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一章
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しおりを挟むスマホのキーボードを叩く。
入力し、消して、また打って、直して。
――昨日はありがとう。次会うの楽しみにしてるね!
数時間もかかったのに、送ったのは、当たり障りのない短い文章だった。
チャット画面を凝視する。一分、二分と経っても、既読がつかない。心臓が痛くて、裏のまま、机に置いた。
けれどすぐに気になって、手に取ってしまった。
忙しいの?誰かといる?なんで返事くれないの?
答えは見つかるはずないのに、ずっと考えた。
出勤時間になったら、こまめに確認することもできない。
何も手につかず、布団にくるまっていると、三時間後にメッセージが届いた。
――こちらこそ色々ありがとうございました。
シンプルで、佳代ちゃんらしい文だった。
アプリを開き、急いで言葉を考える。どうにか会話を続けたくて、もっと気の利いたセリフがあったはずなのに、今何してた?と、つまらない質問を送ってしまった。
――空き時間に休憩してました。
たった一言に、気分が上がる。
そのあとも、少しだけ喋り、会話は終わった。
本当は聞きたいことも沢山あったけれど、一方的な質問は、相手に嫌われる可能性があるから。……堪えた。
佳代ちゃんが来店するまで、毎日、俺はメッセージを送り続けた。会いたくて、喋りたくて、なんで自分がこんなことになっているのか、全然分からなくて。身体中がゆっくりと、侵されている感じがした。
たった一週間、それが、あまりにも長かった。
当日になって、佳代ちゃんの待つ席に向かったら、いつもどうやって女の子に話していたかを、忘れてしまった。
「会いに来てくれて嬉しい!俺ずっと楽しみにしてたんだよね」
何とかセリフを吐き出したのに、口角がうまく上がらなくて、あぁ失敗したと、心の中でつぶやく。
「黒金さん?……虫でもいましたか?」
ちらり、視線を移すと、佳代ちゃんが、丸い瞳でこちらの様子を伺っていた。
口の中にあった水分が消え去り、ヒュッと、喉が鳴る。そんな顔で、見ないでほしい。
唇を小さく動かし、手に持っていたものを渡した。
「え、あ、いや、ごめんね、違うよ……。マフラー!そうだ、マフラー。すっごいあったかくて、佳代ちゃんのおかげで風邪ひかなかったよ!ありがとう」
実を言うと、ここ数日間は、マフラーを抱きしめて寝ていた。佳代ちゃんが貸してくれた日、外したくなくて、ずっと顔を埋めて座っていたら、いつの間にか意識が消えていた。起きたら、朝。
本当にびっくりした。
薬を飲んでも、なかなか眠れなくて、絶対に一回は、目が覚めていたのに。
頭がスッキリしていて、鏡を見たら、少しだけ、隈が薄くなっていた。
欲を出すなら、そのまま買い取りたかったけれど、匂いは薄まってくるので、仕方なく手放すことにした。
「お役に立てて良かったです」
伸ばされた手が、俺の指に当たる。
染み込むように伝わってきた体温に、気づいたら、腕を握っていた。
「……ちっちゃくてあったか」
一番最初に触れた時は、こんなこと思わなかったのに。
「え?」
「え……あっ!ご、ごめんね、ち、違うんだ、ほら俺の手にすっぽり収まるなーって思って」
いつもなら、しないへまをして、慌てて誤魔化した。言い終わってから、その誤魔化しすらも、間違えてることに気づく。
「黒金さん、大丈夫ですか?」
「……大丈夫だよ?」
小刻みに、心臓が音をたてる。
全然大丈夫じゃない。
メニューを眺め始めた佳代ちゃんに、バレないよう、じっと見た。
ほっぺが可愛いとか、一本だけ髪の毛がはねてるとか、思いながら、記憶していると、予想外の言葉が耳に入ってきた。
「あの、このお酒注文したいです」
「頼むの?」
「はい……。ダメでしたか?あんまり高くないですけど、頼んだ方が黒金さんのためになりますよね?」
「え……俺のため?」
会いに来てくれただけで嬉しくて、売上なんかどうでも良かったのに。
