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幸せのオムライス

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第二章 ヤマネコ商会、爆誕!:新たな拠点探し

第85話 冒険者の宿で衝撃の事実。魔族って普通にいるんですか!?

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「あ、あの……すみません」

 私は、思わず、おそるおそる女将さんに聞き返していた。

「今、『魔族』って……言いました?」

 私の質問に、女将さんは、きょとん、とした顔で私を見る。

「ああ、言ったが、それがどうしたんだい?」

「え、いや、その……魔族って、人間と敵対しているとか、そういうのじゃ……ないんですか?」

 私の問いに、今度は女将さんの方が、眉をひそめて怪訝な顔をした。

「敵対? はて、なんの話だい。二百年ほど前に、南の大陸でちょいと大きな戦争があったとは聞くがね。今じゃ、普通に商人や傭兵として、この街にもたまにやって来るじゃないか。まあ、見た目が怖いからって、泊めるのを嫌がる宿が多いのは確かだがね」

(にひゃくねんまえ!? 普通に交易してる!?)

 私の脳内は、大混乱だ。
 ゲームや小説で刷り込まれた、「魔王に率いられ、人類の存亡をかけて戦う邪悪な種族=魔族」という、あの鉄板の常識が、ガラガラと音を立てて崩れていく。
 この世界では、魔族は「ちょっと見た目が怖くて、昔ちょっと戦争したこともある、外国の人」くらいの認識なのかもしれない。

(うわー……マジか。異世界って、そういうところは全然ゆるくないんだ……じゃなくて、逆にゆるいのか!? どっちだ!?)

 そして、女将さんの言葉の裏にある、もう一つの事実。

 泊めるのを嫌がる宿が多い。

 それはつまり、獣人さんや魔族さんが、この人間社会で、必ずしも歓迎されているわけではない、ということだ。
 ギルドに色々な種族の人が集まっていたのは、実力さえあれば種族を問わないあそこが、彼らにとって数少ない「居場所」になっているからなのかもしれない。

(……この人、見た目以上に、ずっと格好いい人だ)

 目の前の、肝っ玉母さんみたいな女将さん。
 彼女の「泊めてやるさ」という言葉は、ただの商売文句じゃない。この街の、もしかしたらこの国の、歪んだ常識に対する、彼女なりの矜持(プライド)なのかもしれない。

 私の、女将さんに対する評価が、ぐんと上がる。
 でも、それと同時に、この宿の「リスク」も、はっきりと見えてしまった。
 色々な種族を受け入れるということは、それだけ、種族間のトラブルが起こる可能性もあるということだ。

 まさに、人種のるつぼ。活気があるといえば聞こえはいいが、一歩間違えれば、いつ噴火してもおかしくない火山のような場所。

『クゥン……』

 私の足元で、コロが不安そうな、甘えた声を出す。
 私が真剣な顔で黙り込んでしまったのを、心配してくれているらしい。
 その声に、女将さんは一瞬だけ表情を緩めたが、すぐに腕を組んで唸った。

「……まあ、静かにしていられるってんなら、考えなくもないがね。ただし、もし他の客から苦情が来たら、あんたたちまとめて叩き出すからね! それでもいいんなら、泊めてやってもいいよ」

(うーん、『条件付き』か。それに、この女将さんの気風の良さは魅力的だけど、やっぱり安定した拠点を求める身としては、そのリスクは看過できないわね。よし、情報は得られた。ここはプランBとしても、優先度は低いな)

 本格的な交渉に入る前に、お礼を言ってその場を離れることにする。深入りは無用だ。

「教えてくださって、ありがとうございます! 少し、考えさせてください!」

「おや、泊まっていかないのかい? まあいいさ。気が変わったらまた来な!」

 女将さんは、豪快に笑って店の中へと戻っていった。
 うん、人柄は悪くない。むしろ、好きだ。でも、やはり私の求める「静かで安全な拠点」とは少し違う。
 私は、女将さんにもう一度心の中でお礼を言うと、最後の、そして本命の候補である『木漏れ日の宿』を目指して、再び歩き始めた。
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