聖女じゃなかったので、カフェで働きます

風音悠鈴

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1.ホワイトクリスマスに、異世界へ

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12月25日。

外は雪がちらついて、白いクリスマス。
部屋の中は、誰もいない。
私、土元藍里は、テーブルの上に置いたホールショートケーキを一人で眺めていた。
フォークを刺してクリームを少しすくう。

甘い。

でも、心は全然甘くならない。
大学2年生、友達ゼロ、彼氏ゼロ。講義以外は基本引きこもり。
クリスマスに一人でケーキを食べるなんて、ドラマの悪役みたいだなって思う。

「…溶けちゃえ」

ケーキのクリームが少し溶け始めてる。
私もこんな風に溶けて、消えちゃえばいいのに。

その瞬間。
部屋がまぶしく光った。

「えっ…?」

目を開けると、そこはもう私の部屋じゃなかった。
大理石の床、豪華なシャンデリア、天井画。
まるで中世の宮殿みたいな場所。
周りにはローブを着た人たちがいて、私と、もう一人の女の子を囲んでいる。

「成功だ!!」

誰かの声。
喜びの声。
私は呆然と立ったまま。
隣の女の子——高校生くらいかな?——が目を輝かせてる。

「きゃー! 異世界召喚!? 私、聖女!?」

…え、なにこの子。
テンション高すぎ。

「2人!? 古文書には毎回1人だったと…」

ローブの男が困惑してる。
そして、静かに歩み寄ってきたのは、銀髪の超美少年。
無表情で、冷たい青い目。

「ようこそいらっしゃいました。私、上級魔導師のレイと申します。」

声も低くてクール。
隣の女の子が「かっこいいー!」ってキャーキャー言ってるけど、私はただ固まってる。

(…私、なんでここにいるの?)

レイさんが説明を始めた。
ここはオーギュスタン国。
聖女を召喚して、国を魔物から守るための儀式。
聖女は光魔法を使える存在。
今までいつも1人だったのに、今回は2人。
だから、テストをするんだって。

まず、私と一緒に召喚された天青穂乃香ちゃんが右手を前に。

「光の玉をイメージして」

…ポンッ。
彼女の手に、小さな光の球が浮かんだ。
周りが「おおー!」って拍手。
穂乃香ちゃん、キラキラ笑顔。

「やっぱり私が聖女でしたー!」

次、私の番。
「アイリ様も、どうぞ。」

…イメージする。
光の玉。
光の玉…。

何も出ない。
手はただ震えてるだけ。
レイさんの目が、少し冷たくなる。

「…皆さんも見た通り、聖女はホノカ様です。」

ワァァーって歓声。
私は、ただ立ち尽くす。

(…予想通りだよね。私が聖女なわけない。)

そのあと、部屋に案内された。
向かいの部屋で、穂乃香ちゃんがレイさんたちに囲まれてる。

私は一人。
王立騎士団のサミュエルさんとトマさんって人たちが来て、選択肢を説明してくれた。

「1. このまま城に残って働く。2. 外に出て働く。」

私は迷わず、
「外で働きます。」
だって、ここにいたら毎日「聖女じゃない」って思い知らされるだけだもん。

日本じゃバイトしてなかったけど、興味はずっとあった。
運命だって思うことにした。
ポジティブじゃなきゃ、異世界で生きていけないよね。



翌朝。
侍女さんにドレスを勧められたけど、
「地味なのがいいです…」
って頼んで、紺のスカートとブラウスに。
動きやすいし、自分らしい。

朝食はステーキ。
贅沢すぎて、ちょっと笑っちゃった。

(異世界、食べ物だけは最高かも)
そして、城を出た。

荷物はない。
お金は少しだけ支給された「マーチ」っていう通貨。

街に出て、働き口を探す。
カフェ、宿屋、雑貨屋…

「すみません、アルバイト募集中ですか?」
「…今は大丈夫です」

15回連続で断られた。
でも、みんな優しい。
「がんばってね」「また来て」って笑顔で言ってくれる。

(…この世界、意外と悪くないかも)

日が傾きかけて、疲れ果てて大通りを歩いてた。
少し外れた路地に、可愛い看板のカフェ。

「カフェリテール」

暖かい灯りが漏れてる。
ふと、店先で女性が立ってた。
優しそうな笑顔。

「ねぇ、働き口を探してるというそこのキミ!」
「…私、ですか?」
「そうだよ。キミ、私の店で働く気はない?」

心臓がドキンって鳴った。

「あります!!」

声が上ずっちゃった。

「よし、じゃあ決まりだね。私はリノ。よろしく。」
「土元藍里です…アイリって呼んでください。よろしくお願いします!」

リノさんに連れられて店に入る。
木の温もり、コーヒーのいい匂い。
カウンターの向こうに、キッチン。
2階に私の部屋。
日が差し込んで明るい、シンプルでおしゃれな空間。

「ここ、好き…」

思わず呟いた。
リノさんが笑う。

「良かった。じゃあ、制服は明日までに準備するね。今日は休業日だから、新メニュー作ろう!」
「私も…いいんですか?」
「当たり前だよ!」

キッチンに立つ。
日本と変わらない構造。
冬だから、雪をイメージしたパフェ。
バニラアイス、生クリーム、メレンゲ。
白くてふわふわ。
でも、何か足りない。
冷凍庫を開けると…冷凍マスカット。
緑の宝石みたい。
これをトッピング。
華やかさプラス、食感もいい。

「できた…!」

リノさんに持っていく。
一口食べて、目を見開く。

「すごい…! 見た目も味も最高! アイリちゃん、天才!」
「え、そんな…」

照れちゃう。

「名前は?」
「…雪の中に緑の宝物みたいだから、『ちょっと小さな宝箱~snow Jewel~』でどうですか?」

リノさん、にっこり。

「snow Jewelでいいんじゃない? 明日からメニュー入りだよ!」

その夜、部屋でベッドに横になる。
異世界に来て3日目。
聖女じゃなかった。

でも、今日作ったsnow Jewelをリノさんが喜んでくれた。
誰かのために何か作って、笑顔が見られる。
それだけで、胸が温かくなった。
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