聖女じゃなかったので、カフェで働きます

風音悠鈴

文字の大きさ
8 / 9

8. 付き合ってからの、初めての朝

しおりを挟む
付き合ってから、初めての朝。
カフェリテールの2階の部屋で目が覚めた瞬間、昨日までのことが夢じゃなかったって実感した。
サミュエルさんが「好きだ」って言ってくれたこと。
私が「私も好きです」って返したこと。
そして、「付き合いたい」って言葉を交わしたこと。
ベッドから起き上がって、鏡を見る。
頰が少し赤くて、目がキラキラしてる。

(……これが、恋人になったってこと?)

まだ実感が湧かない。
だって、サミュエルさんは騎士で、私は異世界から来たただのカフェ店員。
特別って言葉が嬉しかったけど、心のどこかで「本当に私でいいの?」ってざわつきが残ってる。

下に降りると、リノさんがすでにキッチンにいて、
「おはよう、藍里ちゃん! 昨日の夜、どうだった?」

ニヤニヤが止まらない顔。

「リノさん……!」

私は慌てて周りを見回すけど、店はまだ開店前。

「二人きりで告白されて、付き合っちゃったんでしょ?
顔見てればわかるわよ~♡」
「う、うん……でも、まだ信じられないっていうか……」

リノさんがコーヒーを淹れながら、
「ゆっくりでいいのよ。
恋って、急に全部が変わるわけじゃないんだから。
今日も新メニュー作って、常連さんを癒してあげて」

開店準備をしながら、胸が温かくなる。
サミュエルさんが今日も来るって思うだけで、接客のモチベーションが上がる。
snow Jewelの在庫を補充して、昨日完成させたフルーツあんみつパウンドをショーケースに並べる。

(これ、今日一番に食べてもらいたいな……)

午後を過ぎて、いつもの時間。
カランカラン。
サミュエルさんが入ってきた。
今日はフードなし、メガネもなし。
騎士団の制服の上に軽いコートを羽織ってる。

「お待たせしました……」

私はトレイを持って、カウンターへ。

「今日はフルーツあんみつパウンドです。」

サミュエルさんが席に座って、

「ありがとう。
昨日は、急に言って悪かったな」
「いえ……私こそ、泣いちゃって……」

サミュエルさんが小さく笑う。

「泣いてる君も、可愛かった」
(……可愛いって!?)

顔が一気に熱くなる。

サミュエルさんが一口食べて、
「やっぱり最高だ。
君の作るものは、俺の心を癒す」 

リノさんが奥から「今日は私が接客するから、二人は奥でゆっくりしてて~」って。 

(リノさん、察し良すぎ……!)

私たちはカウンターの奥の小さなテーブルへ。
二人きり。

サミュエルさんが紅茶を飲みながら、
「これから、毎日来るのは変わらない。
でも……少し、変わりたいことがある」
「変わりたい……?」
「今までは、常連として来てた。
これからは、恋人として来たい」

(恋人として……)

胸がきゅんってなる。

サミュエルさんが私の手を握って、
「アイリ、俺の彼女だろ?」
「は、はい……!」

声が上ずっちゃった。
サミュエルさんが優しく微笑む。

「なら、名前で呼んでいいか?」
「え……?」
「アイリ」

初めて、ちゃんと名前で呼ばれた。
心臓が鳴りすぎて、言葉が出ない。
サミュエルさんが私の手を強く握る。

「俺はサミュエルでいい。
これからは、そう呼んでくれ」
「サミュエル……さん」
「さん、はいらない」
「さ、サミュエル……」

照れくさくて、俯いちゃう。
サミュエルさんがくすっと笑って、

「可愛いな」

(……もう、死ぬ……)

