聖女じゃなかったので、カフェで働きます

風音悠鈴

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4.お出かけ当日、スイーツパラダイスへ

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土曜の午後。
空は少し曇ってるけど、風が心地いい。

私はリノさんに「行ってきまーす!」って手を振って、カフェリテールを出た。
今日は制服じゃなくて、クローゼットにあったシンプルなワンピース。
紺色で動きやすいやつ。
鏡の前で何度も髪を直したけど、結局ポニーテールにしちゃった。

(……デートじゃないよね。ただの参考だよね。でも、ドキドキが止まらない……)

城の近くまで歩いて、約束の『フルーツパラダイス』に着いた。
外観は可愛くて、入口にフルーツの飾りがたくさん。
中に入ると、甘い香りがふわっと広がる。
窓際の席に、サミュエルさんが座ってた。
今日はフードなし、メガネもなし。
騎士団の制服じゃなくて、普通のシャツにベスト。
水色の瞳がこっちを見て、軽く手を上げる。

「お待たせしました……」
「いや、俺が早かった。座って」

向かいの席に座ると、メニューが渡される。

「裏メニューがあるって聞いたけど……」

サミュエルさんが店員を呼ぶ。

「いつもの、2つ。あと紅茶も2つ」

店員さんが「かしこまりました」って去ってく。

私はメニューを見て、
「あれ? 新メニュー、一覧に載ってないんですけど……」

サミュエルさんが小さく笑う。

「ああ、今回の新メニューは裏メニューだからな。」

しばらくして、パフェが運ばれてきた。
いちごが山盛りで、生クリームとバニラアイスが層になってて、下にパウンドケーキが入ってる。
フルーツの色が鮮やかで、見た目からもうおいしそう。

「わぁ……最高」

一口食べると、甘酸っぱいいちごとクリームのまろやかさが広がって、
パウンドケーキのしっとり感がアクセント。
飽きない味。

「これ、すごい……下のパウンドケーキがいい仕事してますね」

サミュエルさんが頷く。

「だよな。甘すぎず、食感がいい。」
「サミュエルさん、甘いもの好きなんですね」
「騎士なのに、って顔してるな」
「い、いえ! ただ……意外で」

サミュエルさんが紅茶を一口飲んで、

「戦場や訓練の後、甘いものが欲しくなる。
でも、城の菓子は味が単調でな……
君のsnow Jewelに出会ってから、初めて『これだ』って思った」

(……私の作ったものが、そんな風に思ってもらえてたんだ)

顔が熱くなって、俯いちゃう。
サミュエルさんが静かに続ける。

「召喚の日に、君が『外で働きます』って言ったのを聞いて……
心配だった。異世界に来たばかりで、何も知らないのに、一人で」
「え……」
「だから、様子を見に来た。
それに、君が作ったsnow Jewelの噂を聞いたら、行かずにはいられなかった」

(あの時から……気にかけてくれてたんだ)

目が熱くなる。

「ありがとうございます……私、聖女じゃなくて、いらないんだって思ってたけど……
今は、この世界で働けて、暮らせてよかったって、心から思います」 

サミュエルさんがまっすぐ見て、

「君はいらなくなんかない。
俺にとっては……特別だ」 

(特別……?)

心臓が鳴りすぎて、言葉が出ない。
サミュエルさんが少し照れたように目を逸らす。

「…急に変なこと言って悪かった。
ただ、君のスイーツが、俺の日常を変えた。それだけだ」

食べ終わって、外に出る。
夕陽がオレンジ色に街を染めてる。

「今日はありがとうございました。すごく参考になりました」
「また、行きたいところがあったら誘う」 

サミュエルさんが軽く頭を下げる。

「え、ええ! いつでも……!」

別れて、カフェリテールに戻る道中。
足取りが軽い。

(今日のいちごパフェ、インスピレーション湧いたかも……
次はフルーツをたっぷり使った和風スイーツとか……)

でも、それ以上に、胸が温かい。
サミュエルさんの「特別だ」って言葉が、頭の中でリピートしてる。
店に戻ると、リノさんがニヤニヤしながら待ってた。

「どうだった? デート?」
「ち、違いますって! 参考ですよ!」
「ふふっ、顔がにやけてるわよ」

夜、部屋でベッドに座って、今日のことを思い出す。
フルーツの甘さ。
サミュエルさんの優しい目。
……もっと知りたい。
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