しかも理由が、俺のため。
「夢……かな……?いや、違うよな、死ぬのかな、俺……」
渦をまく脳を、落ち着かせる。無意識に声が出てて、誤魔化すように酒を頼んだ。
もし、誘ったら、アフターしてくれるかな。前回は、佳代ちゃんから誘ってくれたし、きっと喜んでくれるはず。
「この前さ、アフター出来なかったじゃん?だから……今日やり直ししない?」
そう思って提案したが、「え」と、むしろ嫌がっているような、返事をされた。悪寒が走る。
駄々をこねる子供みたいに、早口で、続けて加えた。
「お、俺が佳代ちゃんといたいなーって思って、楽しませるからさ」
でも、意味がなかった。眉を下げ、罪悪感がひしひしと伝わってくる表情で、「ごめんなさい」と言われた。
心臓が軋む。はっ、はっ、と、息が漏れる。
「……え、あ……そっか、うん。いや、俺こそごめんね。急だったよね、予定とか、色々あるだろうし」
「そうなんです、予定があって」
俺を優先してよ……。
喉まででかかった。情けなく、乞うてしまいそうになった。
ひと息ついてから、質問をする。
「でも、ここにはまた来てくれるでしょ?」
「は、はい」
あぁ良かった。これからも喋れる。
それから、お酒を飲みながら、幸せな時間を過ごした。自分が楽しませる側なのに、そんなことは、頭から抜けていた。
目の前にある、キラキラした顔をみていたとき、他の席で、シャンパンが入った。舌打ちをしそうになり、唇を噛む。
重い体を叱咤し、立ち上がり、「ちょっと呼ばれたから行ってくるね」と、声をかける。
向かった女の机には、派手な箱に入ったお酒が、光を反射して、ギラギラと輝いていた。
普段ならなんとも思わなかったはずなのに、今日は、目障りだなと感じた。
仮面を被り、ソファに腰掛ける。
女は、肉の詰まった足を擦り付け、甲高い声で、愛を求めてきた。
佳代ちゃん以外を相手にしている時の俺は、俺自身じゃない。本当の自分でいられるのは、佳代ちゃんの前だけ。
早く、時間がすぎればいいと思った。
やっと対応が終わり、佳代ちゃんのいる席に視線を移した。
笑ってる。
佳代ちゃんが、笑ってる。
他のやつに。
俺と最初に喋った時は、そんな顔しなかったのに。
胃液がせり上がってくる感じがした。気持ち悪い。
早足で向かい、ソファに腰掛ける。
「佳代ちゃん……おまたせ」
明るく話しかけたつもりが、何かありました?と、尋ねられた。俺の様子に気づいてくれたと、単純な心は、浮き足立つ。
「……ううん。なんでもないよ、それよりずいぶん盛り上がってたけど、何話してたの?」
誤魔化しながらも、探りを入れた。
「好きなタイプとかについて話してました」
「好きなタイプ。佳代ちゃんの好きなタイプって?」
「えっと、私は、優しくて頭のいい人が好きです」
なんでもない顔をしたが、気持ちは、前のめりになっていた。
自分が該当してるかが、きになって仕方ない。
「そっか、さっきの人との会話楽しかった?」
俺との会話の方が楽しい。そう言ってくれないかなと思ったが、期待は裏切られた。
「はい」
短い言葉が、刃物のように鋭く、刺してきた。
やばい、上手く笑えない。
視界が定まらなくなり、手が震えた。
ガラスが音をたてる。そこでやっと、正気に戻った。下を見ると、ズボンが酒で濡れていた。
「だ、大丈夫ですか?」
佳代ちゃんが、ハンカチで拭ってくれる。伸ばされた腕の、袖あたりは、湿っていた。
なんでいつも、他人のことばっかり……。
あまりにも眩しいその姿に、俺は顔を背けてしまった。
***
「ねぇ~!私今日、ショウ君のために、いつもより時間かけて、オシャレしてきたんだー!この髪型とか可愛くない?」
「うん、すっごい可愛い。俺のためって理由も嬉しいよ、ありがとう」
数日が経った。
相変わらず、俺は、睡眠が取れていない。いや、実際は、佳代ちゃんと別れてから、夜中に、目が覚める回数が増えた。
どうして。
ずっと、その理由を探しているけれど、全く見つからない。
また来てくれるかと聞いた時は、頷いていたが、全然音沙汰がない。メッセージを送っても、予定があるからと、断られる。
