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しおりを挟む「かわいい……」
黒いレースワンピの僕を、じっと見つめるイナリが言う。
彼は美しい顔をしているが、その細い狐目がイヤらしい。
この目だ。このイヤらしい目。
だいたいの男子が向ける欲望の目。
やだやだ、僕は男なのに、やめてもらいたい。
昔からそうだった。
中学になって、このような男子たちの視線が突き刺さり始めた。
まず、僕は学ランがまったく似合わない。
明治から導入された詰め襟の学生服のことだ。
ちなみに、学ランのランはオランダのランである。
同級生の男子から言われたのは、彩人はセーラー服を着たほうがいい、と言われた。
ちなみに、もともとセーラー服は海軍の男が着る軍服なのだが皮肉なものだ。
今思えば、単純に僕のスカート姿が見たいのだと受け取ればよかったのだが、当時の僕にとっては言葉の暴力だった。
それほど、ナイーブな年頃なのだ。
まるで、ガラス細工のような、繊細な心。
そんな心は傷つきやすい。
僕は引っ込み思案になった。
なるべく、目立たないように細々と生活をする。
そんな学生時代だった。
したがって、進学する高校は商業にした。
男子がほぼいないからだ。
もちろん制服はブレザーを採用している学校を選んだ。
そこで僕は、“ 女子の生態 ”を知ることになるのだが、まあ、思い返すと長くなるので、今はやめておこう。
そう、今から男とデートしないといけない。
バカみたいに憂鬱だ。
なんだって僕が召喚され、自然災害を起こす竜か知らないが、そんなやつの生贄にならないといけないんだ。
「まったく……」
そう、僕がぶつくさと文句を漏らしていると横から、
「あの……」
と声をかけられた。
お姉さんみたいな美しい声、イナリがこちらをじっと見つめている。
「本当にアヤ様は男なのですか? 顔も声も完全に女の子ですよ? むしろ、女の子より可愛いらしい」
そう言ってイナリは、視線を滑らかに移していく。
僕の顔や身体のライン、さらにスカートのなかに……。
ああ、このイヤらしい視線は知ってる。
電車でたまに感じる視線だ。
まるで、欲情した男のような視姦。
美青年のイナリがこんなに興奮するなんて、僕のワンピース姿はヤバいな、男には刺激が強すぎたのかもしれない。
ああ、やだやだ……。
僕は首を振って、
「じろじろ見ないで……」
と、ささやいた、
「うう……」
イナリは口を手で押さえて赤面した。
なんだこいつの反応は?
まるで性欲丸出しの男じゃないか。
綺麗な顔してるくせに、考えることはその辺の男とさして変わらない。
獣人と言っても、所詮はオス、ということなのだろう。
すると、僕を生贄にする男、リュウがやって来た。
彼は自信満々で、常に勝ち誇ったような顔をしている。
おそらく、今まで挫折を味わったことがないのだろう。
はっきりいって、僕はこういう顔をした男が嫌いだ。
学校や職場でリーダーシップを取るタイプ。
いつもポジティブで、みんなに優しくて、平等で、将来が約束されたヒーロー。
僕とはまったく正反対な存在。
力持ちで、頼りになって……。
ああ。
かっこいい……。
くそ、くそぉぉ。
女みたいな僕にはないものを、彼はすべて持っている。
さわやかな笑顔が、今の僕には皮肉に見える。
「着替えたか」
「……はい」
リュウの問いに、僕は下を向いて返事をした。
彼は首を傾け、若干困惑するが、それでも僕から目を逸らさない。
逆に、僕は彼に目を合わさない。
絶対に嫌だった。
か弱い女性を強引に召喚し、生贄にするやつの顔なんて見たくもない。
早く、デートとやらを終わらせて人間界に帰りたい。
そんなことばかり、僕は考えていた。
「少し、庭園を一緒に散歩しないか?」
彼の問いに、僕はこくりと頷いた。
ゆっくりと歩きだすリュウ。
僕は生まれて初めて穿いたスカートがはだけないように、小さく足を動かして歩く。
女子たちはいつも、こんなに動きにくい服を着ているのか、油断して大股で歩いたら、簡単に下着が見えてしまうではないか……。
そう思っていると、難関が待ち構えていた。
「くそ、階段かよ……」
旅館から出た先が石の階段になっている。
ハイキングコースほどの勾配があった。
僕はスカートを押さえながら、ゆっくりと降りていく。
「うぅぅ、このスカート短すぎる、やばっ」
小声でささやくと、何を勘違いしたのか、リュウが僕の手を握ってきた。
「怖いかい? ほら、俺の手を支えにするといい」
はあ? 優しいな、この男。
こうやって、女を喰ってきたのだろう。
僕は思わず、手を振り払った。
「結構です。何も怖くありませんから」
と、吐き捨てて階段を降りていった。
しかも二段飛ばしだ。
もしかしたら、パンツが見えたかもしれない。
僕の黒いボクサーパンツが、チラチラと……。
それでも、かまうもんか。
僕は男だから、別に下着を見られようと、裸を見られようと平気だ、減るもんじゃないし。
「危ないぞっ」
背後からリュウの声が聞こえたが、かまわず進む。
最後の階段で、シュタッと地面に降った瞬間、僕の足はよろめいてしまった。
日頃の運動不足がバレてしまった。
思わず転びそうになったが、ふいに横から手が伸びてくる。
「大丈夫か?」
僕の身体を受け止める大きな手、たくましい腕、それに分厚い胸板……。
男の人特有の甘い香りが鼻をかすめる。
「すいません。大丈夫です」
リュウは謝罪した僕の目を、じっと見つめてくる。
その射抜くような真っ直ぐな瞳は、静かに青い光りを宿していた。
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