夕方、店が閉まる頃。
サミュエルさんが立ち上がって、

「今日はこれで帰る。
明日も来るから」
「待ってます……サミュエル」

名前を呼ぶだけで、胸が熱くなる。
サミュエルさんが私の額に軽くキスをして、
「じゃあな、アイリ」
出て行った。

リノさんが奥から飛び出してきて、
「額キス!? 藍里ちゃん、進展早すぎ!」
「リノさん……!」

私は顔を覆って、
「まだ信じられない……本当に、私でいいのかな」

リノさんが優しく抱きついて、
「いいのよ。
サミュエルさんが選んだんだから。
これから、もっと甘い毎日になるわよ♡」

夜、部屋でベッドに座って、額に触れる。
まだ、温かさが残ってる。
(……恋人になったんだ)
でも、心のどこかで小さなざわつきが。
(本当に、私みたいなのが……?
でも、サミュエルが選んでくれた。
信じたい)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢だけど、私としては推しが見れたら十分なんですが?

榎夜
恋愛
私は『花の王子様』という乙女ゲームに転生した しかも、悪役令嬢に。 いや、私の推しってさ、隠しキャラなのよね。 だから勝手にイチャついてて欲しいんだけど...... ※題名変えました。なんか話と合ってないよねってずっと思ってて

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

モブが乙女ゲームの世界に生まれてどうするの?【完結】

いつき
恋愛
リアラは貧しい男爵家に生まれた容姿も普通の女の子だった。 陰険な意地悪をする義母と義妹が来てから家族仲も悪くなり実の父にも煙たがられる日々 だが、彼女は気にも止めず使用人扱いされても挫ける事は無い 何故なら彼女は前世の記憶が有るからだ

悪役令嬢、隠しキャラとこっそり婚約する

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢が隠しキャラに愛されるだけ。 ドゥニーズは違和感を感じていた。やがてその違和感から前世の記憶を取り戻す。思い出してからはフリーダムに生きるようになったドゥニーズ。彼女はその後、ある男の子と婚約をして…。 小説家になろう様でも投稿しています。

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月 瑠々奈
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

婚約破棄された伯爵令嬢ですが、国の経済を掌握しました

鍛高譚
恋愛
「経済を握る者こそ、世界を動かす――」 前世、日本の証券会社で働いていた**瑞穂紗羅(みずほ さら)**は、異世界に転生し、サラ・レティシア伯爵令嬢として生まれ変わった。 貴族社会のしがらみや婚姻政策に巻き込まれながらも、彼女はひそかに動き始める。 「まずは資金を確保しなくちゃね」 異世界の為替市場(FX)を利用し、通貨の価値変動を読み、巨額の富を得るサラ。 次に狙うは株式投資――貴族の商会やギルドに出資し、国の経済に食い込んでいく。 気づけば彼女は、両替所ネットワークと金融システムを構築し、王国の経済を裏から支配する影の実力者となっていた。 そんな中、彼女に公爵令息との婚約話が舞い込む。 しかし、公爵令息は「格下の伯爵令嬢なんて興味がない」と、一方的に婚約破棄。 それを知った公爵は激怒する―― 「お前は何も分かっていない……! あの女は、この国の経済を支配する者だぞ! 世界すら掌握しかねないのだ!」 サラの金融帝国の成長は止まらない。 貴族たちは彼女にひれ伏し、国王は頼り、王太子は取り込もうとし、帝国は彼女の影響力に戦慄する。 果たしてサラは、異世界経済の頂点に立ち、さらなる世界の覇権を握るのか――?

婚約者が不倫しても平気です~公爵令嬢は案外冷静~

岡暁舟
恋愛
公爵令嬢アンナの婚約者:スティーブンが不倫をして…でも、アンナは平気だった。そこに真実の愛がないことなんて、最初から分かっていたから。

春告竜と二度目の私

こもろう
恋愛
私はどうなってもいい。だからこの子は助けて―― そう叫びながらも処刑された王太子の元婚約者カサンドル。 目が覚めたら、時が巻き戻っていた。 2021.1.23番外編追加しました。

処理中です...