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幸せのオムライス

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第二章 ヤマネコ商会、爆誕!:新たな拠点探し

第84話 激安宿は危険な香り!? 安物買いの銭失いは御免です

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 メインストリートの喧騒が嘘のように、急に空気が淀んだ。

 道幅は半分以下になり、日の光も届きにくい。道の両脇に立つ建物は、どれも薄汚れている。
 そして、鼻をつく、むっとするような匂い。
 ……なんだろう、これ。何かよく分からないものが腐ったような、不快な匂い。

『コトリ、ここ、嫌な匂い』

 コロが、私の足元で不安そうに鼻を鳴らす。
 うん、君の優秀な鼻には、もっとダイレクトにこのヤバさが伝わっているんだろうね。私も、第六感が全力で「回れ右しろ」と警報を鳴らしているよ!
 その、どんよりとした路地の突き当たりに、その宿屋はあった。

『銀のゴブレット亭』。

 看板の文字はかすれ、ゴブレットの絵は、もはやただの黒いシミにしか見えない。
 扉はささくれ立ち、窓ガラスは蜘蛛の巣が張っている。昼間だというのに、中からは酔っ払いの怒号と、何かが割れる派手な音が聞こえてきた。

(………………撤収!)

 私は、心の中で即断即決。

 踵を返し、一目散にその路地から脱出した。

(ダメだ、ダメだ! あそこは絶対にダメ! 検索結果の『理由は聞くな』、めちゃくちゃ正直だったじゃないか! むしろ、親切だったとすら言えるレベル!)

 一泊大銅貨2枚(約2,000円)という破格の安さは、確かに魅力的だ。
 でも、あの環境は、安全という最も重要な経営資源を著しく損なう。
 前世で学んだリスクマネジメントの基本。「安物買いの銭失い」。コストカットも度が過ぎれば、ただのリスクにしかならないのだ。

 もしあそこに泊まったら、夜中にチンピラに絡まれる確率は80%超え。南京虫に全身を刺される確率95%。そして、朝起きたら、なけなしの財産が全部なくなっている確率、驚異の120%だ! なぜか確率が100%を超えるくらいに、ヤバい!

(うん、あそこは事業用地としては完全に不適格。評価額、マイナス1億リントだわ)

 一人、脳内で不動産鑑定士ごっこをしながら、私は次の候補地へと向かう。

 二軒目の候補は、『旅人の羽根亭』。
 冒険者ギルドの近く、鍛冶屋や武具屋が立ち並ぶ、少し物騒だけど活気のある通りにあった。
 建物は、頑丈な木材で組まれた、質実剛健といった感じの二階建て。
 看板に描かれた鳥の羽根の絵も、なかなか味がある。

(うん、さっきの宿よりは100倍マシな外観ね。でも、やっぱりこの暑苦しい雰囲気は、落ち着いてビジネスプランを練るには不向きかしら……)

 私が入口の前で様子を窺っていると、中から、ぎぃ、と扉が開き、エプロンをつけた、恰幅のいい女将さんが出てきた。
 歳は40代くらいだろうか。その太い腕は、そこらの冒険者よりよっぽどたくましい。

「ん? なんだい、嬢ちゃん。うちになんか用かい?」

 サバサバとした、威勢のいい声。でも、その目には、面倒見の良さそうなお母さんのような、温かさがあった。

「あの、すみません。いくつかお聞きしたいのですが、子供一人でも泊まれますか?」

「一人でかい? まあ、金さえ払えば誰だって泊めてやるさ。一泊、食事付きで大銅貨3枚。前払いだよ」

「それと、この子も一緒なんですけど……」

 私が足元のコロを示すと、女将さんは、むむ、と少しだけ眉をひそめた。

「犬っころかい。うちは客は選ばない主義でね。たとえ獣人だろうが、角の生えた魔族様だろうが、金さえ払えば泊めてやるさ。だが、ペットは話が別だよ。他の客がうるさいからねぇ」

(……ん? ちょっと待って、今、なんて言った?)

 私の思考が、一瞬だけフリーズする。
 獣人……は、ギルドで見た猫耳のお姉さんのような人のことだろう。
 でも、その次。
 聞き捨てならない単語が、さらりと混じっていなかっただろうか。
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