しかも、俺ばっかりが話しかけている。
あぁもうよく分からない。なんでこんなに苦しいのか。ムカつくのか。
俺は、佳代ちゃんを――
「好き……」
「え?」
「だからぁ、私は、ショウのことが好きなの、ショウも、私のこと大切、って言ってくれてたじゃん?だから、両思いでしょ?そろそろ、一緒に住みたいなぁって、思って……ちょっと、聞いてる?ショウ!」
佳代ちゃんの声が聞こえたと思った。実際は、ただの金切り声だったことに、肩を落とす。
すき。好き……。
全然考えつかなかった。恋。
あまり、実感がわかない。でも、そっか。
「ねぇ!聞いてないでしょ、酷い!もう私知らないから、帰る!」
耳をつんざく声に、意識を取り戻す。普段なら、機嫌をとるよう努めるが、今は、どうでもよかった。
蟠りがなくなったおかげで、スッキリしている。
やっと理解できた。寝ようとすると、佳代ちゃんの幻覚が見えるのも。こっそりと、写真を撮りたくなるのも、メールのやり取りを全て保存してしまったのも。全部。
佳代ちゃんのことが好きだからなんだ。
翌日、仕事が休みの俺は、昼過ぎまでゴロゴロとしていた。やっぱり、近くに佳代ちゃんの存在がないと、眠れない。
窓を見れば、太陽は沈みかかっていた。
何とかベッドから起き上がり、冷蔵庫を開ける。がらんとしたその箱を、ぼーっと眺めた。
寝室に戻ろうとした足を止める。
何となく、いや、もしかしたら会えるかもしれない、なんて期待があって、この前のコンビニに行こうと思った。
***
「ありがとうございましたー」
感情のこもってない挨拶を受け、店から出る。
手の袋には、ゼリー飲料。食欲がない時は、いつもこれだ。
目的の人には、結局会えなかった。
のろのろとしたスピードで、来た道をあるく。ふと顔を上げると、見覚えのある姿が見えた。
鼓動が早くなる。歩幅が大きくなる。視線が合って、体が沸騰しそうになった。
さらに近づき、綺麗な顔の、頬に、目が留まった。腫れている。
「……佳代ちゃん?」
「黒金さん……」
俺がいることに驚いてるようだった。目尻を下げて、普段通りに話しかけてこようとするので、どうしたのかと、少し大きめな声が出た。
すると佳代ちゃんは、口を引き結び、下を向いた。
違う。ただ心配してただけで、そんな顔、して欲しかったわけじゃ……。
「わ、わたじの、せいなんです」
嗚咽の混じったセリフが横から飛んできた。佳代ちゃんばかりを見ていて、もう一人の存在に気がついていなかった。
わたしのせい
今、確かにそう言った。胃がムカムカとして、殴りかかりそうになった。
けれど、俺が行動を起こすよりも先に、佳代ちゃんは、バッグから絆創膏を取り出し、女に貼った。
「佳代ー!」
目の前で佳代ちゃんに抱きついている。
次の瞬間には、手が出ていた。
「へ?」
「え、あ……いや……、ほら、頬が腫れてるから、痛そうで……ご、ごめんね。無意識に腕掴んじゃった」
自分の体なのに、制御が効かない。
とにかく、俺以外といる所を、みたくなかった。
「か、佳代ちゃんのこと、手当しないとだよね。そうだ、俺の家おいでよ」
連れ出そうとすると、佳代ちゃんは、「玲奈と一緒に行動したい」と言ってきた。
「……なんで」
無意識に漏れた言葉は、誰にも届かない。
その後やってきた警察に、事情を説明しているのを聞いて、俺はやっと、状況が理解できた。
結局は、全部あの女のせいだったのだ。
やっとふたりきりになれた頃、俺は食事に誘った。数日ぶりに会えたのだ、もっと、一緒にいたい。
「すみません。誘って下さったのは嬉しいんですが、今日は帰ります。服も汚れてるし、怪我もしちゃったので」
「あ……そうだよね、ごめんね」
丁寧なお辞儀で断られる。帰ろうとする後ろ姿を見た時、胸騒ぎがした。
もう会えないかもしれない。
なるべく優しくとか、もっと知的に見えるようにとか、全然考えられないまま、引き止めていた。
「また俺に会いに来てくれる?」
佳代ちゃんは、小さく頷く。
「い、いつ来てくれる?」
