聖女じゃなかったので、カフェで働きます

風音悠鈴

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6.城の庭園と、白い花の約束

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来週の休み当日。

朝からドキドキが止まらなくて、何度も鏡の前で髪を直した。
結局、ポニーテールに白いリボンをつけて、クローゼットのワンピースを着た。

リノさんが「可愛いわよ~! 頑張ってね♡」って送り出してくれたけど、「デートじゃないんですってば……!」って言いながら、顔が熱い。
約束の時間に、カフェリテールの前にサミュエルさんが来てくれた。
今日は騎士団の制服じゃなくて、紺のコートに白いシャツ。水色の瞳が朝陽に映えて、いつもより優しく見える。

「おはよう、アイリさん」
「おはようございます……お待たせしました」

サミュエルさんが軽く手を差し出す。

「馬車で城まで行く。乗って」

馬車の中は静かで、窓から街の景色が流れる。
サミュエルさんが隣に座ってて、距離が近い。

「緊張してる?」
「え、わかります……?」
「手が少し震えてる」

サミュエルさんがそっと私の手を包む。
温かくて、大きくて。

「大丈夫。今日はただ、庭園を見せるだけだ」

(……ただ、じゃないよ。こんなにドキドキしてるのに)

城に着いて、裏門から庭園へ。
白い花が一面に咲いてて、雪みたいにふわふわ。風が吹くと、花びらが舞って、私の髪に落ちる。

「これが……snow Jewelみたいな花?」
「そうだ。名前は『スノーフレークフラワー』。光が当たるとキラキラ光るんだ」

サミュエルさんが一輪摘んで、私の髪に挿してくれる。
指先が耳にかかって、どきっとする。

「似合う」
「……ありがとうございます」

顔が熱くて、下を向いちゃう。
サミュエルさんが静かに続ける。

「召喚の日のこと、覚えてる?」
「はい……光の玉が出なくて……」
「あの時、君が『外で働きます』って言った顔が、忘れられなかった。一人で異世界に来て、何も知らないのに、迷わず外を選んだ。
強いな、と思った。
それに……寂しそうだった」

胸がきゅっと締まる。

サミュエルさんが花びらを指でつまんで、
「だから、気にかけてた。
毎日カフェに通ううちに、それが『ただ気にかける』じゃなくなった。
君の笑顔が、君の作るスイーツが、君自身が……
俺にとって、かけがえのないものになった」

(かけがえのない……特別?)

言葉が胸に染みるけど、急に疑問が湧く。

(特別って、どういう意味……?
守りたい、って……妹みたいに?)

でも、聞けなかった。
まだ、怖くて。

「ありがとうございます……」

それだけ言って、笑顔を作った。
庭園の白い花が、風に舞う。
私たちの間に、静かな時間が流れる。

(……この瞬間が、ずっと続けばいいのに)

帰りの馬車の中。
サミュエルさんが私の手を握ったまま。

「また、来てくれるか?」
「はい……いつでも」
「次は、俺が君の作った新メニューを食べたい」
「わかりました。絶対、おいしいの作ります!」

カフェに戻って、リノさんに報告。

「庭園、綺麗だった……」
「ふふっ、それだけ?」
「……それと、かけがえのないって言われました」

リノさんが目を輝かせる。

「それ、すごいじゃない! 藍里ちゃん、特別扱いよ」
「特別……」

私は小さく呟いて、
「でも、まだよくわからなくて……」

リノさんが優しく頭を撫でる。

「考えすぎちゃう時は、仕事に打ち込むのが一番!新メニュー、がんばってね」

夜、部屋で髪に挿した白い花を眺める。
スノーフレークフラワー。
snow Jewelみたい。

(……特別って、どういう意味?
考えてもわからない。
だったら、新作スイーツに集中しよう。
サミュエルさんに食べてもらいたいメニューを、もっともっとおいしく作って……)
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