぶ。

「け、ケーキがあるんだ、えっと、実は、知人からもらって、良かったら、食べていかない……?あ、お、おれ一人じゃ食べきれなくて。ね、お願い」

 逃がさないための言い訳だった。
 本当は、佳代ちゃんのために用意したものなのに。

「こ、困ってるんだ、佳代ちゃんに食べてもらえたら、すごく助かるんだけど」

 そうお願いすれば、断られないことは分かっていた。
 離さないためなら、嘘をつくしかなかった。

 結果的に、佳代ちゃんは今、俺の前にいる。
 どうぞとスイーツを提供すれば、表情を明るくした。

「はい……ショートケーキなんだけど」
「ショートケーキ。あ、いちご」
「もしかして、嫌いだった?」
「あ、違います!」
「そ、そっか。なら良かった。じゃあ、逆に好きってこと?」

 じっと見つめ、質問すると、「はい」とはにかんだ。

「いちご……好きなんだ。……分かった。教えてくれてありがとう」

 今度、いちごのお菓子とかをプレゼントしよう。喜んでくれるかな。
 沈黙が流れ、意を決して、口を開いた。

「今日も、昨日の女の子といたの?」
「玲奈のことですか?……今日は、授業被らなかったので、私一人でいましたけど」
「……もしかして、その子と、恋愛関係にあったり、する?」

 ずっと気になっていた。最悪の可能性。否定してくれと、固唾かたずを呑む。
 
「違いますよ」

 顔を上げる、誤魔化してるようには見えなかった。
 
「そっか、でも、すごい気にかけてるよね」
「まぁ、親友なので」

 いちごを咀嚼する佳代ちゃんの、唇を凝視する。
 果汁によって、ぷるんと光っていた。赤く染まっていて、紅を塗っているようで。

「俺のさ」

 もし、俺が彼氏になったら、そこに……。

「お、俺の性格、どう思う?」

「……気を使ってくれたり、優しくて、いい人。だと思ってます」
「そ、そっか!じゃあ、俺のこと、タイプ?」
「はい」

 佳代ちゃんの全部を、手に入れられるかもしれない。

「お、俺ね、佳代ちゃんのことが、す、好きなんだ……」

 喋りだしたら、止まらなかった。
 
「あのね……好きって気づいたのは最近なんだけど、今までの子とは違って、か、佳代ちゃんだけなんだ。佳代ちゃんは、俺のこと、どう思ってる?」

 呼吸もしづらくて、言葉も噛んでしまったけれど、気にしてられなかった。
 なかなか答えてくれないので、名前を呼ぶ。
 不安げな視線が向けられ、声が届く。

「えっと……、私も、好きです」

 泣きそうだった。いや、泣いてたかもしれない。
 佳代ちゃんに抱きつき、気づかれないよう、目元を拭う。

「え?」
「あ、ごめん!う、嬉しくって」
「そ、そうですか……」
「じゃあ……、き、今日は、俺の家に泊まってく?」
「なんでですか?」

 気持ちが高ぶったまま提案してしまった。体温が下がっていく。
 不誠実だと思われて、振られてしまう。

「ご、ごめんね、いきなり過ぎたよね、テンション上がっちゃって、ごめんね、嫌いにならないで」
「だ、大丈夫ですよ。なりませんから」
「ありがとう……」

 佳代ちゃんの手を握る。
 こうやって触れるのも、もっと先も、彼氏になったから、できるんだ。
 嫌われたくないから、ゆっくりと、進めていこう。

「お、俺の名前、黒瀬相馬って、言うんだ。黒金ショウは、源氏名で、だから……二人の時は、 相馬って……呼んで欲しい」

 佳代ちゃんに似合う服を買って、デートをして、結婚して。テレビを見ながら、何気ない会話をして。
 俺の初恋は、佳代ちゃんなんだよって言って。
 あぁ楽しみだなぁ。
 なんて幸せなんだろう。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ホストな彼と別れようとしたお話

下菊みこと
恋愛
ヤンデレ男子に捕まるお話です。 あるいは最終的にお互いに溺れていくお話です。 御都合主義のハッピーエンドのSSです。 小説家になろう様でも投稿しています。

レンタル彼氏がヤンデレだった件について

名乃坂
恋愛
ネガティブ喪女な女の子がレンタル彼氏をレンタルしたら、相手がヤンデレ男子だったというヤンデレSSです。

つかまえた 〜ヤンデレからは逃げられない〜

りん
恋愛
狩谷和兎には、三年前に別れた恋人がいる。

ヤンデレ男子の告白を断ってから毎日家の前で待ち伏せされるようになった話

チハヤ
恋愛
「告白の返事を撤回してくれるまで帰らない」と付きまとわれても迷惑なので今日こそ跳ねのけようと思います――。 ヤンデレ男子×他に好きな人がいるヒロインのとある冬の日の出来事。 メリバです。

内気な貧乏男爵令嬢はヤンデレ殿下の寵妃となる

下菊みこと
恋愛
ヤンデレが愛しい人を搦めとるだけ。

冗談のつもりでいたら本気だったらしい

下菊みこと
恋愛
やばいタイプのヤンデレに捕まってしまったお話。 めちゃくちゃご都合主義のSS。 小説家になろう様でも投稿しています。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

処理中です...