「えっと、じ、時間がある時に」
「やっぱり、今日家においでよ」
「ほ、本当に大丈夫です」
「もしかして、新しい担当ができたとか?だから、俺から離れようとするの?最近他のところに行ってるから、会いに来てくれないの?」
溜まっていた疑問や不満が爆発した。
「離してください!」
いつもは穏やかな佳代ちゃんの、切羽詰まったような声に、手を離す。やってしまった。
謝るが、返事はない。それどころか、この場から去ろうとしている。
「待って、もしかして電車でかえろうとしてる?危ないんだからタクシーで帰りな、はい。これ使って」
持っていた、ありったけのお札を渡す。
佳代ちゃんの性格なら、きっと連絡をしてくる。金額に気づく前に、早く別れれば、また会える。
なるだけ平然を装って、見送った。
家に帰ってから、画面を見続け、小一時間。予想通り、メッセージは届いた。……良かった。
鉛のような人体を、布団に預け、なんと返事をしようか考える。違和感がないように、接点を作りたい。
――明日、俺の家これる?交通費と欲しい分は、そのお金から引いていいから。と打ち込み、伝えた。
しばらくしてから、了承の文が送られてきて、ホッと息を吐く。
ついでに、仕事を休む連絡を入れた。
欠勤なんていつぶりだろう……。
写真ホルダーを開き、保存していたやり取りを見ていく。
カーテンの隙間から入った光に顔を上げると、いつの間にか朝をむかえていた。
佳代ちゃんは、今何をしてるのかな。
まだ寝てるのかな。
今日会うというのに、既に恋しい。
画面を凝視して、また時間が経った。スマホが振動して、通知がくる。
――十七時くらいに伺いますね。
ドクン。
心臓が、口から出るかと思った。
すぐにアプリを開く。
指が震えた。ぐるぐると悩んで、全然思いつかなくて、やっと、――わかった。待ってるね。と、答えた。
けれど、返事がこない。読んですらもらえない。
冷や汗が止まらない。
――昨日の傷大丈夫?
――やっぱり、心配だから迎えに行ってもいい?
――今日も、昨日の女の子といる?
――既読付けて欲しい
タップ音だけが、耳に響く。
ひたすらおくって、返事が来たのは、何十件と、送信した後だった。
授業中で見れなかっただけだと分かり、肩の力が抜ける。呼吸が楽になった。
俺は、無意識に、通話ボタンを押していた。
自分でかけたのに、出てくれたことに驚いた。
「……もしもし?佳代ちゃん?」
――あ、はい……
小さな声を聞いて、頬が緩む。
「ご、ごめんね。急に。どうしても不安だったんだ。声も、聞きたくて」
――えっと、大丈夫です……。すみません、次も授業あるので、また
会話を終わらせようとするので、疑問を抱き、引き止めた。
「今、誰かといる?昨日の女の子とか、男友達とか……」
――いませんけど……急にどうしたんですか?
「あ、ううん。いないならいいんだ。」
俺が知らない間、知らない誰かと一緒にいるなんて、耐えられないと思い、尋ねたが、杞憂だった。
電話を切ってからも、夢を見てる気分だった。
佳代ちゃんがくるんだから、部屋を綺麗にしないと。
そう考え、散乱した服をまとめ、床を掃除し、机の上を片付けた。
近くの有名なスイーツ屋さんにも行き、好き嫌いがあるかもしれないから、シンプルなショートケーキを買った。
服装も新しくしようとしたが、似合わないと思われたらいやなので、いつもの格好に落ち着いた。
時間が余り、やることがなくなったあと、俺は椅子に座っていた。
膝の上で握った拳に、力がこもっていく。空気が重たくて、体が動かない。
なにか違うことを考えようと、思考を巡らせたが、最終的にいきつくのは、佳代ちゃんのことだった。
今までのが全て、俺の妄想だったらどうしよう。もしかしたら、家にこないかもしれない。さっき話したのも、全部嘘で……。
強く瞼を閉じた時、ピンポーンと、音が響いた。
蹴飛ばすように立ち上がり、モニターを見る。
「佳代ちゃん?」
「あ、こんにちは」
息を飲む。
声が上ずりそうになった。
番号を伝え、部屋で待ってる間、廊下をウロウロと歩いた。
