聖女じゃなかったので、カフェで働きます

風音悠鈴

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3.常連さんと、少しのドキドキ

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朝、リノさんがキッチンで生地をこねてる音で目が覚めた。
もう1週間が経った。
毎日同じリズムで、でも毎日が少しずつ新鮮。
接客のコツがわかってきたし、常連さんたちの顔も覚え始めた。
近所のおばさん、おじさん、若いカップル……
そして、最近毎日来るようになった、あの人。
サミュエルさん。
最初に来た日から、ほぼ欠かさず夕方頃に現れる。
いつもフードを被って、メガネをかけて、顔を隠すようにしてるけど、カウンターに座ったら必ずフードを取る。
そして、必ず
「snow Jewel、1つ」


今日もカランカランとベルが鳴った。

「お待たせしました、snow Jewelです」

トレイを置くと、サミュエルさんが小さく頷く。

「ありがとう」

スプーンですくって、一口。

「……今日も完璧だな」

短い言葉だけど、目が少し優しくなる。
それだけで、胸がきゅってなる。
最初は「騎士様がなんで毎日?」って思ってたけど、最近はそれが当たり前になってきてる。
リノさんが小声で囁く。

「アイリちゃんのファンみたいね。あの人、毎日同じ時間に来るわ」
「そんな……ただの常連さんですよ」

って返すけど、心の中では

(……気にかけてくれてるって、あの時言ってたよね。召喚の日のこと、覚えててくれたんだ……)

夕方、店が少し落ち着いた頃。
サミュエルさんがいつもの席から立ち上がって、カウンターに近づいてきた。

「アイリさん、少し話してもいいか?」
「は、はい……!」

心臓が急に速くなる。

リノさんが「私、奥で片付けしてるね~」ってニヤニヤしながら去っていった。

(え、リノさん…!)

サミュエルさんがカウンター越しに、少し声を低くする。

「最近、城の近くに新しいカフェができたんだ。フルーツをたくさん使ったスイーツが評判で……」
「へえ、そうなんですか?」
「裏メニューがあるらしい。興味あるか?」
「……興味あります!」

スイーツの話になると、つい前のめりになっちゃう。
サミュエルさんがくすっと笑う。

「じゃあ、今週末、一緒に行ってみないか? 新メニュー担当の君なら、参考になると思う」

……え?
一緒に?
デート……?
いや、違うよね。ただの参考だよね。
でも、心臓がうるさい。

「えっと……行きたいです。でも、私みたいなのが行っていいんですか?」
「君じゃなきゃ意味がない」

サミュエルさんがまっすぐ目を見て言う。

「君の作るsnow Jewelを食べてから、他のスイーツが物足りなくなった。
だから、君と一緒に見てみたいんだ」

(……君と、一緒に。
そんな風に言われたら……)

「わかりました。行きましょう」

声が少し震えた。
サミュエルさんが満足そうに頷く。

「じゃあ、土曜の午後。店で待ってる」
「はい……楽しみです」

サミュエルさんが店を出て行った後、
私はカウンターに突っ伏した。

「はぁ……」

顔が熱い。

リノさんが奥から出てきて、
「アイリちゃん、顔真っ赤よ? デートのお誘い?」
「ち、違います! ただの……参考ですよ!」
「ふふっ、そういうことにしとくわ」

夜、部屋でベッドに転がって、天井を見つめる。
今週末、サミュエルさんと二人でカフェに行く。
騎士団長と、異世界カフェ巡り。
……これ、夢みたいだ
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