竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる

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 リュウに見つめられ、僕はまた下を向いている。
 恥ずかしくて、顔を上げられない。
 そんな僕の頭上に、凛としたイケメンボイスが降る。
 
「そう言えば、まだ自己紹介がまだだったな」
「……あ、はい」
「俺は獣人旅館の主人をしている竜人だ。リュウと呼んでくれ」
「リュウさん……」
「ああ、で、君の名前は?」
「彩……アヤです」

 アヤ、とリュウはささやいてくる、しかも耳元で。
 なんとも言えない誘惑じみた声音に、僕は思わず身が震えた。
 気持ちよさを、感じているのではない。
 嫌悪感を抱いているのだ。
 男から受ける酷い仕打ち。
 ああ嫌だ、もうやめてほしい。
 とにかく、早くデートが終わってほしい……。
 そう思いながら、質問を投げかける。
 
「あの、リュウさん。デートって何をするんですか?」

 ん? とリュウは言って僕の顔を見つめる。
 
「とりあえず、庭を散歩して、それからカフェでまったりしよう」
「……はあ」
「そのあとのことは、決めてない。風に身をまかせるのもいいな。ここ獣人旅館の庭園は素晴らしい景色だから」
「……わ、わかりました」

 なっ、なんなんだ!? 
 ふつうに女子が喜びそうなデートプランは?
 風に身をまかせる、だと?
 よくもそんな歯が浮くセリフを、さらっと言えるものだ。
 この男、相当な手練れだな、と僕は思った。
 それもそうか、百年に一人というと少ない数字だが、時は西暦二〇二〇年、単純計算すれば、弥生時代から二十回ほど人間の女を生贄にしていることになる。
 つまり、経験人数は二十人か、いや、紀元前からかもしれないので、正確な数字はわからない。
 まあ、いずれにしても彼から、そこはかとないヤリチンオーラが漂っていることは確かだ。
 それにしても、現代女性の平均寿命は八十七歳に到達している、という現実に目を向けると、恐ろしいものがある。
 おいおい……。
 何歳まで生贄として見てもらえる?
 というか、ぶっちゃけ、何時代の女がよかったのか、官能的というよりは、歴史的な観点から知りたい情報である。もし、リュウと仲良くなったら聞いてみたい。
 
「では行こうか、アヤ」
「はい」

 リュウに促された僕は、とりあえず横に並んで歩いた。
 心なしか、彼は長い足に対して歩幅が短いような気がする。
 僕の歩みに、合わせてくれているのだろうか?
 
 優しいな、この男……。
 
 そう感心している僕はだんだん、スカートにも慣れてきた。どのくらい足をあげれば、パンツがぎりぎり見えるか、或いは見えないか、という角度計算に基づき行動できるようになっていたのだ。
 ふふふ、今の僕なら、わざとパンチラを狙って、ぴょんと飛んだり跳ねたりすることが可能だ。

 やらないけど……。

 そんなことを考えながら歩いていると横から、

「アヤ」

 とリュウが話しかけてきた。
 
「あれを見てくれ、あそこにいる獣人を」
「ん?」

 僕は目を凝らして、リュウが指さすほうを見つめた。
 そこには、毛むくじゃらの男がいた。
 紺色のオーバーオールに麦わら帽子をかぶっている。
 パッと見は、農家のおじさんとさして変わらない。
 
「おーい、ビアベア」

 リュウの声に反応して、ムクッと顔をこちらに向けた。
 庭木の剪定をしてたのだろう。手にはハサミを持っている。
 リュウと僕が近づいていくと、ぺこりと頭を下げ、顔を上げると僕のことを見つめて、にっこりと笑った。
 
「ややぁ、今年は美少女召喚の年だったベアー」

 ああ、とリュウは頷いた。
 ビアベアと呼ばれた男は、やはり獣人で、熊のような姿をしていた。
 リュウの背も高いが、彼はさらに頭ひとつ高い。
 二メートルはありそうな身長。
 襲われたら、死んだふりしようかな、と思わせるタイプ。
 しかもパンチパーマの頭と、獰猛どうもうな鋭い目つきは、まるで反社会的勢力のような強面だ。
 そんな彼だが、意外にも秒で相好を崩した。
 
「リュウ様ぁ、かわいい女の子でよかったベアー」
「……」

 うむ、と言ってリュウは僕のほうを見つめた。
 え、なに?
 リュウも僕のことを、かわいいと思っているのだろうか。
 はぁ……。
 そんないやらしい目で見ないでもらいたい。
 僕は本当は男なのだ。
 それでも、リュウと話してみてわかったことがある。
 竜人であるこの男、そんなに悪いやつじゃなさそうだ。
 もしかしたら、僕が男だと真実を明かしても、簡単に許してくれるのではないかと、そう思えてきた。
 先ほど、獣人旅館の執事イナリは“ 殺される ”なんていって脅してきたが、おそらくデートさせるために嘘をついたのだろう。
 それに、イナリは狐だ。
 人間を騙すことくらい平気でやってのけるはず。
 よし、それならあとはタイミングがいいところで、僕は男だと白状し、人間界に返してもらおう。
 百年に一人の生贄か何か知らないが、今まで簡単に美少女を手に入れていた罰が当たったんだ。
 残念でした、僕は男だよ、リュウ。

「なあ、ビアベア、今の見頃の花は?」
「そうベアーね……山茶花サザンカなんかいいベアー」
「なるほど、ちょっと行ってくる」
「ああ、リュウ様、でも気をつけるベアー」

 ん? とリュウが訊き返すと、ビアベアは腕をしならせる仕草をした。
 
「あの辺りは蛇塚が近いので……」
「そうか、やつらは身を潜めるのがうまいからな、注意しておこう」

 麦わら帽子を軽く上にあげたビアベアは、視線を庭木に移し、また黙々と剪定を始めた。
 
「では、行こうアヤ」
「はい」
 
 リュウはゆっくりと歩いている。
 そんな彼は寡黙だった。
 微笑みだけを作っている。
 空気のような存在感、ただ、一緒に歩いているだけ、ただ、それだけ。
 なので、僕は何も考えず流れる自然を眺めていた。
 静かなる庭園、池の鯉、苔の生えた灯籠、整然と植えられた草木……。
 見上げれば蒼穹のなかに、いわし雲が散っていた。
 季節は秋を迎えている。
 思えば、こんなにのんびりと歩くのは久しぶりのことだ。
 その点に関しては、召喚されたことに感謝しなければならない。
 と僕は思った。幸せだ、とも……。
 しばらく、道なりに歩いていると、リュウは辻を西に曲る。
 すると、世界がより美しいものに一変。
 見渡す限り、白や赤の山茶花が咲き乱れていた。
 僕はこのに見惚れている。
 儚く散る花びらが風とともに舞う、幻想的な景色に。
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