インターホンがなり、ゆっくりと扉を開ける。
「黒金さん――」
「……っ、ほんもの」
伝えるはずなかったセリフが、飛び出た。
最悪だ、やり直したい。
次にかける言葉を探していると、何かを渡される。
「これ……!残った分が入ってます。ありがとうございました」
完全に忘れていた俺は、紙幣の入った封筒を手に取った。
すると、佳代ちゃんは、来た道を戻ろうとして行く。
「ケーキ!」
引き止めたくて、咄嗟に叫ぶ。
「け、ケーキがあるんだ、えっと、実は、知人からもらって、良かったら、食べていかない……?あ、お、おれ一人じゃ食べきれなくて。ね、お願い」
逃がさないための言い訳だった。
本当は、佳代ちゃんのために用意したものなのに。
「こ、困ってるんだ、佳代ちゃんに食べてもらえたら、すごく助かるんだけど」
そうお願いすれば、断られないことは分かっていた。
離さないためなら、嘘をつくしかなかった。
結果的に、佳代ちゃんは今、俺の前にいる。
どうぞとスイーツを提供すれば、表情を明るくした。
「はい……ショートケーキなんだけど」
「ショートケーキ。あ、いちご」
「もしかして、嫌いだった?」
「あ、違います!」
「そ、そっか。なら良かった。じゃあ、逆に好きってこと?」
じっと見つめ、質問すると、「はい」とはにかんだ。
「いちご……好きなんだ。……分かった。教えてくれてありがとう」
今度、いちごのお菓子とかをプレゼントしよう。喜んでくれるかな。
沈黙が流れ、意を決して、口を開いた。
「今日も、昨日の女の子といたの?」
「玲奈のことですか?……今日は、授業被らなかったので、私一人でいましたけど」
「……もしかして、その子と、恋愛関係にあったり、する?」
ずっと気になっていた。最悪の可能性。否定してくれと、固唾を呑む。
「違いますよ」
顔を上げる、誤魔化してるようには見えなかった。
「そっか、でも、すごい気にかけてるよね」
「まぁ、親友なので」
いちごを咀嚼する佳代ちゃんの、唇を凝視する。
果汁によって、ぷるんと光っていた。赤く染まっていて、紅を塗っているようで。
「俺のさ」
もし、俺が彼氏になったら、そこに……。
「お、俺の性格、どう思う?」
「……気を使ってくれたり、優しくて、いい人。だと思ってます」
「そ、そっか!じゃあ、俺のこと、タイプ?」
「はい」
佳代ちゃんの全部を、手に入れられるかもしれない。
「お、俺ね、佳代ちゃんのことが、す、好きなんだ……」
喋りだしたら、止まらなかった。
「あのね……好きって気づいたのは最近なんだけど、今までの子とは違って、か、佳代ちゃんだけなんだ。佳代ちゃんは、俺のこと、どう思ってる?」
呼吸もしづらくて、言葉も噛んでしまったけれど、気にしてられなかった。
なかなか答えてくれないので、名前を呼ぶ。
不安げな視線が向けられ、声が届く。
「えっと……、私も、好きです」
泣きそうだった。いや、泣いてたかもしれない。
佳代ちゃんに抱きつき、気づかれないよう、目元を拭う。
「え?」
「あ、ごめん!う、嬉しくって」
「そ、そうですか……」
「じゃあ……、き、今日は、俺の家に泊まってく?」
「なんでですか?」
気持ちが高ぶったまま提案してしまった。体温が下がっていく。
不誠実だと思われて、振られてしまう。
「ご、ごめんね、いきなり過ぎたよね、テンション上がっちゃって、ごめんね、嫌いにならないで」
「だ、大丈夫ですよ。なりませんから」
「ありがとう……」
佳代ちゃんの手を握る。
こうやって触れるのも、もっと先も、彼氏になったから、できるんだ。
嫌われたくないから、ゆっくりと、進めていこう。
「お、俺の名前、黒瀬相馬って、言うんだ。黒金ショウは、源氏名で、だから……二人の時は、 相馬って……呼んで欲しい」
佳代ちゃんに似合う服を買って、デートをして、結婚して。テレビを見ながら、何気ない会話をして。
俺の初恋は、佳代ちゃんなんだよって言って。
あぁ楽しみだなぁ。
なんて幸せなんだろう。
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